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●資本主義 しほんしゅぎ

AD  【定義】思想史上では近代自然法思想(ホッブス)を源流として、イギリス功利主義(ベンサム)をてことして16世紀イギリスで形成され、自由主義を標榜する。経済体制の一つとして、社会主義とつねに対比されるが、資本主義経済体制は私企業制と競争的市場経済を根幹とする。アダム=スミスの『国富論』を始祖とする古典派経済学(のちに新古典派経済学)はその理論的支柱とされている。

競争的資本主義】無政府生産であるが、個々の経済活動は公平無私な価格機構の〈見えざる手〉により調整され、過剰も不足もおこらず、究極的に社会全体としての効率的資源配分と自然な分配とが実現される。〈自発的交換に基づく協同〉(フリードマン)を特徴とするこの資本主義体制にとって、市場競争はその命脈にかかわる必須条件である。国の内外を問わず競争が貫かれている市場が公平無私な市場であり、そこにはじめて〈自然価格〉(製品価格・賃金率・利子率・地代・利潤率)が見出されるとともに、消費者主権(毎日の円投票による消費者民主主義)が保障されたかたちに生産が編成される。さらに反社会的・不公正の経済行為と非能率な経済活動が排除され、“私益の公益への転化”が約束されるという魔力をもつ。マルクスもいうように〈競争がいつでも自由で、また無拘束であったわけではない〉。競争は売り手にとり悪、買い手にとって善である。いわば両刃の剣であり、弱肉強食と強肉弱食の二面をもつ。現実の代議制民主政治のもとで、売り手の特殊利益は容易に結びつき守られやすいが、声なき消費者大衆の利益は結びつき難くまた無視されがちであり、競争の社会的意味は強まりこそすれ、弱まりはしない。私有財産制は、A.ヤング流にいえば、(白丸1)〈所有は砂を転じて金となす〉という魔力を作用させて資源の効率的利用を促すこと、[2]努力と節倹の誘因であること(J.S.ミル)、[3]政治活動の自由の物的基礎であること(フリードマン)から、資本主義にとってのいま一つの必須条件であるとされる。政府の役割は、この所有権の保護・契約履行の強制・通貨価値の安定・公共財の管理(平和・治安・消防・環境保全など)・独占規制・競争維持などに限定される。

【産業資本主義】資本主義成長の時期は民主主義の胎動期であり、社会正義・人権思想の開花期である。産業革命を背景として資本主義は巨大な社会的生産力を解放し、新しい就業機会を創出したが、同時に社会的・経済的に大激動をひきおこし、イギリス農村においては〈羊が人間を食う〉エンクロージャー運動により、農民の没落、都市における中小商工業者の窮乏、貧民層の都市産業への流入などがおこり、社会問題が発生した。わが国においては、19世紀末(明治中期)から20世紀初めにかけてこの産業革命がおこり、近代経済成長が始動した。産業革命に伴う社会的・経済的不均等問題に対する政治的改革運動は資本主義に色彩を与えた。少年の12時間労働・夜業の廃止、綿・鉱業における少年労働の禁止、労働時間制・工場監督制度・救貧対策などが導入され、資本主義は軌道修正を迫られた。というよりはむしろ、資本主義は社会改革運動を自らに包摂して自己を強化する軌道修正の柔軟性を示したといえる。新しい就業機会が創出され、賃労働者のなかにもエリートが生まれ、階級闘争が一方的に激化するわけではなかった。

景気循環】1825年に始まるイギリスの景気変動は近代資本主義経済における景気循環の始まりとされている。不規則ではあるが循環的で、平均10年近くの周期性をもって好況と不況の交代(主循環)が検出されてきている。シュムペーターはこれを資本主義経済の〈心臓の鼓動〉とみなした。資本主義経済は活発な企業者精神によって特徴づけられるが、企業家の〈新機軸(技術的改良・生産組織の変革、新製品・新販路の開拓)〉は断続的に現れる。それに伴い、旧態企業の淘汰と産業構造の新陳代謝の過程として、いわば脱皮運動として景気循環がおこるとしている。しかし、1929〜33年の大不況は資本主義経済にとり狭心症的一大衝撃事件であった。マルクスは、景気循環を資本家的生産に固有の基本矛盾(生産の社会的性格と所有の私的資本家的性格とのあいだの矛盾)の爆発といい、ケインズは、貨幣経済に胚胎する〈有効需要〉の不確実性・不安定性に基づく病理現象であり、有効需要管理政策(補整的財政・金融政策)が必要だとした。これに対し、フリードマンは、競争が貫かれ、価格機構が十分機能しているかぎり、資本主義経済は本来的に自己回復力に富む安定的体系であり、大不況は民間経済のこの自己回復力を減殺するかたちでの中央銀行(連邦準備制度)の〈馬鹿げた〉貨幣政策によるものであったとする実証研究を行っている。また、彼によれば、政府による積極的景気調整政策は、いつも後手に回るので、総体として安定化作用よりも不安定化作用のほうが大きいとして、その有効性を疑問視している。

修正資本主義】第一次世界大戦を契機に資本主義の中心はイギリスからアメリカに移動し、世界大不況後は、資本主義の機構と機能に質的変化が生じた。ニューディールによって、政府対民間のあいだの関係は〈自由放任の終えん〉を告げ、政府の積極的経済介入が導入されるようになった(社会保障・経済復興・農業調整など)。第二次世界大戦後はさらにこの軌道修正に拍車がかけられ、アメリカの雇用法(1946)に象徴されるように、政府が「最大の雇用・生産・購買力」の確保に責任をもつようになった。資本主義はいまや古典的なそれから90度転換されたといってよく、政府の手による社会保険・社会福祉・産業政策・経済計画の混入した混合経済の時代に入る。

 資本主義では〈能力に応じて働き、生産性に応じて分配される〉原則が作用しているが、物的資本、ならびに知的資本いわゆる〈人的資本〉の所有の不均等のため個人所得の不均等が生じる。とくに、産業資本主義の初期あるいは高度成長初期には、産業革命期がそうであったように、所得不均等が過渡的に増大する。しかし、そのあとの発展により、所得分配は改善の方向に反転されるという史実が、わが国を含む先進資本主義国で認められる(クズネッツ)。マルクスの〈窮乏化説〉は否定され、長期的にみて諸価格のなかで最高の上昇率を示すのは実質賃金率である。これは労働節約的技術革新の要因であると同時に、技術革新の果実の分配の結果でもある。労働分配率は長期にわたりほぼ安定的に推移している。学歴上昇・専門技術者化・ホワイトカラー化・中産階級化などに示されるように、現代の労働者は人的資本の所有者であり、これが物的所有の不均等を中和している。所得の不均等は厳然たる事実であるが、それが社会主義国を含む非資本主義諸国におけるそれ以下であることはほぼ確かである。資本主義諸国での所得分配の改善は、累進課税制によるよりは社会保障政策・社会福祉政策によるところが多いとされている。課税前の所得分配がすでに均等化していることの反映といえよう。貧困は、主に老齢者(とくに日本)・病人・身体(精神)障害者・未熟練労働者のあいだに集中している。したがって貧困にはそれに固有の対策が必要である。税制上で〈負の所得税〉(比例的所得給付)の導入も一法である。

独占資本主義】技術革新の性格から大企業(ビッグ=ビジネス)が成長し、市場が少数企業による寡占状態となり、〈プライスリーダーシップ(価格主導権)〉〈管理価格〉が成立するとともに、産業政策を通して政府をこれに加担させ自らの産業利益を図る傾向(日本株式会社)がある。これに対抗して、労働組合や生活協同組合の活動が強化される。しかし、経済全体をみると依然として古典的競争が展開している。各種企業の新機軸をめぐる技術開発競争は激化している。大企業の利潤率がおしなべて中小企業より高いという事実はない。多国籍企業の進出・外国産業に対する市場開放を考慮に入れると、〈有効競争〉状態にあるといえる。競争排除はむしろ官僚統制の肥大によるもので、ドブ板政治とならんで、〈政府の失敗〉の色彩が強い。

〔参考文献〕M.フリードマン、西山千明訳『選択の自由』1980、日本経済新聞社


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