●公民的資質 こうみんてきししつ
AD
【意義をめぐって】公民というのは,国または地方公共団体の公的な意思の形成に参加する資格のある者ということができる。つまり,参政権をもって地方公共団体および国家の構成員としてその意思決定に参加する個人が公民であって,自由・権利と責任・義務の主体にほかならない。したがって公民的資質というのは,このような個人にふさわしい能力や態度ということになる。ところで,昭和43年版の学習指導要領においては,すでに小学校「社会科」の目標として,この公民的資質が取り上げられていた。そして,当時の「小学校指導書・社会編」(文部省,1969年5月)は,〈公民的資質とは何かということが,今後の社会科の指導を進めていくうえでもきわめて重要な問題になるわけである。公民的資質というのは,社会生活のうえで個人に認められた権利は,これをたいせつに行使し,互いに尊重しあわなければならないこと,また具体的な地域社会や国家の一員としてみずからに課せられた各種の義務や社会的責任があることなどを知り,これらの理解に基づいて正しい判断や行動のできる能力や意識などをさすものといえよう。したがって,市民社会の一員としての市民,国家の成員としての国民という二つの意味を含んだことばとして理解されるべきものである〉と述べていた。つまり,ここでは,市民社会の一員として,社会生活における集団の一員としてのあるべき資質も含めて考えられている。教育的には,このような意味で考えていくのが妥当であろう。【小・中・高等学校の「社会科」の目標と公民的資質】現行の小・中・高等学校の「社会科」は,どの段階においても,究極的に公民的資質の育成をめざしている。そこで,このような観点から改めて公民的資質を検討してみることが必要である。その際,とくに教科の構成が,地理・歴史・公民の3分野によって成り立っている中学校「社会科」の目標は重要な示唆を与えてくれる。中学校「社会科」の目標は,〈広い視野に立って,我が国の国土と歴史に対する理解を深め,公民としての基礎的教養を培い,民主的,平和的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う〉となっている。ここでは,公民としての基礎的教養と公民的資質とが区別されている。このことは,公民的資質が国土や歴史についての理解および公民としての基礎的教養によって支えられていることを意味している。したがって,少なくとも,これら3分野の基本的な目標を吟味してみることが必要である。この3分野の基本的な目標は,〈日本や世界の様々な地域についての学習を通して,地理的な見方や考え方の基礎を培い,広い視野に立った我が国土に対する認識を養う〉〈我が国の歴史を,世界の歴史を背景に理解させ,それを通して我が国の伝統と文化の特色を考えさせるとともに,国民としての自覚を育てる〉〈個人の尊厳と人権の尊重の意義,特に自由・権利と責任・義務の関係を社会生活の基本として正しく認識させ,民主主義に関する理解を深めるとともに,国民主権を担う公民として必要な基礎的教養を培う〉というものである。国民主権を担う公民として必要な基礎的教養の背景として,地理的・歴史的な見方や考え方などが培われることが期待されており,これらが公民的資質を形成していることになるのである。
【公民的資質の課題】前回の「社会科」の改訂では,小学校「社会科」の目標で公民的資質が用いられ,中学校「社会科」で公民的分野が成立したことと関連して,厳しい批判がみられた。公民=オオミタカラと解し,戦前の公民教育の復活であり,国家・国益に奉仕させる押しつけの公民教育であると批判したのはその典型的な例であった。しかし,現行の「社会科」では,小・中・高等学校とも教科目標で公民的資質が取り上げられたが,前回のような批判はほとんどみられなくなった。今後は,国民主権を担う公民という点に着目し,単に現在に適応するという固定的なものとしてではなく,21世紀にむかってよりよい社会の形成をめざす創造的な性格のものとして考えていくべきである。