50音順    検 索

●高等教育 こうとうきょういく

AD 

 一般に,学校教育体系のなかで,初等教育・中等教育を基礎として,その上の段階で実施される教育をいう。今日わが国では,高等教育について法令上の規定はないが,一般には学校教育法第1条に規定される大学(短期大学を含む)および高等専門学校において高等学校卒業資格またはこれと同等の学力を有する者を対象として提供される組織化された教育の総称。大学院教育および大学通信教育もこのなかに含まれる。ここに述べた高等教育の制度的概念は歴史的に形成されてきたものであり,今日においても確定しているとはいいがたい。戦後の学制改革によって設立された新制大学は,戦前期に設立された帝国大学,官・公・私立大学,高等学校,大学予科,専門学校,教員養成学校等から構成される階層的構造の旧制度の高等教育機関を再編成・統合して設置された唯一の高等教育機関であった。戦後,暫定的措置として発足した短期大学がしだいに社会的に定着し,わが国の高等教育制度は大学と短期大学の2種の機関で構成されることになった。1962年以降,産業界の要請に応えて高等専門学校が各地に設置された。これは中学校に接続する5年制の機関であり,第4,5年次の教育は高等教育として扱われることになった。これが,戦後の新しい高等教育制度に登場した非大学型機関の最初である。その後,後期中等教育の普遍(ユニバーサル)化にともない,高校卒業者に対する教育機会の拡大の必要から,専修学校(1975)が制度化され,また国民の生涯教育の要求に応ずべく放送大学(1983)が創設された。今日,これらの非大学型あるいは非伝統型の教育機関も高等教育機関に包括される動向にある。このほか,学校教育体系に含まれないが,各省庁の大学校,国公私立の各種学校等において高校卒業者を対象としたきわめて多彩な高等教育レベルの教育が実施されている。このように,高等教育の概念の内容・範囲は中等教育の普及および産業社会の発展にともなって拡大しつつある。こうした動向はいずれの産業社会にも共通したものであり,中等教育修了者を対象とした教育システムの全体を高等教育という制度的概念で包括することは困難となってきた。そのため,中等教育以後のすべての教育に関して中等後教育(ポストセカンダリー=エデュケーション),または第3段階教育という用語を用いる傾向が世界的にひろまっている。

【高等教育の発展段階と基本的性格の変化】上に述べたことから高等教育制度は,社会の発展に応じて,全体規模とともに,その基本的性格(構造・目的・機能等)が変化することがわかる。高等教育制度の発展と主要高等教育機関の基本的性格のあいだにはどのような関連性があるのであろうか。ここではアメリカの社会学者マーチン=トロウの理論にしたがって,この関連性について説明しよう。彼は高等教育制度を,限られた少数者を対象とするエリート型の段階,比較的に多数の者を対象とするマス型段階,さらに万人を対象とするユニバーサル型段階の三つの発展段階に分類した。エリート段階の高等教育制度は全体規模(該当年齢人口に占める大学在学者比率)15%以下で,その段階の高等教育の目的は選ばれた少数者の人間形成・社会化におかれる。高等教育の機能はエリート・支配層の精神・性格の形成にある。マス段階は全体規模が15〜50%の範囲である。その段階の高等教育の目的は相対的多教者に対する知識・技能の伝達におかれ,その機能は専門分化したエリート養成と社会の指導者層の育成である。全体規模が50%以上になると,ユニバーサル段階であり,高等教育の目的は大学進学を義務だと感じる万人に対して新しい広い経験を提供することになる。この段階の高等教育の機能はその産業社会に適応しうる国民を育成することである。さらに高等教育の発展段階に応じて,入学者選抜の原埋,教育課程および主要な教育方法・手段も変化する。エリート段階では能力主義にもとづく入学者選抜がなされ,高度に構造化されたカリキュラムに沿って,個人指導・師弟関係を重視したチュター制・ゼミナール等の教育方法がとられる。マス段階になると,入学者選抜方法は能力主義にもとづくだけでなく,教育機会の均等の原理が重視される。カリキュラムは構造化されているだけでなく,柔軟性が必要となる。教育方法は多人数の講義が主流となり,ゼミナールは補助的位置づけとなる。さらにユニバーサル段階にいたると,万人に教育を保障し,集団としての達成水準を均等化することが学生選抜の原理となる。そのため,進学を希望し,最小限の条件をみたす,すべての人々に対して高等教育機会は開かれることになる。カリキュラムは多様な学生の要求に呼応しうるよう弾力的なものとなり,その構造性は喪失する。そこでは学生に新しくかつ復雑な物の見方や幅広い考え方を身につけさせることが教育の目標とされ,教師と学生の直接的な人間的な結びつきは従となり,TV・コンピュータなどの教育工学教授形態が重視されることになる。トロウの発展段階論にしたがえば,今日イギリスおよびヨーロッパ諸国の多くは,全体としてエリート段階からマス段階への移行過程にあり,日本・カナダ・スウェーデンはマス段階にある。アメリカはユニバーサル段階へ移行しているとみられる。したがって,これら諸国の高等教育制度はその発展段階に応じて,その基本的性格が変化していることになる。また,各国の高等教育の諸困難は一つの段階から次の段階への移行に際して生じたものとして説明される。

【高等教育制度の国際比較】欧米諸国の高等教育制度を,その主要な高等教育機関の類型とその相互関係に応じて分類すると,ヨーロッパ大陸諸国モデル・イギリス=モデルおよびアメリカ=モデルの三つに分類できる。ヨーロッパ大陸諸国モデルは,総合大学およびそれと同等の機関からなる大学セクターと専門学校などの非大学セクターの2者で構成されており,両セクター間には,学習期間・学位の程度に大きな差があり,学生の移動はない。イギリス=モデルの高等教育制度は大学セクターとポリテクニクなどの非大学セクターの2者で構成されている点はヨーロッパ大陸諸国モデルと同じだが,両セクターの学習期間・学位水準に差がないのが特徴である。また,セクター間で学生の移動がなく,大学セクターの教育は理論的・総合的であるのに対して非大学セクターの教育が実用的・個別的なところは,ヨーロッパ大陸諸国モデルと共通している。アメリカ=モデルの高等教育制度は,イギリス=モデルでは高等教育機関に含まれぬ短期大学から世界の学術研究をリードする大学院を有する総合大学までの多彩な諸機関によって構成されている。多元的セクターからなる階層的構造の制度といってよい。学生は同一セクターのみならず異セクターの大学間,たとえば短期大学と総合大学間においても移動ができる。各セクターの高等教育機関は一般に複数の教育目的を有し,多様な学生の要求に対応できるように,学問研究・専門教育・一般教育・職業教育など多様な教育を同時に実施している。日本の高等教育制度は,OECD教育調査団報告書の表現を借りれば,東京・京都大学を頂点とするピラミッド型階層構造である。しかも同一セクターの教育が画一的であるところに特徴がある。アメリカの高等教育制度も多元的階層構造である点は日本の場合と共通性があるが,決定的に異なる点は,[1]アメリカでは頂点に位置する大学が多く,それには私立大学も数多く含まれる。[2]日本では同一セクターの大学間でも学生の移動はきわめて困難である。つまり日本の制度が剛構造であるのに対して,アメリカの制度は柔構造という特徴がある。

【高等教育の課題】現代の産業社会において,高等教育の量的拡大は不可避の現象であり,その前提として初等・中等教育の制度・内容の充実が求められていることは各国共通の認識となっている。そこで高等教育の課題は,[1]中等教育と高等教育の両者間における制度・内容面の接続関係の検討が必要である。[2]わが国の場合,高等教有制度の剛構造性および教育の画一性については根本的な検討が必要である。[3]さらに中等後教育の全体システムを確立すべく努力をすること,それによって多様な教育機会を求める青年・成人に対応するとともに,そのなかでの大学の存在理由・目的・機能を再検討し,新しい時代,来たるべき社会からの要請に対応することが求められている。

〔参考文献〕マーチン=トロウ,天野郁夫・喜多村和之訳『高学歴社会の大学』1976,東京大学出版会

喜多村和之「日本における〈中等後教育〉の制度的構造」『大学論集』第7集,1979,広島大学大学教育研究センター