●新産業国家 しんさんぎょうこっか
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アメリカの経済学者ガルブレイスによって用いられた概念で,巨大法人企業が経済的・社会的・政治的に大きな影響力をもつにいたった経済社会のこと。現代社会においては,技術は進歩し,機械が普及するとともに,産業社会の規模は拡大化している。技術の進歩は,生産を細分化し,生産工程を時間的に長いものとし,生産に必要な資本量を巨大化し,専門的な人的資本を必要とし,その専門家を一つの目的達成のために調整する巨大な組織を必要とし,さらに,産業上の計画化をも必要とするであろう。このような状況のもとにある現代経済社会を新産業国家と呼ぶ。工業化のすすんだ社会の第1段階を産業社会と呼び,次なる段階を新産業国家と呼ぶならば,それらは,次のような性格によって特徴づけられよう。第1に,産業社会においては,企業での意思決定が経営者という個人によって行われるのに対し,新産業国家においては,巨大化した企業内の1集団によって意思決定が行われる。従来は,資本を所有する事業家が企業組織での指導者としての位置にあり,その意思決定を行っていたが,技術の進歩・現代的法人企業の勃興・所有と経営の分離に伴って,企業の意思決定の中心的担い手は1個人ではなく,また,一部の経営陣のみでもなく,広く専門的な知識・情報・才能・経験を有する人々によって行われるようになる。ガルブレイスは,このような人々を〈テクノストラクチュア〉と呼び,新産業国家の重要な構成要因の一つであるとしている。
第2に,企業の意思決定がテクノストラクチュアという集団によって行われるようになると,企業自体の性格も変化し,その目的を産業社会における利潤極大化から,テクノストラクチュアの自主性の維持とそのための安定した利潤の確保へと移る。さらに,安定的企業成長のためには,激しく変動する総需要を規制する必要が生じ,高度の教育・技術を有した労働力の確保を必要とする。これらは,1企業によっては有効に操作しえない問題であり,ここにいたってテクノストラクチュアは,国家を自らの目標に同化・適応させることを通じて,消費者をも自らの目標に適合すべく規制してゆく。いわゆる“消費者主権”から国家をも巻き込んだ“生産者主権”への移行が新産業国家においては生まれると考えられる。
第3に,企業の安定成長のために,消費者に働きかけるためとともに,巨大化した組織を維持してゆくために,企業は周到な計画をもつようになる。それは,消費者・国家をも包含した計画である。経済には,小規模企業が数多く存在している部門と,巨大企業が,大規模の資本を擁し,高度に組織化された部門とが存在している。前者においては,各個別企業は市場を支配する力を有さず,市場機能に対して受動的な立場に立っている。一方後者においては,巨大企業は市場を操作し,価格を調整し,能動的に市場機能に関与し,そこでは,計画が中心的な役割をもつこととなる。ガルブレイスは,かかる経済の部門を〈計画化体制〉と呼び,これが,新産業国家の主要な特徴であると述べている。資本主義経済のなかで,この種の計画化体制が大きな役割を占めるにつれて,しだいに社会主義経済に近づくと考えられている。あるいは,近代的な大規模生産・巨額の資本の必要・高度の技術・さまざまな経済的統制は,巨大企業・計画化体制の組織化によって帰結されるが,これらはイデオロギー上の体制を超えて,産業社会として一つのタイプに収斂してゆくものとされる。それは資本主義・社会主義といった方法の違いはあり,みかけ上は異なっている体制であるにもかかわらず,いずれも市場経済と計画化体制とが混在し,国家による総需要の管理がなされ,消費者主権が大幅に制限されるなど,基本的な面でたがいに接近しつつある。いわば,新産業国家は,体制を超えた一つの組織を規定する概念である。
〔参考文献〕ガルブレイス,都留重人監訳,石川通達・鈴木哲太郎・宮崎勇訳『新しい産業国家(第三版)』1980,TBSブリタニカ