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●始祖伝説 しそでんせつ

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 人類の祖部族・氏族の祖がいかに世に現れたかを語る伝承で世界の諸民族が有する。日本の伝承は特に周辺のアジア諸域のそれとの関連が注目される。

【アジアの始祖神話】三品彰英は,『神話と文化境域』において,日本やアジアの原始文化境域に属する始祖神話を[1]卵生型(南方系神話要素)[2]箱舟漂流型(同上)[3]獣祖型(大陸系神話要素)[4]感精型の四つの基本的類型に分類する。

 [1]卵生族祖神話。人祖・族祖が卵から生まれたとするもので,インドネシア諸族に分布の中心があり,北は台湾・朝鮮,東南はメラネシア・ミクロネシア,西方はビルマ・インド・チベットに及ぶ。諸話における卵生の形式には太陽・竜蛇の要素が多く付随する。この神話はさらに[A]降下型(天神のもとに降下するもの),[B]鳥卵型(卵が鳥類により生まれるもの),[C]化生型(他物から卵が化生するもの),[D]人態的出産型(卵が人態的女性から産まれるもの)に分類される。これに補足を加えれば[A]降下型は卵のほかに櫃(ひつ)・壺・瓢(ひさご)などが用いられることもあり,等しく天降る日の御子の容器としての意味をもつ。[B]鳥卵型は卵生神話境域の中心地域に濃厚である。大地創成と人類出現にさいし鳥が主要な役割を演ずる神話が世界に多いことを考え併せるべきである。[C]化生型は竹・海水の泡・女の血・生木・土などから卵が化生するもの。竹・土などから人が生まれるインドネシア神話の基本観念に卵生要素が結合したものであろう。[D]人態的出産型は上の三型と比べると最も進歩した神話的観念で,人態化した太陽の父・水母的竜女の母の結婚と,建国の王者・国家的英雄の出生を語ったものである。

 [2]箱舟漂流神話その他。箱舟に乗って女が漂着し,天神や王者と結婚して子を産むというのが基本的形式であるが,神の子を産んだ母がその子と共に漂流する型に発展変化したものと考えられる。分布境域は卵生型と重なり,朝鮮南部・渤海沿岸・対馬・大隈・台湾・シナ海沿岸・フィリピン・インドシナ諸域等である。またこのほかには丹塗矢式伝説・女国伝説・ミミズ神婚伝説等が朝鮮から南シナ海北方にかけて分布する。

 [3]獣祖神話。狼・犬など特定の動物が人間の女と契って族祖を産んだとするもの。満蒙諸族(突蕨系・蒙古系・ツングース系)と南蛮系諸族とのあいだに分布するが,狩猟的・牧畜的生活形態に即した宗教的・社会的特質に根ざすと考えられる。日本にはこの型に属する神話は見あたらない。

 [4]感精型神話。人の女が超自然力に感じて神の子を産むというもの。卵生型・獣祖型に比べて単純であるため,より普遍的で,国祖・族祖の出自を語るものがほとんどである。古代漢族・蒙古・満州・朝鮮・日本に分布し,感精観念を広義に解すれば南方海洋諸族にも及ぶ。感精のもととなる超自然力には[A]雷電・星辰の光,[B]天降る霊物,[C]日光がある。[A]は主に漢族,[B]は満蒙・漢族,[C]は満蒙の伝承にみられる。

【日本の始祖説話】整然とした神統譜をもつ『古事記』『日本書紀』の中にも,前述のような原始的な始祖神話の名残りをみることができる。『日本書紀』神代の一書に記されるニニギノミコトの真床追衾(まとこおうふすま)に包まれての天降,また『古事記』上巻や『日本書紀』神代ほかに記されるホオリノミコトの無目籠(まなしかたま)による海神宮降下はともに卵生降下型に属するものであろうし,スクナビコナノカミ・ウガヤフキアエズノミコト・ヒルコなどの神話はそれぞれに箱舟漂流型の一型と見倣すことができる。昔話の「桃太郎」や「一寸法師」の漂流のモティーフもこの中に入れることができよう。また賀茂の丹塗矢による神子出誕神話,伊豆大島の女護ヶ島説話も大陸に類例が求められる。三輪山の神婚伝説はミミズ神婚伝説との類縁関係が考えられるが,それはまた『日本霊異記』中巻の蛇娘相姦の説話や,昔話の「蛇聟入」にも系譜を連ねてゆくものであろう。化生型としては葦の芽からアシカビヒコジノカミが生まれる記紀の伝承などが掲げられよう。『竹取物語』のかぐや姫は竹から生まれるが,『巡歴記』には竹村の鶯の卵から少女が生まれたとする異伝がある。イザナギ・イザナミの神話は東南アジアの洪水神話と,それに伴う兄妹相姦の始祖説話の一型だとする学説もある。『今昔物語集』巻26や『宇治拾遺物語』の土佐国妹兄島の説話もこの系統に属するものであろう。伊豆大島の丹那婆(たなば)の伝承は,漂着した妊婦が出産した男子と結婚するというもので,母子相姦説話の一つに掲げられる。日光感精説話には『古事記』中巻の天日矛の伝説,『天童法師縁起』の天童法師,『八幡童蒙訓』の正八幡由来等々があり,また弘法大師や豊臣秀吉などの出誕伝説もこのモティーフをもつ。奄美諸島においても近年多くの日光感精説話の事例が報告されている。総じて日本における感精説話は,始祖説話としては語られていない。

〔参考文献〕三品彰英『神話と文化境域』1948,大八州出版,著作集3,平凡社

柳田國男『妹の力』1940,創文社/『定本柳田國男集』9,筑摩書房

石田英一郎『桃太郎の母』1956,法政大学出版局