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●ジプシー

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ジプシーは今日、黒アフリカ・東南アジア・中国・日本を除いてほとんどの国々に存在しているといわれている。その総人口は推定で800万人以上とされているが、移動ジプシーの調査が困難なことからその正確な数字は判明しない。ジプシーが世界の人々の目につく理由の一つは、総人口の半数近くがヨーロッパというまったく異なる文化圏に移住したのち今日までヨーロッパ文化に同化せず暮らしてきたことによる。またヨーロッパの少数民族と比べて、異なる点は、住所不定のものが多く、その上移動生活をしている点にある。

【ジプシーとは】ジプシーは6世紀から7世紀にかけてインド北西部から移動を開始した。その原因は現在でも判明していない。そして14世紀になって東部ヨーロッパやバルカン半島に移ってきた。インドからヨーロッパにいたるまでの詳しい資料は数が少なく、その歴史的変遷については仮説しか立てられていない。

 ジプシー自身の名称はヨーロッパに着いてから名づけられたものである。GYpsYという名はエジプトから来た者たちに由来するといわれている。またフランス語のTsiGanesはギリシア語のAtsinGanosに由来するとされている。そのほかジプシーを軽蔑してボヘミアンなどとも呼んでいる。これに対してジプシー自身は、サンスクリットに由来する“人間”を意味しているマヌーシュという呼び名を使用したり、“人”を表すロムなどを用いている。そしてジプシーが「ジプシー以外の人々」を呼ぶ場合には、ガジョという呼び名が使用される。

【ジプシーの言語】ジプシーの言語は、インド=アーリア語系に入る。しかし現在のジプシーの多くが使用している言語は、ヨーロッパに移動してくるまでに通過した多くの国の言語を取り入れて変化してきた。とくにヨーロッパのジプシー語には、中世ギリシア語が多く含まれている。それは14世紀にギリシアに移動したのち長期間にわたってそこにとどまっていたためと推定されている。また、移動経路によってルーマニア語をもったものの、ハンガリー語そしてドイツ語をもったグループなどが見出される。文字はもっていないが、語の形成と文法の特徴として、名詞に男性と女性の区別があり、単数と複数の区別がある。男性語尾には−oまたは−aがつき、女性語尾には−iがつくのが特徴である。

【ジプシーの生業】定住者の仕事は移動生活をつづけているジプシーの生活形態を破壊することから適していない。そこで職業は移動生活に支障をきたさないものに限られた仕事になる。移動の手段として用いた家畜の売買がまず第一にあげられるであろう。ヨーロッパに入ってからは、多くの交通手段に使用されていた馬の売買が中心となっている。次に考えられる仕事としては、つれ歩く家畜に芸を仕込んで見せものにするものがある。大きいものは熊つかい・馬の曲乗り、そしてサーカスとともに旅をして動物の芸を見せる職がある。以上のような職業は恒常性に欠けるため、多くのジプシーは手仕事によってものをつくって売り歩いて生計を立てている。それらは籠つくり・レース編みなどが中心となっている。また、くず鉄商や鋳掛屋などもジプシーの伝統的な職業となっている。現代の産業社会にあってジプシーの職業は閉ざされてきつつあり、自分の労力を提供して生計を立てることも考えるようになった。組織に加わらず労働を提供する仕事、たとえば季節労働者の仕事は、ジプシーにとって最も好まれるものの一つである。

【ジプシーの宗教】ジプシーはインドを出たときから、通過する土地の宗教を信仰してきたのである。ヨーロッパのジプシーはキリスト教信者であるが、カソリックとプロテスタントに区別されている。なかでもプロテスタントの新しい宗派は、教会に行かずにどこでも礼拝できることから移働生活者にとって都合がよいため、近年その数が増加する傾向にある。

 世界各地に広まったジプシーではあるが、国をもたないマイノリティーな民族であり、今後彼らの伝統を守って生きていくことはたいへんに難しいであろう。定住社会の一員となることを避け、人目につかずに暮らすことが、産業社会で生き抜く最良の方法と考えているジプシーは、意外に多い。

〔参考文献〕ヤン=ヨァーズ、村上博基訳『ジプシー』1977、早川書房

木内信敬『青空と草原の民族』1980、白水社

相沢久『ジプシー』1980、講談社


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