●深層構造 しんそうこうぞう
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チョムスキーの変形生成文法の用語で,「文法理論の諸相」(1965)によって,その概念が明確に示された。分析的な記述に偏重したアメリカ構造言語学と変形生成文法との差異を最もよく表す概念である。深層構造とは,実際にわれわれが読み,聞くことのできる文の背後に仮定された高度に抽象的な構造であり,その文の意味解釈を決定するものである。変形生成文法の中核となる考え方は,意味解釈を決定する深層構造と,音声解釈を決定する表層構造とは一般に別の物であり,深層構造に対し文法的変形と呼ばれる形式操作を繰り返し適用することで表層構造が決定される,ということである。したがって,深層構造の存在の仮定は変形生成文法の根幹をなすといえる。チョムスキーは「文法理論の諸相」の注釈において,深層構造と表層構造の概念は,フンボルトの内部形式・外的形式のそれぞれに相当するとしている。この一見冗長な二重の構造を考えることで,アメリカ構造言語学においては不可能であったみかけの構文が,異なるのに意味のよく似た文,たとえば能動文と受動文の意味の同一性を,深層構造の同一性で説明できるのである。すなわち,背後にある深層構造は等しく,単に適用された変形操作の数や種類が異なるために表層構造に違いを生じたという説明である。また逆に,みかけの構文が同じで,用いられている形態素も等しい文でありながら,意味の異なる,いわゆる同音異義構文について,あるいは,同一文が異なる複数の意味をもつ場合についても,異なる深層構造が変形操作によって,たまたま同一の表層構造になったものと説明できる。また,深層構造はきわめて抽象的であるために,個々の言語を超えた言語の普遍的構造が研究対象となる。変形生成文法における深層構造は,基底部門において句構造規則によって生成される。基底部門においては,語と語の共起関係が規定され,基本的な文法関係が定義され,具体的な単語が挿入される。この基底部門からの出力としての深層構造は,意味解釈のための意味部門への入力となり,また変形部門へ入力されて変形操作が加えられ,表層構造が導かれる。以上は「文法理論の諸相」に述べられた深層構造であるが,これに対しては,ある文の深層構造をどの程度の深さに設定するかについて,変形生成文法の研究者間ですべて一致しているわけではなく,また,深層構造の位置に意味表記部門を置くことで,深層構造と意味解釈規則は除くことができるという立場もある。すなわち,意味表示を深層構造とし,それに変形操作を加えて表層構造を導こうとするものであり,この立場は生成意味論と呼ばれる。また,「文法理論の諸相」では,深層構造のみが意味解釈を決定すると考えられたが,この仮説が誤りであることが証明され,深層構造・表層構造について部分的な修正が加えられている。構造言語学を乗り超えるものとして提唱された変形生成文法は,構造言語学をモデルとして導入していた文化人類学へも影響を与えた。たとえば,グレマスは,生成意味論の一派である格文法の深層構造を物語の構造分析に適用した。グレマスの物語の構造分析における深層構造は,登場人物の類型と行為の類型とで図式化される。これは,格文法が述語命題を文の深層構造にすえたものの,物語への拡張である。