●地方史料 じかたしりょう
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江戸時代の村方・在方史料をさしていう。江戸時代の「地方(じかた)」という言葉は,今日の中央に対する地方とは違い,町方に対する村方,都市に対する農村という意味であった。転じて,農村における土地制度や租税制度をいい,さらに農民生活や農業生産の諸規制などを含む農政一般をひろくさした。江戸時代の幕府・藩による農村・農民支配は,村請制(むらうけせい)といって,地方三役と呼ばれる名主(庄屋),組頭(年寄),百姓代という村役人を通じて行われたことに特色があり,そのために名主(庄屋)の家には農村支配に関する文書(もんじょ),記録類が集積・伝存されてきた。このような公的性格をもつ名主・庄屋文書をさしてふつう地方史料といっている。また個々の農民の家に伝わる経営史料・私文書を含めて,農村側に残された史料全般を地方史料と呼ぶ場合もある。【地方史料の種類】名主・庄屋文書を中心に地方史料をみていくと,[1]村況,[2]土地,[3]戸口,[4]年貢諸役,[5]領主からの布達法令類,[6]村政・村法に関するものなどがある。以下それらのうち主要なものをあげていこう。村の概況を示す史料には,今日の村勢要覧にあたるような,村高・年貢・戸口・農間余業などを記載した「村明細帳」や,当時の村落景観を色分けして表現した「村絵図」などがある。いずれも領主側の要請によって作成されることが多かった。土地関係では,「検地帳」,「名寄帳」,「地押帳」,「地改帳」,「田畑高反別帳」などがある。このうち「検地帳」(水帳ともいう)が最も基本的な土地台帳で,検地による土地調査にもとづいて作成され,土地一筆ごとに地字,縦横の間数,田畑屋敷の区別,土地の品位,面績,名請人(なうけにん,土地所持者=年貢負担者)が記されているのがふつうである。この検地帳をもとに,年貢・村入用等の割付のために名請人ごとに反別を集計したものが「名寄帳(なよせちょう)」である。戸口史料には,キリシタン禁制のための宗門改が契機となって作成された「宗門人別帳」がある。これは戸籍台帳としての役割をもち,家族構成や人口変動などが記される。また五人組制度に関する帳簿に「五人組帳」がある。年貢諸役関係では「年貢割付状」と「年貢皆済目録」とが最も基本的な史料である。「年貢割付状」は単に「免状」ともいい,検見(けみ,豊凶の検査)にもとづいて領主が村宛に納入すべき年貢量および納期を通達したものである。一方「年貢皆済目録」は,年貢の完納をもって領主が村側に発給した年貢請取証である。また「年貢小割帳」といって,村内の百姓にそれぞれの年貢負担額を割付けた帳簿や,国役・助郷に関する史料などがみられる。領主からの法令・布達類は「触書」,「廻状」と呼ばれ,所定の村々において順達されていた。これを村役人が帳簿に書き留めたものが「廻状留」,「御用留」と称するものである。また「五人組帳前書」も農民生活全般にわたる取締法令としての性格をもっている。村役関係では,村役人の任免等にかかわるもの,村内秩序の維持のために村民が申し合わせた「村法」(村極,村掟),村財政の費用細目を書きあげた「村入用帳」,「村方出入」と呼ばれる紛争・訴訟や領主に対する訴願に関する文書などがあった。また村役人が公務執行のため書いた日記類があり,なかには村政や日常生活の記述に詳しいものがある。これらのほかにも交通,運輸,営業,水利,普譜,災害,救恤など村民の日常生活にかかわる名主文書が作成・保管されていた。一方個々の農民の手元でもその家の性格に対応して種々の文書・記録が作成された。農業,商業,質屋,農村工業などの経営史料をはじめ,冠婚葬祭,年中行事,祭礼など習俗に関するもの,国学,和歌,俳句,寺子屋等の学芸史料,一揆・飢饉等の記録,旅行・見聞記の類,などその種類は多方面に及んだ。
〔参考文献〕地方史研究協議会編『近世地方史研究入門』1955,岩波全書
『日本古文書学講座』第7巻近世II,1979,雄山閣出版