●シャーマン
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恍惚状態や霊感など特別な精神状態に身を置いて,神霊と直接的に交通する原始宗教の職能者・指導者。和名では,巫(ふ)。語源的にはベーリング海峡からスカンディナビア・シベリアー帯の北方民族,トゥングース族のあいだで用いられている土語からきたとされ,それが広く宗教民族学的用語として使われるようになったといわれる。また,パーリ語のサマナ・サンスクリット語のシュラマナ,中国で仏僧を意味する沙門などから発しているという説もあるが,確証はない。日本では神社に任えるミコ・カンナ・カンナギ・玉依姫(たまよりひめ)・命婦(みょうぶ),それに口寄(くちよせ)系のイタコ・イチコ・ユタなどと呼ばれる。ふつうシャーマンとなるのは,世襲によることが多い。ラップ族やオスチャック族,朝鮮などでもほとんどが世襲制であるが,たとえ世襲であっても,単に外面的なものでなりうるわけではない。シャーマンとなるものは,シャーマン的性向を示すものに限られる。すなわち神経質で憂鬱症,感受性が強く,夢みがちであり,癲癇(てんかん)性を備えていなければならない。これは一種の精神病であり,巫病と呼ばれる。シャーマンが世襲的であるのもこの巫病にかかりやすい家系があるためで,たとえばオスチャック族では,そうした精神的特性を持つ子供を後嗣のシャーマンとして選ぶといわれている。巫病にかかると,ひじょうに苦しい心身の悩みを受け,人間を疎んじて遠ざかりたがり,しばしば食欲を欠く。また神経が異常に過敏になり,野・山・河辺に走り出たり,雪中に眠り神秘的霊感を授かるものもある。こういう症状を嫌い,抵抗を試みようとしても無駄に終わることが多く,むしろさらに危険な症状をきたして生命さえも危うくされるという。この巫病に宗教的意味が付与されると,神霊が憑いたということになって,これがシャーマンとなる基本条件であるが,そのほかに,先入巫(神父・神母)に弟子入りしての訓練が必要とされる。この訓練には個人差や民族によってさまざまな違いがあるが,巫病の制御法から始まり,巫歌の歌唱法,太鼓の打ち方,腹話術,手品,疲労の隠し方,神霊の種別法・勧招法などを習得するという点では,だいたい共通している。こうした祭司的訓練をへた後に,入巫祭を行って社会的に認められたシャーマンとなる。宗教的職能者となったシャーマンがとり行う行事は,ふつうカムラニーと呼ばれる。これは巫者の霊界との交通を意味し,私的には病気治療や占い,公的には供犠そのほかさまざまな儀礼的素養を伴う。歌・太鼓・舞踏,それに麻薬や麻酔剤の使用などによって精神転換を容易にし,亡我状態で神霊との交感がなされる。その後に,現世に甦ったシャーマンがその経験を語るというのが順序である。このような行事をなす際の着衣には,鉄や銅製の吊物,小鈴・鳥獣を型どった飾りものなどをつけている。これもまた,シャーマンの霊界との往還を演出する象徴であろうが,たとえばシャーマニズムの根強い極北地方などでは服飾はさほど重要視されておらず,偉大なシャーマンはかえって厭い,軽視するともいわれる。シャーマンを介在して神霊との交通を行う原始的な宗教形態を“シャーマニズム”という。このシャーマニズムは各地域によって変化に富み,アメリカ大陸では守護霊信仰,アフリカ大陸では呪術が盛んである。しかし,最も特徴的にそれがみられるのはアジア諸国においてであり,日本でも多様な形でなされてきた。部族の長老を中心とする政治とは別に,宗教的行事を専業とする宗教人が発生し,この職業的シャーマンには女性がなる場合が多かった。たとえば巫女(みこ)がそれで,現在では神主など他の神職の補助的な役割を担わされているが,かつては直接的に神霊に奉仕するものであり,宗教行事の特殊な位置を占めていた。また,神社とはかかわりなく死霊や生霊の口寄せをする巫女が,今日なおイタコやユタの名で各地に残されている。