●人類起源神話 じんるいきげんしんわ
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『旧約聖書』の冒頭には,神が土のちりでアダムをつくり,鼻に生命の息を吹き入れて,生きた人間の始祖にしたという話がみられる。このように最初の人間が創造神によって,土を材料にしてつくられたという話は,世界の方々にある。古代エジプトにも,万物を創造したクヌムによって,ろくろ台の上で土器をつくるのと同じやり方で,人間の祖先たちが造られたという神話があり,ギリシアにもプロメテウスが,粘土から人間をつくったという神話があった。西アフリカのドゴン族の神話によれば,天地万物を創造したアンマは,太陽や月や大地などをつくったあとで,粘土で子宮とペニスとをつくり,それらを地面に置いて,上から丸めた粘土を投げつけると,それから手足が生え,身体の形ができ上がって,最初の人間の男女になった。これらと似た話は,中国にも,オーストラリアの原住民のあいだにもみいだされる。古代メソポタミアの神話では人類は,世界を創造した神々の王マルドゥクによって,彼に敵対して殺されたキングという悪神の血からつくられた。これはギリシアのオルペウス教の神話で人類が,ゼウスの怒りに触れ,雷で焼き殺された悪神のティタンたちの灰からつくられたとされていたのと似ている。北欧の神話によれば,世界を創造した3柱の兄弟の神オージンとヴィリとヴェーが,あるとき海岸でトネリコとニレと2本の木材をみつけ,それから最初の人間の男女をつくった。男はトネリコからつくられたのでアスクと,女はニレからつくられたのでエンブラと名付けられた。中米のマヤ人の神話でも,最初の人間たちは,創造神のフラカンによって,木を彫ってつくられたと物語られている。このように最初の人類が,神によっていろいろな材料からつくられたという“創造型”の人類起源神話のほかに,人間の始祖が,天から降りてきたとか,地中から出てきたとか,植物の実や卵などから生まれたなどと物語っている神話も多い。韓国の済州島の神話では,最初の人間はこの島に現存している洞窟から出てきた3人の兄弟で,あるとき海岸で木の箱を見つけ,開けてみるとなかから3人の女と五穀と家畜が出てきたので,兄弟がそれぞれ1人の女と結婚して済州島民の祖先になった。このように地中からの最初の人類の出現を物語った神話は,東南アジアやメラネシアなどからも報告されているが,アメリカの原住民のあいだにはとくに数が多い。インドネシアのモルッカ諸島のセラム島の神話では,人間の祖先は,山の頂上に生えていた1本のバナナの木の実から生まれた。インドシナのワ族の神話では,熟したヒョウタンの実が地上に落ちて割れ,その種子から7族が発生した。インドのムンダ人の神話では,白鳥が生んだ1個の卵から男女の子が生まれ,ムンダ人の祖先となったといわれ,フィジー島の神話では,鳥の生んだ2個の卵からそれぞれ,男女1人ずつの子が生まれ,人類の始祖となったとされている。このような“卵生型”の人類起源神話は,東南アジアやオセアニアからとくに多く報告されている。ギリシア神話には,大洪水によって人類がいったん亡ぼされたあとで,箱舟に乗り2人だけ生き残った夫婦のデウカリオンとピュラが,神託に教えられて肩ごしに石を背後に投げると,それがみな人間になり地上にまた大勢の人が住むようになったという話があるが,このように“洪水神話”と結びついて現在の人類の起源を物語った神話も世界各地にみいだされる。
東南アジア,とくに中国の西南部や台湾などでは,生き残った男女が兄妹で,高い木や山のまわりを逆の方向からまわり,出会ったところで結婚したとか,最初はでき損いの子が生まれたが,天神の指示にしたがい結婚のやり直しをすると,満足な子ができたなど,日本神話のイザナギとイザナミの“ミトノマグハヒ”の話といろいろな点で類似したところのある“洪水型”の人類起源神話がみいだされる。
〔参考文献〕大林太良『神話学入門』1966,中央公論社
三品彰英『神話と文化史』1971,平凡社