●市町村史 しちょうそんし
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日本の基礎的地方自治体である市や町や村の歴史を叙述した書物。府県史と並んで、地域史の主体をなしている。市町村史の刊行は1888年(明治21)の市制・町村制公布以降のことで、それ以前の江戸時代から地誌の編集が行われており、これは市町村史の前史をなすものと見てよい。そして日露戦争後、地方改良運動が取り組まれたころ郷土史が提唱され、市史や郡史などの編集がなされ、その第一のピークを迎えた。そののち、合併や町制施行など、その市町村の画期となることを記念したり、御大典など御皇室の行事にあわせたりして市町村史の刊行が行われた。これら戦前の市町村史や郡史は、その地域の歴史が多少は書かれていても、むしろ地誌的性格のほうが強いものが多かった。しかも書かれている歴史叙述は科学性を欠く場合も少なくなかった。一方大都市では、東京市の場合、市史稿という史料集の編集が進められ、大阪市などでは本格的な市史が刊行されている。戦後も市制施行何十年とか明治百年記念などをきっかけに、地方自治体が市町村史の編集を始める場合が多い。しかも、科学的な歴史学が学界で大きな位置を占めるようになるとともに、専門的研究者が参加する市町村史も出てきており、学問的にも優れたものが多くなってきている。とくに高度経済成長後の1960年代以降、各地で本格的な市町村史が取り組まれている。それらを踏まえて、市町村史編集のあるべき像を形態・内容の両面から見ていこう。
【市町村史のあり方】市町村史の形態としては、次のようなものが考えられる。まずその地域の悉皆的な史料調査を行い、あわせて関連地域や史料保存機関などで、編集する市町村についての史料調査を行う。そして複写などで入手した史料のうち、重要なものを翻刻して資料集を刊行する。またその地域の重要なテーマに関する個別研究成果を発表する雑誌を刊行する。これらをもとに、学問的検討に耐える通史を執筆することが要求される。また地図集・統計集・年表などを出すことも有意義である。さらに編集がいったん完結したあとに、収集した史料の目録や通史・資料編の索引、平易で簡単に読める普及版通史などを出すことも必要である。また編集過程で収集した資料を保存し、公開する機関や、さらに広く史料や文化財の保存機関として文書館・資料館を設立し、引き続き史料の収集とその史料を使った地域史研究を行い、発表していくことが重要である。そのためには、史料保存機関に専門的研究者がいることが不可欠であり、研究機関としての機能充実がなされなければならない。
【市町村史の内容】戦後の一時期には、学界の研究上の焦点となっていることだけを、地域性を無視して、どこでも取り上げることがあったが、そうではなく、その地域の歴史的特徴を把握し、そこから重点的に研究すべき内容を決める必要がある。さらにその問題を全国的な状況のなかに位置づけることが不可欠である。これは、地域住民の立場に立つ市町村史の編集を進めるということであって、かつての郷土史のように、その地域に居住する人たちだけで行うというわけではない。専門的研究者が研究力量を発揮して、その地域を分析することによって、地域の特色をおさえられるわけであり、それに地域の郷土史家の協力が有効な場合が多い。また市町村史編集は地方自治体の事業として行われるのが通例であるため、どうしても行政史が主体になりがちである。しかし科学的・学問的な市町村史となるためには、行政や議会の活動も批判的にとらえ、住民の立場に立った歴史叙述が要求される。さらに行政史のみでなく、地域の経済史・産業史、および住民の生活史・社会史も、同じ住民の立場に立つという視点から取り上げることが不可欠である。しかも、単に支配され、日常生活をおくる民衆像のみでなく、地域の変革・改革を追求する主体としての民衆をも積極的に取り上げることを忘れてはならない。
〔参考文献〕『市町村史等刊行の実務』1975、柏書房