50音順    語句から検索する

●呪術師 じゅじゅつし

AD  【定義】呪術を行う者。呪術にはさまざまな種類があり、一部の比較的単純なものは一般の人々でも実行できるが、多くは特殊な技術を習得した専門家の手によるものであり、ふつうそれらの者を呪術師と呼ぶ。呪術の形態は文化ごとにかなりの相違があり、それに応じて呪術師の社会的地位、機能、意味もさまざまに異なる。一般に、呪術は私的な場で行われ、依頼によって呪術師が介入してくるのであるが、旱魃時に雨乞い儀礼を行う雨司のように、公的な場で活動する呪術師もいる。

【呪術師とそのほかの呪術・宗教的職能者】ふつう呪術は組織だった祭祀教団をもつ宗教とは区別されている。そこで、呪術師は、教団の教義を精緻化し、祭式を主宰する祭司や僧侶といった聖職者とは区別される。しかし、教団の組織化・専門化の進んだ世界宗教や民族宗教は別として、多くの民間信仰や自然宗教の領域では、実際に呪術との境界を画定することが困難なケースがあり、その場合には、同一人物が祭司と呪術師との役割を兼ねることがある。雨司などの公的呪術師にはとくにそのような傾向がみられる。また、病気治療を専門に行う呪術師は呪医と呼ばれることがあり、卜占を行う占師が同時に呪術師である場合もある。さらに、他人に危害を加える黒呪術はときには邪術と呼ばれることもある。社会人類学では、習得した技術としての邪術と生得的な神秘力によって他人を傷つける妖術とは一般に区別されている。witch はヨーロッパ近世史では悪魔と契約を結んだ魔女として知られているが、妖術師と訳される場合には女性に限定されない。また、精霊に憑依されたり、逆に、身体から遊離した魂が神霊と接触したりして、超自然界とのコミュニケーションをはかるシャーマンも、その過程で病気治療を行い、呪術師としての役割を果たす例も多い。

【呪術と政治】いわゆる未開社会において、政治的権力者がしばしば偉大なる呪術師でもあるという報告がなされている。この“王としての呪術師”というテーマを論じたフレーザーによれば、このような現象はオーストラリア、メラネシア、東南アジア、アメリカ=インディアン、アフリカなど広範な地域にみられ、とくにアフリカの王や首長は公的呪術師である雨司から発展してきたものである。同様の現象は、古代以降のインド=ヨーロッパ語族系の諸民族にも存在していたものであり、近代のイギリスやフランス王にまつわる伝承にもその痕跡がみられるという。フレーザーは、〈王は呪術師として出発しながら、しだいに呪術行為を祈祷や供犠などのような祭司的機能に転化していく傾向がある〉と述べている。これはその後、“神聖なる王”をめぐる諸問題として論じられているものである。

【呪術師と精神分析医】呪術師の重要な仕事の一つは病気治療である。誤った自然認識にもとづく“偽科学”とフレーザーは難じたが、とくに心因性と思える疾患の際には、呪術による治療が実際的効力をもつという報告が多くの社会からなされている。フランスの構造主義的人類学者レヴィ=ストロースは、この点に関して、呪術師の呪術と現代社会の精神分析医の心理療法との類似性を指摘している。すなわち、両者とも、無意識にとどまっていた心理的葛藤や抵抗を患者に意識化させることによって取り除き、病気を治す点で共通している。ただ、意識化の過程で構築される神話が、精神分析の場合には患者個人の過去を素材とするのに対し、呪術の場合には患者外部の社会的神話を利用するところで異なるのである。つまり、精神分析医は患者に語らせるのに、呪術師は社会的に通用している神話を自らが患者に語って聞かせるのである。

〔参考文献〕J.フレーザー 永橋卓介訳『金枝篇』全5巻、1966〜1967、岩波書店

C.レヴィ=ストロース 荒川幾男ほか訳『構造人類学』1972、みすず書房

吉田禎吾『呪術』1970、講談社


旅研トップページ