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●性 せい

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 生殖に関連して男女をなりたたせているさまざまな特性の総括的概念。性に対する認識や価値観は文化によって異なり,また日本文化において時代によっても大きく異なる。現代はテレビや雑誌に性が氾濫し,性教育の必要性がとかれるほど性が日常的なものになっているが,これは近代以降の国家による性への種々の抑圧からの離脱であり,人々の性意識の変化をもの語るものであろう。以下では,日本の伝統社会における性のあり方を中心に述べておこう。

【若者と性】日本の村落社会では,今日ではほぼ消滅しているが少なくとも第二次世界大戦前まではほぼ全国的に若者宿(寝宿・泊り宿)が存在し,15歳前後で元服祝い・烏帽子祝い・兵児祝いなどの成人儀礼を終えた若者は結婚までの期間,夜間は若者宿に宿泊する習慣があった。同時に,地方によってはその衰退の時期は若者宿より早いが,娘宿が存在したところもある。若者宿は一つには年長者から農漁業の技術や神楽など伝統芸能を習得する場であったが,その最大の機能は配偶者をみいだすための機関であった。といってけっして男女の乱行の場ではなく,若者による一定の掟が定められ,それに従いながら秩序が保たれた。若者宿での生活期間中に娘仲間との交渉をもったり,よばいの習慣を通して,しだいに特定の相手との恋愛関係を樹立し,自己の意志により配偶者を選択したのである。配偶者が決定すると,結婚当初は『源氏物語』の世界にみるように,夜だけ妻のところを訪ねる訪妻婚や子供が誕生ないし一定年齢に達するまでは妻方に婚舎を置く習慣が広く行われ,子供の成長・親の隠居などを契機に夫方に引き移った地方は多い。ちなみに,若者宿の習俗は,東南アジアや太平洋の島々・アフリカなど世界各地にみられる。

【婚姻と性】庶民の結婚は以上のように村内婚・恋愛婚・婿人り婚が主体を占めていたが,近世以降の武家社会においては,その社会を支えた家父長制の家族原理,そしてその根幹となった儒教思想の浸透により,村外婚・嫁入り婚・見合い婚が普及し,その形式はしだいに庶民社会にも及んだ。その結果,とくに女性の側には処女性や貞淑であることが要求され,性に対する意識は大きく変化した。のみならず,配偶者の選択において相手の家柄や職業・親の評判などが規準とされ始め,ひいては今日の結婚でもほとんど欠かされることのない仲人という役割が重要性をもったり,また嫁と姑との葛藤というような副次的な要素や問題を派生させた。

【性と祭り】日本人は古来,性については比較的おおらかな民族であったといえよう。それはたとえば子供の童歌や各種作業歌などにエロチックなものが多くみられることでもうかがい知れる。その一つの要因は性が受胎や豊穣と結びつけながら観念化されてきたからであろう。男根を型どった石祠や道祖神が妊娠や安産の神として信仰されたり,神社の祭札や豊年を予祝する田遊び神事などで男女の性交為が象徴され,また性器を誇示する場面が取り入れられているのはほぼ全国に共通する。

【性への抑圧】庶民社会におけるおおらかな性の伝統は,明治期に入り急速に国家からの抑圧を受けることになる。その要因の一つは,明治政府が国の統合の上で模範とした価値観が近世以降武家社会に受容された儒教的倫理観であり,家父長的家族観であったことによる。また一つには,近代化への脱皮過程で欧米社会を模範とし,それに追いつくことに躍起となり日本の伝統的な習俗を古い悪習として排除する方向がとられたことにあろう。その結果,風紀矯正という名目のもとに,若者宿のような古来の習俗は消滅の一途をたどり,また性が多様に象徴された各地の祭りの一部が禁止される状況をきたしたのである。こうした風潮が再びつき崩されてきたのが現在という時代であろう。