●住民参加 じゅうみんさんか
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政府・自治体・企業等の政策の決定過程に,地域住民が参加すること。地域住民の直接生活にかかわる問題については,その地域の住民の意思が尊重されなげればならないからである。〈人民の,人民による,人民のための政治〉が民主政治の基本原理であり,これを国レベルで国民主権と呼ぶならば,地域レベルでは住民主権と呼んでもよい。本来,民主政治が行われるためには,直接国民が立法や行政の運営を行う直接民主政治が基本である。しかし,現在のように政治が複雑,高度で多岐にわたる国家においては不可能である。そこで,国民が選出した代表者が主権者たる国民にかわって,立法や行政の運営を行う間接民主政治をとらざるをえない。近代国家では,とくに国レベルにおいては間接民主制を採用し,日本もその例外ではない。しかし,いったん代表者が選出されると,もはや選出母体である国民の意思から遊離してしまうという弊害があることも事実である。このような間接民主制のもつ欠点を補充して国民主権にふさわしい政治を実現するためには,技術的に可能であり,かつ適切であるかぎり直接民主制を採用すべきである。そこで,地域住民の生活に直接かかわりを多くもつ地方レベルにおいては,直接請求の制度を採用しているのである。このような,選挙権,被選挙権,直接請求権等の法制上保障されている政治参加の枠にとどまらず,さらに一歩すすめて積極的に住民自身の生活にかかわり,影響を与える政策の形成・決定・執行の全過程に住民の意思を反映させようとする住民参加の運動が高まっている。最近の住民参加の運動は,住民の権利意識,主体意識の高まりをあらわしているものであり注目に値する。【住民参加の背景】わが国では,1960年(昭和35)ころから,世界に例をみない多数の住民運動が全国的に行われている。住民運動は,地域社会の日常性のなかから,住民の生命の安全と暮らしを守る権利を原点に,個別的目標をかかげて運動したが,やがて広く,特定の政治的・経済的・社会的・文化的問題にまで拡大してきている。住民運動は本来,住民自らが直接参加しない政策の決定,実施に対する反対の意思表示である。とくに経済優先の開発計画が,住民の生活を犠牲にして展開したことに対する抵抗運動としておこったが,今や民主福祉の立ち遅れや後退,あるいは反核・平和運動にいたるまで多様な展開をみせている。昭和30年代以降の高度経済成長政策の推進は地域社会の構造に大きな変化をもたらした。大都市地域,地方の拠点都市地域への人口・産業の集中,農漁村地帯の人口の減少という,いわゆる過密,過疎の現象である。これが地域社会における行政需要に大きな変化をもたらした。大都市圏ではかねてから道路,港湾,工業用水,上下水道等の産業基盤の整備が行政に求められていた。最近では過密がすすむにつれて,住宅政策の推進,し尿・ゴミ処理などの清掃設備,保育所や学校教育施設の設置,広場,公園,集会所等の文化施設や福祉施設など,いわゆる民生基盤整備にかかわる要求が強く出されている。また大気汚染,水質汚濁,騷音,地盤沈下などから生活と健康を守るための公害防止の諸要求が住民運動を通じて,各自治体に緊急な解決を迫っている。また過疎地帯においても,地域開発,文教・医療機関などの各種のサービス設定などのさまざまな過疎対策が必要とされている。このような行政需要に対応する自治体の施策が不十分であったところに,自律的市民の能動的な住民運動がおこってきたのである。戦後のわが国は,国民の政治参加の基底として,地方自治体における住民自治に期待をかけて地方自治法を制定した。しかし,こうした住民自治の理念は,必ずしも地方自治の制度や地域住民の意識のなかに浸透し定着しなかった。地方自治が成り立つためには,自治体が自主的に決定できる固有の政策領域と財源が確保されなければならない。しかるに,政府と地方自治体との事務および財源の配分は,外見上の民主化にもかかわらず,きわめて不十分であり,その実態は「三割自治」といわれるように,地方自治体の固有事務および財源,すなわち租税総額に占める地方税の割合は,いずれも30%程度にすぎず,加えて,中央の統制が強く,地方行政の活動を硬直化させてきたのである。このような実態の下で,住民の自治活動は,政治への参加を通じて自治意識を高め建設的政策を進める方向には進まない。むしろ,抵抗あるいは抗議行動という住民運動をとらざるをえなかったのである。
【住民参加の形態】住民参加の形態は二つに大別することができる。すなわち,システム型参加と運動型参加である。システム型参加とは住民参加が制度化されており,住民がシステムに参加して,計画策定や行政運営の上に住民の意思を反映させようとするものである。従来は,公聴会・審議会方式による住民参加が一般的であり,行政主導型,あるいは翼賛型であった。最近は住民集会や地区懇談会等,多様な参加方式も導入されてきたが,まだ改善すべき余地が少なくない。運動型参加は,住民が特定の問題を自ら解決するために任意に組織を結成し,集会を開き,抗議行動,署名,陳情,請願,直接請求,訴訟という方法で国,自治体,企業等に対して要求行動を行うものである。いずれにしても,地方の時代といわれる現在,自治を本当のものにするためには,住民の参加が絶対の条件であり,行政と住民が直接結びついた自治のあり方が望まれる。
【住民参加の現状と課題】空港建設や航空機騒音,あるいは原子力発電所建設等をめぐる住民運動で,つねに争点となるのが,基本的人権と公共性の関係である。全体の利益ないしは利便のために,個人や特定地域が犠牲にならなければならないかという問題である。住民運動が単なる個人や特定地域の個人エゴや地域エゴによって行われてはならないことはもちろんである。とともに,公共性の名の下に,基本的人権を侵すものであってはならない。公共性の理念は,一人の福祉をも見捨てない全体の福祉の実現を求めることである。そこで,公共性の決定を国または自治体が一方的に定めるのではなく,影響を受ける住民が決定過程に参加して,その公共性を共有するところに住民参加の意義があるのである。高度産業社会の大量生産,大量消費,大量廃棄の経済生活のなかで,最近自治体の重要課題になっているのがゴミ問題である。ゴミ処理をめぐる清掃工場建設や,ゴミ埋立てに反対する住民運動で,最近各地で新しい動きが出てきた。いわゆる「沼津方式」「いわき方式」といわれるゴミの減量運動である。市当局と住民が協議をかさね,可燃ゴミ・資源ゴミ・埋立てゴミの分別収集によって,ゴミの減量作戦が成功した例である。住民運動は従来,抵抗,告発型が多く,抗議集会や抗議行動といったラジカルなものが多かった。しかし最近,住民運動は一つの転機を迎えている。第一は,反核・平和運動にみられるような「草の根運動」である。大衆に訴え,支持を得て,大衆のすみずみまでに広がる大きな運動にしていこうとするものである。第二に,ゴミの減量作戦にみられるように,生活実践のなかで,自らが参加して解決していこうとする動きである。第三は,現行制度で認められた直接請求の制度を活用する動きである。ともあれ,住民自治を定着させるためには,自治体が住民の参加や協力を求めながら,地域住民の希望や要求を汲みあげて,福祉・産業振興・教育・文化等の面で地域の条件や個性を反映した政策を自主的につくり実行していかなければならない。また,住民も自治の主人公として,自己の要求のみならず,利害の調整や公共政策の選択において,公正な判断の力をつけていくことが望まれる。このように,住民も積極的に自治体の組織や運営に進んで参加していくことによって,自治体も活性を保つことができるであろうし,国民主権も活性化するであろう。
〔参考文献〕内田満ほか『現代政治学の基礎知識』1979,有斐閣
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