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●氏族 しぞく

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 祖先を同じくし同祖観念により結ばれた単系(父系または母系)の血縁集団。ただし『万葉集』4,298番詞書の〈正月四日,氏族の人等……〉,『日本後紀』延暦18年12月29日条の〈天下の臣民,氏族すでに衆(おおし)〉などと見える日本の氏族と,モーガン・エンゲルスらのいう氏族とは厳然たる区別を要する。

【モーガンらの所説】L.H.モーガンは北アメリカ東部のイロコワ族調査の結果,母系氏族の存在を確認して,この氏族を特徴づける成員の権利義務として,[1]首長および軍事指揮者の選挙権,[2]この両者の罷免権,[3]族外婚,[4]死亡成員の財産相続の相互的権利,[5]成員相互の援助・防衛,加害者救治(血の復讐)の義務,[6]命名権,[7]他氏族員の養取権,[8]氏族の宗教儀礼と審問の権利,[9]共同墓地の共同所有,[10]氏族会議(氏族最高の民主的審議機関)への参加権の10項をあげ,このような氏族が全人類に共通する原始社会の基礎的な単位集団と考えた(『古代社会』1877)。フリードリッヒ=エンゲルスはこの氏族に関するモーガンの結論を全面的に採用し(『家族,私有財産および国家の起源』1884),以後,社会経済史学者らの多くがモーガンやエンゲルスらの説を信奉するようになった。

【日本の氏族】日本古代の氏族は孔王部や佐伯部のように政治的な部伴造制にもとづく擬制的氏族も存在するが,基本的には父系の祖先を等しくする血縁集団である。しかしモーガンがイロコワ族のなかに見出し原始社会の基礎的な構成単位と考えた氏族とは,その性格その特性がまったく異なる。母系制のイロコワ氏族に対して日本の氏族は父系制の血縁集団である。8世紀の戸籍や古典などから知られる当時の婚姿形態は嫁取り同居婚が主体ながら別居婚・訪来婚・母処婚などの存在も推察されるが,これらが母系制の残存形態と断じることはできにくい。また氏族の典型的特徴の一つ,族外婚(氏族内部の人とは禁婚)は日本の氏族にはまったく認められない。またモーガンが氏人の権利義務としてあげた,[1]氏の首長・軍事指揮者等の選挙権,[2]同罷免権,[3]死亡成員の財産相続権,[4]相互の援助・防衛,加害者救済の義務,[5]共同墓地の所有,[6]氏人全員による氏族会議など10項目のほぼすべてが日本の氏族には認めがたいのである。また氏族制社会にあっては,氏族が社会的・経済的・政治的単位であるが,日本の古代社会における同財共居の社会的・経済的基礎単位は氏族ではなく家=家族であった。したがって日本の氏族の場合,氏族成員のもつ基本的特性としては,[1]氏の名を同じくする,[2]祖先を同じくするという同祖観念で結ばれている,の二点をあげうるにすぎない。氏神ないし祖霊の祭祀も本宗家または本宗を中核とする一部氏族員に限定されて,全氏族員による共同祭祀すら行われていない。このような日本の氏族が,モーガンらのいう原始社会の氏族が変形残存したものであるか否かについては,なお検討を要する。

【ギリシア・ローマの氏族】古典古代のギリシア人について,アリストテレスはアッティカのアテネの社会構成の単位の一つとしてゲノスをあげているが,モーガンはこのゲノスを氏族にあて,下記のほか族外婚・共同墓地の使用・死亡成員の財産相続権などイロコワ氏族に似た多くの特性を列挙した。すでに古典ギリシアの社会においては,家族および大家族の発生をみて,ゲノスは社会構成の最小単位ではなく,またイロコワ族のような母系制ではない。しかしゲノスの成員は,[1]祖先を同じくすると信じる男系の血縁集団で,[2]毎年くじによって統治者(アルコン)を選び,[3]共有財産とその管理者をもち,[4]正式氏族員の名簿を管理し,[5]祖先の共同祭祀を行い,その他他氏族員養取・ゲノス会議参加などの諸権利をもつことが記録によって確められている。このようなゲノスの特性は都市国家成立後,貴族階級の新しい支配組織として成立したという見方もあるが,モーガンのように原始社会の氏族が階級社会に適応変形しながら,かつての特性を残存したものとも考え得よう。古代ローマ社会の構成単位の一つであったゲンスをモーガンは氏族に比定し,[1]首長の選挙権および罷免権,[2]族外婚,[3]死亡氏族員の財産相続権,[4]相互援助・防衛,加害者救済義務,[5]他氏族員の養取,[6]共同の宗教儀礼,[7]土地・共同墓地の共有,[8]氏族名の呼称,をその特性としてあげている。文献上直接的にこれらのすべてを証明はできないが,ローマのゲノスがおおむねこれらの特性をもつことは,ほぼ承認されている。

【学際的称呼】世界各地における氏族の実態は多様であり,時代によっても相違する。多くの場合,社会生活の基礎単位は家族であり,血縁で結ばれた若干の家族の集まりが親族である。これらの親族が同祖観念によってさらに広く結合したものが氏族であり,一般に親族集団はリニージ,氏族をクランと呼ぶ。もっともドイツ語でジッペと呼ぶ場合もあり,アメリカでは母系氏族をクラン,父系氏族をゲンス,両者を含めてシブと呼ぶ学者もある。

〔参考文献〕和歌森太郎『国史における協同体の研究』1947,帝国書院

阿部武彦『日本古代の氏族と祭祀』1984,吉川弘文館