●雑穀栽培農耕 ざっこくさいばいのうこう
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麦作混合農耕・根栽型農耕とともに,旧大陸に起源した農耕文化の一類型。サバンナ農耕文化と同義。雑穀栽培農耕の中心となる地域は,アフリカのサハラ砂漠以南のサバンナ地帯と,インドのサバンナ地帯であり,トウモロコシ・トウジンビエ・シコクビエ・アワ・キビ・ヒエなどのきわめて多くの雑穀が主作物として栽培される。これらはいずれも禾本科の一年生草本であって,種子の穀粒が食用にされる。さらに,おどろくばかりの多種のマメ類,ウリ・ナス・オクラ・ヒョウタンなどの果菜類,ゴマなどの油料(油脂)作物が加わり,雑穀栽培農耕の多様な作物群を構成している。これら植物生産物だけで,栄養的にはほぼ完全な食糧体系がつくりあげられているといって過言ではない。作物のすべてが夏作であることも大きな特色となっている。トウモロコシ・トウジンビエ・シコクビエなど,アフリカ起源の雑穀の主力はインドまで伝わっているのに対し,インド起源のコドラ・サマイ・ライシャンなどはアフリカのサバンナ農業のなかにほとんど入っていない。同様な平行現象がマメ類にも見られるところから,中尾佐助は,アフリカの雑穀農耕がおそらくインドに先行し,インドではアフリカの影響下に雑穀栽培農耕を開始したのであろうと推論している。アメリカの人類学者マードックによれば,アフリカのサバンナ地帯のなかでも,雑穀栽培の中心はニジェール川流域である可能性が高く,前5000〜前4000年ごろにここに発生した農耕文化は,前4000〜前3000年ごろにはエチオピアに達し,雑穀栽培農耕の第2の中心が形成されたという。インドでは,中尾佐助によって二つの雑穀栽培農耕の中心が推定されている。このうちデカン半島西部の乾燥地ではキビが栽培化され,インド西北部から西パキスタンにわたる乾燥地帯ではアワが栽培化された。雑穀栽培農耕の原型は,サバンナの叢林を伐採し,火入れを行って利用する焼畑である。数種類の雑穀に豆類・果菜類を混播し,複雑な輪作の形態をとることが少なくない。耕作に使用される農具は手鍬を主とし,固有の家畜はみられず,2次作物をつくり出すこともなかったと考えられている。鍋がなくとも料理して食べることができる根栽類とは異なり,雑穀栽培農耕の開発した食糧は,水を加えて加熱をほどこすことのできる容器すなわち土器の存在を前提として成立する。この点で,雑穀栽培農耕は新石器時代的な農耕文化といえよう。雑穀の食べ方には粒食と粉食がみられ,粒食では木臼とタテ杵によりモミズリ・精白を行うことが一般的であり,粉食はアフリカにおいて卓越している。雑穀栽培農耕が本来所持していた生産力は,したがってあまり高くはなく,人口支持力も小さなものであった。佐々木高明によれば,インド北西部では早くにオリエントの高い文化の影響を受けて犂(すき)が導入され,スーダンの雑穀地帯でも,地中海文明の影響によって農業の集約度が高められ,焼畑から常畑耕作への進展がみられたという。このような雑穀栽培農耕の発展型においては,集約度の向上によって生産に余剰を生じ,定着的村落を基盤として都市や国家が形成された。しかし,雑穀を条播して入念に除草を行う一方で家畜の糞の利用や休閑をみることがないこの農耕は,歴史上かなり早い時期に経営面積の限界を迎え,生産性の停滞とこの農耕に基盤を置く文明の停滞を導いた。中尾佐助は,東洋やアフリカの後進性が,農業の生産性の一般的停滞の上に成立したものとみなしている。【雑穀栽培農耕とイネ】乾燥した熱帯のサバンナでおこった雑穀栽培農耕は,その地域を拡大してゆく過程のなかで遭遇した多くの湿生の禾本科植物のなかから,イネを栽培化した。サバンナの周辺にあたるインドの東部と西アフリカが,イネを開発した二つの地であり,アジア起源のイネすなわちオリザ=サチバとアフリカ起源のグラベリマイネすなわちオリザ=グラベリマとが生み出された。アフリカではグラベリマイネは,一部の地域を除けば重要な作物として発展するまでにはいたらなかったが,アジア起源のイネは東方へ伝播し,アッサム以東の高地部でまずオカボとして多数の品種群に分化したと考えられている。雑穀栽培農耕のなかで遅れて雑穀の一部となったイネは,作物としての優れた性質から,やがて雑穀から分離され,焼畑耕作から棚田水田耕作へと進展するものや,平地水田農業として展開するものが生じた。たとえば佐々木高明によれば,ヒマラヤの南麓から東南アジア北部の山地をへて,華南・江南から西日本にいたる照葉樹林地帯では,本来あった根栽型農耕の基盤の上に雑穀栽培農耕が複合し,いわゆる照葉樹林型と呼ばれる農耕の形態が生みだされた。日本においても,この農耕形態によって支えられた照葉樹林文化の成立がやがて伝えられる水田稲作農耕の受容の前提をなしたと考えられているのである。
〔参考文献〕中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』1966,岩波書店
中尾佐助『栽培植物の世界』1982,中央公論社
佐々木高明『稲作以前』1971,日本放送出版協会