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●私小説 ししょうせつ

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 わたくし小説ともいう。小説の一体で,「私」という作者自身が自己の生活体験をこと細かに叙述しながら,その間の心境を正直に書いていく作品のことをいう。大正時代が全盛期で,昭和の現代にわたって衰えていない。日本文学史の伝統の中で,和歌俳句を中心とする韻文学の占める位置は重くて散文の物語類にさえ大きく影響しているが,したがって抒情文学的な身辺描写や心理描写を重んじる創作が,近代の朝明け明治時代の小説の中で重きをなしていることは見逃せない。私小説は心境小説の別名とも見られ,それに対立して本格小説論がやがて盛んとなったのは,文学におけるフィクションの重視と構想上の理想追求との結果でもあったが,自然主義文学や階級闘争の文学に刺激されて高まった人間改造・社会改造への文学参加の意識の問題が強烈となったからである。思想や社会機構の変革に歩調を合わせる文学の世界で,深刻な人生観・宇宙観にもとづく私小説の存在価値が問われよう。