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●古文書学 こもんじょがく

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【総括】過去における古文書を,公私の様式を分析し科学的に研究する学問をさす。この学問は歴史学の補助学として,ヨーロッパでも東洋でも,19世紀になってから発展した学問である。ヨーロッパでは商取引上の筆跡鑑定からはじまり,民事・刑事訴訟のさいの物的証拠として鑑識が必要とされたため,古文書は筆跡鑑定を中心として研究されている。日本の場合は古くから文書の鑑定・書札礼の研究・古筆の鑑賞・古文書の整理分類や利用とかかわって研究の伝統を形成した。そうしたなかでとくに古文書様式論を中心に研究が行われた。文書の授受者間の関係・用件・差出人の個性・地域の差等によって異なる内容・材料・作成手続き・様式・花押・印章・用語・書風などの古文書解明のための知識の体系づけが行われ,そのうえにたってヨーロッパの古文書学を学びつつ,形成されたのは,明治30年代になってからである。

【日本古文書学の特質】日本の古文書学は,日本の文書様式そのものが中華文化圏のなかにあったことから,文字といい,様式といい,概念すべて漢・魏・晋・六朝の世に整備されたものの影響をうけて成立したものといってよい。したがって中国の文書様式を継受している。律令国家法の骨格が中国の唐の影響であること,国史編纂のうらにもその影響がみられる。とすれば出典をしらべ典拠とのかかわりの研究が基本にすえられるべきことである。『類従三代格』『政事要略』『朝野群載』『本朝文粋』などすべて公文書集成で範式や凡例集といってよい。また書札礼を示すものに『消息耳底秘抄』とか『武家書札礼節』などのごとき,故実家の手になる仕事に通暁することが必要不可欠なことである。そのほかには実際の文書を編してつくった記録その他,『吾妻鏡』などに見出すこともぜひ検討すべきことである。

 江戸時代になると,ますますこの種のものが増加している。ただその場合日本一国対象のものばかりでないことも注意を行き届かせておきたい。『本朝通鑑』『武家事紀』『藩翰譜』のごときものから『島津国史』『伊達治家記録』『萩藩閥閲録』『薩藩旧記雑録』『佐賀文書纂』『黒田家譜』をひもとくと,その様式に接することができ,幕藩体制社会の骨格がわかる。その上に藩法集や幕府法令集成を検討すると,文書様式の基本型に接することができる。そうしたなかでつねに考えのうえにおいておくべきことがある。それはなんといっても訴訟関係文書の存在であり,法律的実務関係の生きた判例を示すものだけに生々しいものである。これはもっとも重要な文書といってよい。これは当時の財産とか職とか伝家の宝物集のごときものともかかわる。さらにこれらの文書判物の真偽判定のためには鑑識眼・目利きかどうかが大切なこととなる。しかしこの訴訟関係文書はやがて必要な書類となり書証史料ともなる。やがて調度文書ともなり,それを見て必要な書類の形式を整えたりする。またその目的にそって編纂された古文書集なども成立してさえいる。 維新以前は,中国および日本の古い時代に通ずる人々のよく識るところであった。しかし古文書学も近代に入ると一変する。大日本古文書と大日本古記録の二つの形をとり,坪井九馬三によって西洋流の古文書学が輸入され,久米邦武や星野恒・黒板勝美三浦周行らによって学問大系化している。そして古文書学は一つの学問として様式論中心に展開し,伊木寿一・吉村直樹・佐藤進一・中村直勝らによって発展させられている。ただ西洋の古文書学は,文書の真偽争いが日本よりうるさい。その点で鑑識眼がもっとも大切なこととされている。しかし史学の基礎としての古文書学は,フランスのアビニヨンあたりになってはじめて科学としての古文書学が発展した。19世紀になってから発展した学問であるから,日本の近代史学はその面でそう立ち後れているわけではない。