●呪物崇拝 じゅぶつすうはい
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【定義】神や精霊がやどっているとみなされている加工された物体を信仰・儀礼の対象とする呪術・宗教的現象一般をさす。広義には,自然物そのものに対する信仰(自然崇拝)や護符などの神霊と直接関係しない物体をめぐる信仰をも含めることがある。【語源と研究史】呪物の語源は,ポルトガル語のフェイティソといわれている。15世紀以降盛んになった西アフリカとの交易の際,ポルトガル人水夫たちは現地の諸種族が彫像などに神霊がやどっているとして崇拝の対象にしていることを発見した。そのようすが,ポルトガル本国のフェイティソと呼ばれる好運の護符をめぐる民間信仰と類似していたところから,それらの信仰対象をその名でよぶようになった。しかし,この語を宗教学的用語として定着させたのは,フランス人学者ド=ブロスの功績である。彼は1760年に刊行した『呪物神崇拝』において,当時の西アフリカからヌビアにかけた地域に住む黒人たちの信仰と古代エジプト人のそれとの類似性を指摘して,それらを“呪物崇拝”と名づけ,さらに同様の現象がキリスト教徒などの“選ばれた民族”を除く古代民族および当時の未開民族に広くみいだされるものであると論じた。だが,注意すべきことは,ド・ブロスの呪物崇拝は人工物よりも自然物を強調している点で今日の用法とは少々異なり,また彼は呪物崇拝を宗教の唯一の起源とは考えていなかった。ド・ブロス以後,呪物崇拝はさまざまな学者によって論じられた。人間精神進化の三段階説を唱えたコントもその一人である。彼の説では,人類の知的進化は神学的・形而上学的・実証的の3つの時期をへるが,そのうちで最も原初的な神学的段階はさらに呪物崇拝,多神教,一神教の3つの時代に区分される。彼にとって呪物崇拝とはむしろ自然崇拝に近いものであり,宗教の起源と考えられるものであった。その後もスペンサーやタイラーらによって論じられたが,しだいに自然崇拝,アニミズム,アニマティズムなどの説のなかに包摂されるようになってきた。現在では宗教起源論自体が不毛とされており,この語は加工物の信仰というより限定された用いられ方が一般的となっている。
【呪物のさまざまな形態】フェティッシュの語の発祥の地となった西アフリカでは,神霊が一時的もしくは永続的にやどる物体として,種々あげられている。動物・貝・蛇の皮・鉄片・歯牙・ビーズ・小石・ぼろ布・特定動物の角や蹄などで,これらは厖大なリストのほんの一部である。その用途は個人用と公共用とに分かれるが,いずれにしても,交易・戦闘・狩猟の成功や敵・病気・災害からの保護を目的としている。また,神霊の象徴としての呪物の例としては,祖先祭祀の際に用いられる先祖の遺骨・遺物や神霊そのものをかたどった彫像・画像などがある。神道における鏡や刀剣といった御神体も,この意味での呪物と考えることも可能である。以上からも明らかなように,呪物の範囲は厳格に定められるものではなく,それを偶像・神体・トーテムさらには神霊そのものと明確に区別することは多くの場合に困難である。
【非宗教的用法】ここでは比較宗教学的観点から fetishism の意味を説明してきたが,この語は精神分析学やマルクス主義の術語としても使用されている。精神分析学では,異性が身につけた靴・肌着などの着衣類や性器以外の特定身体器官に異常に執着する一種の性的倒錯を意味する。またマルクスの用語ではふつう物神崇拝と訳され,商品世界でみられる商品・貨幣・資本の神秘的性質を呪物のように崇拝する態度をさしている。
〔参考文献〕古野清人『古野清人著作集第2巻』1973,三一書房
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