●垂直思考・水平思考 すいちょくしこう・すいへいしこう
AD
【心理学上の問題】問題解決には時間的順序に関する垂直的過程と同時的な関係に関する水平的過程とが存在すると説明している。(『新版心理学事典』1981,平凡社)【歴史学上の問題】普通に“時間と空間”の問題として把握されている。ときには歴史的・地理的な考え方として把握されている場合もある。いずれも時間−歴史的が縦(たて)で垂直的思考につながり,空間−地理的が横(よこ)で水平的思考につながるとされている。
【垂直的思考】過去−現在−未来という時間的問題にかかわる思考,いわば縦的な考え方である。その場合,自己に視座を置いてみると現在は刻々過去となり,未来は刻々と現在になり,さらに過去となって行く。そのようなときの流れが時間としての歴史の軌道である。その軌道の上に人々は未来を夢み,希望を託し,あるいは不安を抱く。そしてその実現を喜び,あるいは悲しむ。その結果をもとに再び未来に立ち向かうのが現在であり,その満足感も不満足感も思い出として残されてゆく。それを書き記した記録が歴史的史料となる。さらに先人の残した史料をもとにいろいろ思いをめぐらす事などは垂直的思考にほかならない。
歴史書としてはそうした昔へさかのぼる式の倒叙史もあるが,古来年代史的な歴史叙述の方が普通である。
【水平的思考】われわれが個人に視座を置いてみるときですら,その生活の場にはすでに一定のひろがりがある。ときと同時に所(ところ)すなわち“空間”が存在する。生活活動が活発になるに従い,その空間は拡張し,人々との接触も多角化し,思考範囲も拡大し,近隣→全国土→友好諸国→異文化圏→全世界へと水平的に横に伸張して
歴史書における同時代史はその横へのひろがりに重点がある。国際関係史や,文化交流史など横の関係を無視しては成立しない。
【垂直思考・水平思考の応用】すでに述べたごとく,われわれが歴史学的研究を行う場合でも,歴史的解釈を試みる場合でも,つねに“時間”(たて)“空間”(よこ)の考え方を踏まえてかかることが必要である。
今,“歴史教科書の比較法的研究”というテーマを一例としてあげれば,次のような観点からのアプローチが考えられる。
[1]水平的比較について たとえば,わが国の歴史と他国の歴史との接点を取り上げてみよう。その場合,双方の立場なり,利害なりは常に必ずしも一致はしない。ときには正反対の場合すらあり,戦争という具体的な史実となって現れる事も決して少なくない,この場合,双方の事情を正確に調査して,適正な解釈に進むのが歴史的方法であり,双方の言い分を公平に聴いて適正な判断を下すのが国際理解の教育のあり方でもあろう。ここにあげた2国間の歴史上の接点にさらに第3国のその点に関する立場をもあわせ比較してより広い見解に到達することも可能である。さらに同一の歴史的事象に関連する数多くの国々の立場を何らかの共通問題に絞って,それぞれ一つの結論を導き出すと言う方向にも発展することが可能であろう。
[2]垂直的比較について一般に“平安文化と鎌倉文化”や“大化の改新と明治維新”などの比較も考えられるが,両者の間には時間的経過がみられるとはいえ,それはある状態とある状態との静的(static)な比較である。ここではさらに動的な比較を試みたい。現代は刻々過去となり,未来は刻々現代となる現代史の推移,その上限もさることながら,とくにその下限の研究,最も流動的な現代に注目したい。現代がいかにして歴史になるか,歴史的位置づけを獲得するかを教科書叙述を史料として比較することにより把握しようとするものである。
〔参考文献〕E. デボノ,白井実訳『水平思考の世界』1969,講談社
上野実義『歴史教育における比較法の研究』1979,風間書房