●生成文法 せいせいぶんぽう
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変形生成文法,または変形文法ともいう。広義には,1950年代の半ば,チョムスキー(N.Chomsky)によって創始され,以後,世界の言語学界に大きな影響を与えつづけてきた新しい言語理論をさす。狭義には,生成文法というジャンルに入るいくつかの文法理論のうち,変形規則と呼ばれる文法規則をその重要な構成要素とするものをいう。ある特定の言語の文法をモデルとして,それをすべての言語にあてはめようとする,伝統的な「規範文法」ヘの批判から出発,発展した「構造言語学」は,1950年代のアメリカで完成度の頂点に達した。「構造言語学」の特色は,直接観察が可能な「発話」を資料として,言語を関連した一つの全体としてとらえ,一定の内部構造をもつ体系と考える点にある。こうした考え方に立って,まず言語の音声面の研究が発達したが,文法面では,語の構造を対象とする形態論と,文の構造を対象とする構文論とが発展した。しかし,「構造言語学」では,外在的言語の客観的記述が重視されるあまり,意味とか言語能力のような主観的側面は無視されがちであった。この限界を超える言語理論として創始されたのが,チョムスキーの新しい言語理論である。
【言語観】チョムスキーによれば,言語の本質は人間の主体的な創造的心理能力にある。これは,明らかに「構造言語学」の言語観と対立する。チョムスキーによれば,ある言語とは,文法にかなった無限に多くの文の集合であり,人は無限の新しい文を作り出す言語能力をもち,その能力の内容をなす,〈この集合に属する文のみを生成し,非文法的な文は生成しないような,文生成の規則の集合〉が文法である。この言語能力は,理想的な話者のもつ能力であって,種々な条件によって制約されつつ生成する個別的・具体的な話者の言語運用とは区別される。生成文法の研究の目標は,この言語能力の内容としての文法の解明にある。
【標準理論】チョムスキーは,上記の言語観に立って,生成という概念と変形という規則を用いる新しい言語理論を『文法の構造』(1957)で提唱し,この理論をさらに発展させて『文法理論の諸相』(1965)では「標準理論」を提示した。この標準理論はさらに修正され,拡大標準理論・修正拡大標準理論へと発展している。
標準理論では,言語は図のように組織化される。まず,句構造規則をもつ範疇部門と,これによって生成された範疇記号列に揮入される語彙項目の集合である語彙目録とによって文の「深層構造」が生成され,これが意味部門にインプットされることによって意味解釈が付される。深層構造はさらに変形部門において変形規則が適用され,要素の付加・削除・並び替えなどの変形をへて「表層構造」が生成される。表層構造は音韻部門において音形を付され,発音しうる形が与えられる。こうした深層構造から表層構造への生成・変形の規則が広義の生成文法である。
【発展と影響】標準理論の確立後,変形規則や意味部門を中心に論議が分かれ,「生成意味論」「格文法」「機能文法」等々の理論が提唱されてきている。また,チョムスキー自身も,自己の理論を修正・発展させてきている。また言語能力・言語習得能力の考え方は,「心理言語学」の飛躍的な発達をもたらした。さらに「言語科学」や「情報科学」などにも大きな影響を与えている。
〔参考文献〕チョムスキー,勇康雄訳『文法の構造』1963,研究社
チョムスキー,安井稔訳『文法理論の諸相』1970,研究社
チョムスキー,安井稔訳『生成文法の意味論研究』1976,研究社
チョムスキー,井上和子他訳『言語論』1979,大修館書店
今井邦彦『変形文法のはなし』1975,大修館書店
井上和子『変形文法と日本語』上・下,1976,大修館書店
奥津敬一郎『ボクハウナギダの文法』1978,くろしお出版
「言語」1972年12月号,大修館書店
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