●ズー=アンヌーン
アフリカ エジプト・アラブ共和国 AD796
796ころ〜859 エジプトの著名な神秘家であり,同時に錬金術師。具体的な経歴についてはあまり知られていない。彼は神秘道における「愛」の重要性を認め,脱自冥合の法悦にまで人々を導くのは修道者の胸のうちに奔る「愛」の火焔のみであると説き,このような愛を芳醇な美酒の盃にたとえている。後世ペルシアのスーフィズム詩人たちのあいだでは,神秘主義的愛が酒になぞられたが,この比喩を最初に確立したのはズー=アンヌーンでといわれる。彼は,さらに「愛」の導きによる修業過程の内的意義を反省し,それを分析的に把握した。彼は神秘道を3段階に分けている。第1は浄化の段階で,それがまた多くの精神的階梯に分かれるが,自分の側からの努力によりしだいに我性を脱却し,霊魂を清澄にしていく。第2は脱自の段階で,清澄の度が増すにつれ,神の恩籠が上方から加わり,自らの側のはからいがしだいに消滅していく。第1段階が諸宿処(マカーマート)と呼ばれるのに対し,第2段階は神の賜物として開始するので諸状態(アフクール)と呼ばれる。この段階を登りつめた極致においては,人間の私的活動はことごとく止み,霊魂は突如として「神の顔」を目撃し,真実在の奥処をきわめる。これが安定(タムキーン)と呼ばれる第3の,最高の段階である。ズー=アンヌーンは,この絶対境において修業者が体得する幽遠な認識を,一般の知(イルム)と区別して「マアリファ」と呼んだ。マアリファは,ヘレニズムおけるグノーシスに該当する。