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●混合農業 こんごうのうぎょう

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 作物栽培と家畜の飼養とが結びついた農業。ヨーロッパのうち,地中海沿岸地域を除いて広く行われ,ヨーロッパ農業の基本型といえる。農家は,畑で食料作物(コムギ・ライムギなど)と,家畜用飼料作物(オオムギ・エンバク・テンサイ・カブ・マメ科作物など)を栽培し,ウシ・ブタ・ウマなどの家畜を飼養する。家畜の排泄物とマメ科の牧草は畑の地力増進に活用され,穀物と家畜販売が収入源となる。作物栽培と家畜飼養は,単に並存しているのではなく相互関係にあるわけである。

【混合農業の起源】夏は高温で乾燥し,冬は温暖で比較的雨が多い地中海式気候をもつオリエントの,いわゆる“肥沃な三日月地帯”においてオオムギ・コムギ・エンドウ・ソラマメ・ダイコン・カラシなどの1年生冬作物を栽培化し,ヒツジ・ヤギなどの家畜を馴致することによって成立した穀物農耕の起源は,イラクのジャルモ遺跡などの考古学史料によれば,前7000年紀にまでさかのぼる。前5000年紀にはウシの家畜化が進み,犂耕(すきこう)が行われるようになった。また同一の耕地で耕作と休閑地放牧を交互に行い,播種や脱穀にも家畜を用いるという,農耕と牧畜とが有機的に結合した有畜混合農業も生み出された。さらに,灌漑・排水技術が発達することにより,最初は山麓地帯の乾地農業として始まった穀物農耕は,高い生産性をもつようになり,前5000年紀の後半にはチグリス・ユーフラテス河の沖積地やナイル河谷に,オリエント古代文明を成立せしめた。前4000〜3000年紀にかけ,この農耕文化は中央アジア・ヨーロッパへと伝播した。地中海沿岸・黒海沿岸などからヨーロッパへ広がったこの有畜混合農耕が,ヨーロッパ農業の基本型である混合農業の基礎となったのである。

【ヨーロッパにおける混合農業の発展】地中海北岸地域では,オリエントの直接的な影響によって,耕地を二等分し,休閑と耕作を交互に行う乾地農業が行われるようになった。これは,“ローマの二圃式”と呼ばれている。単位面積あたりの収量は灌漑農業よりも低いが,水利に制約されないため大面積使用が可能である。果樹栽培と放牧を伴ったこの二圃式農業が,ギリシア・ローマ文明を生み出したのである。ローマ帝国の領土の拡大に伴い,二圃式は,アルプス以北地域の農業にも影響を及ぼした。アルプス以北の森林地帯で農牧兼業の生活をしていたゲルマン系民族は,ローマの二圃式を採り入れ,さらに三圃式農業へと発展させたのである。耕地を三等分し,それぞれ休閑・冬作(コムギ・ライムギ)・夏作(オオムギ・エンバク・マメ科作物など)にあて年ごとに交替し,3年に1度の休閑を行うこの三圃式は,二圃式に比較して病虫害の排除,労働力配分においてはるかに勝っていた。また,より湿潤な気候であるアルプス以北ヨーロッパ地域では,除草のために土を深く耕し反転するため休閑を必要とした。そのため深耕・反転用として馬6〜12頭でひく重い大型犁がつくりだされ,高い生産性をあげた。冷涼湿潤な土壌は,酸性反応溶脱作用すなわちポドソール化しやすい。またムギ作は地力を著しく消耗させるため,家畜の排泄物を畑に還元することは土壌保全の効果を高めた。三圃式は,家畜と耕作とを最大限有効に結合したのである。休閑地や刈跡地には,共同放牧が行われるため耕作・休閑・永久的な放牧地・採草地については,共同体的村落組織が統制を行った。この三圃式は,急速な農業生産力の上昇をもたらし,封建制度社会を担う力となったのである。しかし,人口増加によって永久草地が減少し,家畜飼養・地力維持が脅かされるようになると,休閑地にマメ科作物や根栽類を栽培する改良三圃式となった。18世紀になると休閑地は解消して,輪栽式が普及しはじめた。耕地を数区に分け,穀物・野菜・牧草を一定の順序で作付けする。耕地の地力維持・病虫害の予防が容易であり,労働力配分の合理化を可能とした。中耕作業の導入・飼料作物の開発と栽培・牛の舎飼いが行われるようになり,農畜産物生産力は飛躍的に増大した。産業革命と並行してすすんだ輪栽式農業は,こうしてヨーロッパの近代農業を形成していったのである。さらに,ヨーロッパ人がアメリカ大陸の湿潤な中緯度地方に移住することにより,混合農業が普及した。アメリカ合衆国プレーリー中部のトウモロコシ地帯がこの例である。収穫されたトウモロコシは,その大部分がブタ・ウシなどの飼料となる。農家は,ほかにコムギ・エンバク・牧草などを輪作するが,現金収入源は主として畜産物である。とくに経営規模が大きく,機械化が急速に進んだ点に特色がある。

【混合農業の現状】農業の機能型に着目して,世界の農業地域区分を行ったウィットルセーは,混合農業を,商業的混合農業自給的混合農業の二類型に分けた。商業的混合農業は,農業の商品生産化が進んだものをさし,北西ヨーロッパの大部分の地域,北アメリカ大陸ではアメリカ合衆国のトウモロコシ地帯,南アメリカ大陸ではブラジル,また南アフリカの一部に見られるとした。自給的混合農業とは,農業の資本主義化・商品生産化が遅れ,農民の自給を主目的として行われるものとして,東ヨーロッパからソ連邦・バルカン半島・小アジアにかけての地域で行われていると述べたのである。しかし今日では,これらの地域の農業は,大部分社会主義的な集団的混合農業に変わっており,自給的という類型化には当てはまらない。またウィットルセーが別類型とした酪農は,混合農業の一部と見なすほうが適切だとされている。今日の北西ヨーロッパ混合農業では,食料作物としてコムギ・ライムギ・ジャガイモ・テンサイ,飼料作物としてエンバク・トウモロコシ・カブ・牧草などが栽培され,肉牛としてのウシ・ブタが多く飼育されている。テンサイは,地中海原産の作物で古くから家畜飼料として栽培されてきたが,18世紀中ごろに砂糖を採取する方法が発明され,砂糖のしぼりかすを飼料とするようになった。19世紀に入って急速に普及し,ムギ・ジャガイモとともにヨーロッパ混合農業の代表的作物となっている。この地域では,作物や家畜の選択に関する知識・化学肥料使用の普及度が高く,機械化による合理化・家畜飼養技術の発展が著しい。とくに家族労働を中心として,農繁期には安価な出稼ぎ労働力を容易に得られる西ヨーロッパでは,収益が大きいため農民の生活水準は高い。夏に冷涼で湿潤な気候地域では,国際的規模での市場形成に伴って,混合農業は飼料栽培と乳牛飼養が結合した,酪農として発展を遂げた。食料作物のライムギやバレイショよりも,エンバク・オオムギ・牧草栽培の比重が大きく,牛乳生産に重点がおかれた農業経営である。デンマークを中心とした北ヨーロッパでは,牛乳からクリームをとった残りのスキムミルクを飼料として,ブタを飼養している。スイスを中心とするアルプス地域では,夏には高地放牧,冬には平地で舎飼いをする移放により,ウシ・ヒツジの乳製品生産が行われている。オーストラリア・ニュージーランド・アメリカ合衆国の五大湖沿岸からセントローレンス川流域での酪農は,いずれも合理化が進んで経営規模も大きい。とくにアメリカ合衆国では,加工業と結合して企業的農業となっている場合が多い。東ヨーロッパからシベリアの森林ステップにかけては,北部ではエンバク・アマ・牧草栽培,南部ではこれに加えてテンサイとトウモロコシ栽培と,ウシ・ウマの飼養が社会主義的な集団的混合農業として行われている。

 日本の有畜農業は混合農業に近いが,経営規模において大きく隔っている。

〔参考文献〕中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』1966,岩波書店

飯沼二郎『風土と歴史』1970,岩波書店