50音順    検 索

●産業合理化 さんぎょうごうりか

AD 

 近代化された国の産業経済は一定の発展段階において内外の危機や困難にぶつかったとき,経済政策の一大転換あるいは飛躍を必要とする。行き詰まった経済と産業の構造的改良のための転換を,より合理的,より生産的な方向性で遂行しようという経済政策を産業合理化という。それは近代国家の産業界全体が歴史上必然的に醸成する構造的矛盾を,一国規模において克服するための政策であり,経営の合理的運営・生産性向上・収益性増大が3本の柱である。その内容を具体的にあげれば技術革新・新エネルギー開発・新生産システム採用・金融構造のより適合的な改良・流通過程の変革・各種の調整政策(価格・市場・資材)・一般的な合理化提案の実施(省力・倹約・短縮)・労務対策の効率化(実質賃金すえおき・賃下げ,不要労働の遊離,労働規律の厳格化,企業組合性強化,不急職種の整理,帰休・転職・配転・出向)・労働強度の強化・労働意欲の刺激・工場災害の絶滅・より有利な代替労働力の開発(パートタイマー・アルバイト・婦人・老齢者・後発国外国人)などである。産業合理化が進むと[1]資本の稼動力が質的に高まる,[2]金融の効率が高まる,[3]政府の保護・補助政策の有効性が大となる,[4]国際競争力が強くなる,[5]社会資本の発展の成果を無償に近く入手して企業収益を高める。なお広義には東欧ソ連圏にもあてはまる。社会主義諸国の一党独裁指導政党の官僚支配に押さえこまれた社会主義企業体の不効率・採算性の悪さ・技術開発の遅れ・生産性向上のまずさ・労働規律の低さなどを含む諸問題の改善にあたっても社会主義的な産業合理化の政策実践を必要としよう。

【産業合理化の歴史】第一次世界大戦中の経済ブームは戦争景気によって異常にかきたてられたが,戦後(1920)大反動となり,株式市場からパニックが襲った。設備投資過剰・信用膨張と金融負担の過大の解決には政府による強力な資本救済と社会秩序維持を必要とした。重化学工業への投資拡大を中核に輸出奨励,補助金放出,鉄道・電源開発,植民地経営拡大,保護関税,軍事公債発行などを含む景気回復策を通じて,金融・流通・生産面の合理化を行った。1930年の昭和恐慌時にも1920年代の慢性不況からの脱出と内外の行き詰まりによる国難を克服するために,産業界の無統制・不合理・無計画を排除して,能率的で強力な官僚=財界指導型の統制経済を構築し,第二次世界大戦が要求する巨大な軍需経済能力を生み出そうとした。競争制限・企業合同・出荷協定・資材配給など法的強制力を国家に与えた。これらとともに産業合理化は,当座の国家的・財界的要請にこたえたものの,国の軍事的・政治的矛盾のよりいっそうの激化のなかでその思惑と期待を裏切った。

【現代の産業合理化】1970年代以後の石油ショックをきっかけとした国際的な景気停滞と構造不況のなかで,一方では減量経営(企業負担をできる限り身軽にした収益第一主義)と省力化(労働力費用の節約と労働強度の強化)および省エネ(社会資本の効率化と資源外交戦略の強化)が推し進められた。他方では産業構造のいっそうの近代化と経済システムの高度化が追求され,ME(マイクロエレクトロニクス)革命が遂行されて難問を克服しようとしている。NC(数値制御)工作機・OA機器・産業ロボットが一般化し,受注から納入までの工程別プロセス制御コンピュータを導入し,フレキシブルな総合生産管理システムが主要産業部門で設定されるという方向で産業合理化が進められている。

【産業合理化の問題点】ME革命を取り込んだ産業合理化は工具の交換,部品の加工・選択,製品の組み立て,完成品の検査まで無人化してしまい,マスコミ・商社・金融・運輸交通・行政・通信部門にコンピュータ合理化が浸透してきた。生産現場と労働工程は直接・即時的に資本の指令室と結合し,労働は自立性と総合性を失ってしまった。また企業経営に連係する心理学・経営工学・生物科学などの学問が成長した。労働の質的変化が生じ,本来,労働力がもっていた認識・計量・判断・分析・処理・伝達などの機能は機械に吸収され,人間的労働は補助・付随労働やサービス部門に限定されるにいたる。現代的産業合理化と高度な技術革新の進展のなかで,むしろ労働意欲が低下し,職能向上欲を喪失した勤労者が,一部のエコノミックアニマル的なホワイトカラーと対照的に群生してきた。また熟練労働力の遊離排除も進行している。労働は高度な消費文明のもたらす享楽への分配権のためとみなされがちになる。なお現代的産業合理化が,結局はアメリカ・ソ連2大世界の軍事対決を保障する経済軍事化を容易ならしめる国家政策に従属している側面も否定できない。現代的産業合理化の成果と欠陥は,ともにあまりにも巨大である。