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●栽培植物 さいばいしょくぶつ

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 食用を中心とし,衣料用・染料用・嗜好品用・飼料用などの目的によって,人間の手によって栽培される有用植物。野生の植物にも有用植物に属するものが多々あり,さまざまな目的で人間に採集され,利用されてきたが,栽培植物は,その発芽・生長・開花・結実といった植物の生活環境全体が人間の手によって管理されており,このために野生の植物とは異なる特色を共通にもっている。

 その共通する特色の第1は,植物の有用部分の巨大化であり,たとえば,禾穀類であれば,穀実の巨大化と穂につく穀粒数の増加といった現象があり,また根菜類を例にとれば,根の肥大化といった現象がみられる。こうした現象は,栽培植物の先祖の野生植物からみれば,いわば畸形である。

 また,禾穀類についていえば,よく熟した穀料は,野生種では手でふれればパラパラと落ちてしまうが,栽培種では穀粒は容易に穂から落ちない。これを穀物の非脱落性という。穀物が非脱落性をもつことによって,人間の手に上る収穫が可能となっている。また,野生植物については,人間の手を借りずに発芽・開花・結実を行うために,その種子が,一般に以後の生育に適した時期に発芽するよう休眠性をもち,植物は開花・結実のために強い感光性ないしは感温性をもっている。しかし,栽培植物は,人間の思うままに栽培可能なように,種子の休眠性もなく,感光性や感温性も鈍感になっている。さらに,熱帯起源の栽培植物のうち,とくに重要なイモ類・バナナ類・パンノキなどは,種子を消失してしまっており,繁殖を栄養繁殖によっている。すなわち,これらは人間の手を借りずには容易に繁殖できないまでになっている。

 ところで,人間が植物を「栽培する」ということ自体,非常に定義が困難である。つまり,「栽培する」ということばには,利用植物を根こそぎにしないといった非常に消極的な人間の植物へのかかわり方から,その植物の生活環境全体を人間が完全に管理するまでの行為が含まれているのである。そこで,先に述べたような栽培植物特有の共通する性格をもったものだけを栽培植物としようという論も出てくる。すなわち,栽培植物の特有の性格は,長期にわたる人間の手による栽培の結果として,自然にないしは人為的選択によって獲得された形質であり,真の栽培植物とは,遺伝子にこうした栽培化の結果得られた特質を発現させるものをもつもののみをいい,単に人の手で栽培されている植物全体をさすものではないとするのである。

 野生種から栽培種への変化は,栽培種としての形質を発現させる遺伝子の突然変異の結果である。ところで,一般に想像されることは,この栽培化は人間が山野に自生する有用植物をもちかえり,住居近くに植え,栽培・利用に好ましい形質のもののみを意識的に選択することによってなしえたものと考えられている。しかし,事実は,むしろただ単に人間が栽培するという行為を機械的に繰り返した結果,その過程で無意識の選択が行われ,栽培種が成立したらしい。そして栽培種の成立後,しだいに意識的選択が行われるようになったとされている。

 したがって,栽培植物を先のように定義すると,植物が栽培化されてゆく途上には,いわば「半栽培」の段階があることになる。こうした半栽培植物と呼ぶべきものは穀類では知られていない。しかし,ヨーロッパ人の北アメリカ侵入以前には,ダコタ族らのインディアンがマコモの一種であるワイルド=ライスを播種し,採集していたとされており,これは半栽培の状態にあったとされている。草本性の他の植物でも半栽培種はほとんど知られていないが,本木性の植物には,現在でも半栽培状態のものが数多くみられる。とくに西アフリカでは,パルキア・カポック・バオバブ・パルミラヤシ・アブラヤシ・シアーバターなどがこの段階にあるものとされ,それらには各々,野生・半栽培・栽培のいずれの種もみられるという。また,耕地内の雑草には,前述の栽培植物の性格を一部もっているものがある。すなわち,雑草は,一般には野生型と栽培型の中間的な性質をもち,脱落性・休眠性などの野生型の性質を保持しつつ,草丈・草型などはみかけは栽培型の形態をとっていることがある。事実,この耕地内の雑草をへて真の栽培植物になったものが認められており,その代表的な例として,コムギ畑の雑草から栽培植物になったライムギ・エンバクは有名である。

 ところで,定義すら困難な栽培植物ではあるが,明らかに栽培化種にまで発展してきた現在の栽培植物が,いつごろ,どこで初めて開発されたのかという問題については,現在でも多くの疑問が残されている。ここで植物の栽培化の起源について提出されているさまざまな仮説を大きく三つに分け概説しよう。

 その第1は,おもに考古学的証拠にもとづいてその正当性が主張されている,中近東起源説ともいうべきもので,コムギ・オオムギという穀物栽培と牛を中心とする家畜に注目しており,栽培化の起源をおおよそ前1万2,000〜前1万4,000年にまでさかのぼる中石器時代ないしは後期旧石器時代と推定している。第2の説は,おもに文化史・人類学・民族学などの研究者たちが主張する熱帯起源説であり,原始農耕と結びついた習俗や,農耕の開始を可能とする恵まれた自然環境にもとづき,イモ類・バナナ・サトウキビなどの栄養繁殖植物の栽培化にとくに注目している。

 第3の説は,野生の栽培種の先祖種の分布から栽培化を研究する立場に立つものであり,栽培化の時代そのものについてはあまり論及されない植物学的な研究である。この立場に立った研究の代表的なものとして,栽培植物ごとに,ないしはいくつかの作物群ごとに,遺伝的変異性の地理的中心地に栽培化の起源地を求めようとしたソ連の植物地理学者バビロフの研究があげられる。

〔参考文献〕中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』1966,岩波書店

田中正武『栽培植物の起源』1975,日本放送出版協会

ベーカー,阪本・福田訳『植物と文明』1975,東京大学出版会