●冗談関係 じょうだんかんけい
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社会人類学の用語の一つで,他人をひやかしたり,からかったり,あるいはふつうなら絶対に口にしてはならない呪いの言葉で相手を罵倒し,そうされた当の相手はなんら立腹しないばかりか,好意や愛情の表現としてそれを受けとるような二者間の関係をいう。この種の,いわば基準化された社会関係は,おもにアフリカを中心として報告されてきたが,アジア・オセアニア・北アメリカにおいても非常に広範に分布している。冗談関係の形式は多様で,ある場合には冗談やからかいはただ言葉の上だけにすぎないが,別の場合にはばか騒ぎや盗みさえも含まれる。ときには儀礼的奉仕の役目も果たさねばならない。総じて冗談関係にある者は,猥褻なことも気がねなく話せる。誰が冗談関係のパートナーになるかも様々だが,母方オジと姉妹の息子,交叉イトコ同士,祖父母と孫,異なるクラン(氏族)のメンバー同士,部族間等で見出されることが多い。ガーナーのロダガー族では,儀礼に際して姉妹の息子が母方オジのところから供犠獣の左前足を盗む。ルワンダのギガ族では,父系クラン内のどの家族集団も他の特定のクランのinzuとのあいだにubseという関係を結ぶが,それはinzu間というよりクラン間の関係であり,二つのクラン間で妻のやりとりが行われる。ubseのパートナーは,言葉の上の罵しりだけでなく,死んだねずみを与えたり,相手の家に行き,その家の山羊を勝手に解き放ったりする。しかしこれらの行為は相手を心底から怒らせるものではない。またubse間では儀礼的奉仕も行われる。パートナーの集団の婚礼で女性の生殖力を強めたり,葬儀で死の穢(けが)れから人々を浄めるのもubseの役目である。タンザニアのカグル族では,冗談関係はutaniといわれ,そのパートナーはwataniと呼ばれる。領土が隣接するクランのメンバーがwataniになる。wataniは,死・禁じられた性関係・違反行為などから生ずる穢れをパートナーから儀礼的に除去する役目をもつ。また,祖父母・孫などの互隔世代の人々,交叉イトコ・父の姉妹らとの関係はwataniとの関係に類似するといわれている。とくに互隔世代の人々および交叉イトコとは大変自由にふるまうことができ,性に関する事柄も自由に話しあうことができる。
ラドクリフ=ブラウン(1881〜1955)は冗談関係を,その正反対の行動様式を示す忌避の関係とセットにして,「社会的接合」と「社会的分裂」という概念で説明しようとした。たとえば,夫の家族と妻の家族の関係は利害が対立し,衝突と敵意の可能性を含む(社会的分裂)が,妻は結婚後も実家との関係をもちつづけ,実家の側も娘とその子供への関心を通じて夫の家族と関係をもつ(社会的接合)。こうした二律背反的関係において安定した秩序を維持するためには,二つの方法があり,一つは双方の姻族が極端な相互的尊敬を保ち,直接の個人的接触を制限すること(忌避),もう一つはこれと正反対の冗談関係で,両者間の深刻な敵意を未然に防ぐ,とラドクリフ=ブラウンは主張する。彼のこの説は単純すぎるきらいがある。しかも彼特有の機能を重視する説明であり,当該社会の価値体系やコスモロジーのなかでの位置づけを十分に考慮に入れていないため,さまざまな民族誌の事例にうまく当てはまらないことが多い。さらに彼流に論を展開すれば,あらゆる種類の人間関係に分裂と接合が見出され,あらゆる場合に冗談関係か忌避のいずれかが存在しなければならないことになり,説明としての妥当性を失ってしまうことになる。
機能とは別に,社会の価値や観念の体系における冗談関係の位置づけを解明しようとしたのが,P.リグビー(1938〜)やM. ダグラス(1921〜)である。リグビーはタンザニアのゴゴ族の分析で,冗談関係のパートナーが,社会の「構造」(法的権威の譲渡・世俗的秩序・曖昧さのない分類によって特徴づけられる)と「コミュニティ」(反分類・非ヒエラルキー・両義性によって特徴づけられる)という二つの現実の仲介者となることを示した。ダグラスはこのリグビーの説をさらに展開させて,冗談とは,社会のさまざまな領域を結びつけることで,ヒエラルキーや秩序,支配的価値を軽視し,異なる次元への現実へ目を向けさせるものであることを説く。彼らの理論はラドクリフ=ブラウンのそれよりも説得力はある。しかし,冗談や忌避によって構造とコミュニティが生成され分節されると説くのではなく,構造とコミュニティをすでに存在する所与のものとしてとらえ,それを仲介するために冗談という形式が使用される,あるいは,あるヒエラルキーや秩序の存在を前提とし,それらを疑問視し,別の現実へと向かわせるために冗談が生み出されると想定しているために,構造やコミュニティの生成を説明できないという欠点がある。
〔参考文献〕石井真夫『母方のオジをめぐる親族慣行』(『社会人類学年報』3,1977.)
石井真夫『連続と不連続』(『民族学研究』44,1979)松園万亀雄『冗談と忌避の人類学』(蒲生・山田・村武編『文化人類を学ぶ』)1979,有斐閣
ラドクリフ=ブラウン,青柳まちこ訳『未開社会における構造と機能』1975,新泉社