●交通 こうつう
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交通とは,一般に人および物の場所的な移動をいう。ただし,単なる物理的な移動で,社会的・経済的意義をほとんどもたないような現象,たとえば川の水が川底の土砂を押し流したり,潮の干満によっておこる海水の移動などは交通とはいわない。【交通の範囲】交通という語を最も広い意味に用いる場合は,「人と人とのあいだのいっさいの関係」をさし,売買などの取引関係や,物の貸借をはじめ,日常の対話や訪問なども交通のなかに含ませている。これよりやや範囲を狭くして「経済的な給付関係」をさすものとして,財貨の場所的な移動を伴う交換はもとより,いっさいの商取引を含める場合もある。交通経済学では次のように考えられている。すなわち,人間の社会生活は一定の経済地域を基盤とするので,その空間的距離を克服する交通は,社会生活の基本となるもので,「経済生活における空間の克服」というように定義され,人または財貨の空間的移動を意味し,広義には通信も含ませている。しかし,通信における空間的距離の克服は,人または物の場合とはかなり異質であり,近年における通信機関の急激な発展は,情報化社会への転機ともなっているし,また.古くから交通・通信といって,この二つの用語を併記する慣習もあることなどの理由で,交通のなかに通信を含めない場合が多くなってきている。ここでは交通という語を「人および物の場所的な移動」とし,通信を意味する音信の移動を含めないことにする。
【交通の本質】一般的な用語としての交通の内容や範囲の規定から,一歩進めて,社会科学の対象として交通現象を取り扱う場合には,その内容にもおのずから規制があるはずである。交通の本質を検討するためには,この規制についていま少し掘り下げてみる必要があろう。[1]交通は移動現象であるから,客観的な移動の事実がなければならない。当事者相互の権利の移転や,主体の変更だけでは交通ということはできない。また文化が進むにつれて人間の生活は,複雑で広範囲にわたるようになり,人や物の移動現象は経済的な関係だけでなく,経済以外の諸関係をも含むようになる。[2]交通は人の意志にもとづく行為であることを必要とする。洪水による土砂の移動は交通とはいえないが,筏流しのように木材を流すことは,人の意志によるもので交通ということができる。[3]交通という場合には,人および物それ自体の移動を目的としているのである。郵便は物の移動とも考えられるが,当事者は郵便物の材料を組成している物の移動を目的としているのではなく,意志の伝達をめざしている。電信・電話・ラジオ・テレビなどは,意志または思想の伝達を目的とするもので,これらは通信として交通の枠からはずされるのがふつうである。しかし,明治時代には文通の語を,逓信とか通信という内容を含めて使われる場合も多かった。『夜明け前』の作者は〈言葉もまた交通の重要な機関である〉といっているが,肉声のままのことばや文字に示されたことばは,それ自体が思想の伝達を果たすものであって,とくに空間的離隔を克服することを目的とはしていない。[4]移動の方法についてみると,通常機械装置や機械的設備によって場所的移動をはかることを運送といい,公道上を人が散歩したり,手に荷物をもって通る場合には,これを道路交通といい,運送とはいわない。このような観点から,交通という用語は運送または運輸という語より範囲が広い。また機械的装置や設備を経済的目的で運営して,人や物の場所的移動をはかる行為は,交通営業といわれるが,運輸または運送をこの交通営業と同じ意味に使うこともある。したがって交通は経済的目的のためとは限らず,非経済的行為をも含むことになる。
ここで交通という用語を定義づけると次のようになろう。交通とは,人間の意志になる人または物の場所的移動をいい,経済的行為ばかりでなく非経済的な移動現象も含み,また機械的装置や設備を伴うことが多いが,伴わない場合も含まれており,営業行為のみをさすのではない。しかし場所的移動を伴わない商取引や,権利や主体の移動を含まれないし,音信や思想その他の無形文化財の場所的移動なども含まれない。
【交通の機能】交通の機能を経済的にみると,場所的離隔を克服して生産や消費における効用を高めるということである。すなわち交通の進歩は産業の生産力を増大するとともに,市場の形成や拡大を容易にしている。つまり交通の経済的機能は,生産的な面と流通的な面をもっている。産業革命が交通機関の発達によって支えられ,19世紀後半からの海上輸送の発展は,各種の産業に地域的専業化の傾向をつくりだし,綿・ゴム・木材・コーヒー・小麦などの生産も,地域的に専業化することにより大いに生産性を高めた。また交通は市場を創出するという機能をもち,その発達は市場圏を拡大する。交通の近代化は輸送の迅速化・大量化を促し,定期性や頻繁性を高め,輸送費を節減させ,これによって流通過程の合理化が図られる。このようにして交通の発達は経済生活をより合理的に導くことになる。しかし,交通の機能は経済的な面ばかりではない。山間部にある村落社会の特殊性や個性が,鉄道やバスの開通によって失われることはよく観察されるが,一般に交通は閉ざされた社会を開く機能,つまり社会を一般化する機能をもっている。19世紀における鉄道の発達は,ドイツ民族の統一を助け,封建国家から近代国家へと発展させ,アメリカにおいては鉄道という新しい交通機関が,新しい社会を形成するのに大きな貢献をした。さらに交通は一般化した社会を特殊化するという機能ももっている。交通の発達は都市の発展をもたらし,市街地を拡大させるが,大都市が形成されると商店街・工業地区・住宅地区などの機能的な地域社会が分化し,それぞれの特色を発揮することによって特殊化がいっそう進められるのである。
【交通の発達】人類が地球上に出現したときから交通は,自己の生存を維持するために始まっていた。原始時代には自然物の採取のため自然のままの歩きやすい道が選ばれるが,最初はなんらの工作もほどこされなかった。農耕・牧畜の時代になると定住生活が可能になり,生産技術が発達すると,社会の形態も部落を形成し,生活空間が拡大する。ここに空間的離隔を克服しようとする交通の社会的意義が生じ,自然発生的なものから人為的な道路としての形態が整ってくるのである。農耕社会では,生産や消費のための部落社会内部の交通と,交易のための部落と部落との交通が生じ,後者では峰越しの峠道や河川の遡行などもみられるようになったのであろう。牧畜社会では飼料となる草原を求めて,広範囲に移動する群居生活が営まれたであろうが,畜力を交通に利用して広域交通が行われ,農耕社会にはみられない交通技術が発達した。
交通機関についてみると,最初は人間そのものが1個の交通機関としての働きをしたが,やがて荷物を運搬するため,さまざまな運搬法や運搬具が考えられた。荷物を運ぶのに引きずって運ぶ方法は,原始時代から行われていたであろうが,丸太の上の荷物が軽く動かせることを発見したのは偶然のことであったであろう。車の起源説にはいろいろあるが,新石器時代には存在していたという説もあり,青銅器時代に使用されていたことは確かで,ユーラシアの草原地帯の遊牧民たちの手によって発明され,世界各地にひろまったと考えられている。車の利用は道時の改修を促し,平地の道路が発達して文化が進み,古代都市国家が,完備した道路や橋を構築し,交通機関としての車の改良や,戦車としての車の利用に意を用いた。また,犬・馬・牛・ロバ・トナカイなどの動物が交通に使用されたのはきわめて古い時代からで,このため交通の距離と運搬量が増大した。
未開社会において大きな河川や湖沼は,交通の障害であった。最初の橋は自然木をかけ渡した丸木橋や飛石のようなものであったが,都市国家成立のころには大規模な石橋も現れ,橋は交通上重要な役割を果たした。舟の起源についても多くの説があるが,丸太や,アシ・竹などを束ねたものや,皮袋などが用いられ,つづいて丸木舟・アシ舟・いかだ舟などがつくられた。造船技術が進むと,河川や湖沼は重要な交通路となった。さらに技術が進むと,舟は海洋航行にもたえられる構造になり,航海術の進歩とともに,大規模な海上輪送が可能となった。未開時代には風や潮流を利用した自然航行法と,櫂(かい)による人力航行とがあり,人力航行には多数の奴隷が使用されたという。中世においては,陸上交通では畜力利用の改良が始まり,馬具の改良は馬の牽引力を増大させ,道路上を荷物をのせた馬車が走るようになった。海上交通では,12世紀の羅針盤,13世紀の固定舵の発明によって航法が安定し,マストの採用により航続力が長くなり,海上貿易の大発展や,コロンブスのアメリカ発見(1492)やバスコ=ダ=ガマのインド航路の発見(1497〜99)などをもたらした。16世紀以降には運河が自然の水路を補い,ヨーロッパでは内陸水路網が形成されていく。 産業革命期以降における交通技術の発達はめざましい。機械の発達は工場制度を確立させ,このために生じた市場のたえまない拡大が,多量の原料と商品の迅速・低廉な輸送を要求した。産業革命期の初期,イギリスでは道路が悪く,駄馬が重要な交通手段であったが,道路の表面を砕石でかためるマカダム式道路建設法が1819年に発表され,近代的道路の出発点となり,大形荷馬車が駄馬にとって代わった。また,運河は石炭の大量輸送によって大きな利益をあげ,運河網が完成し,1830年ごろまでの運河時代が始まった。しかし大工業の発達による莫大な輸送需要を満足させたのは,従来の交通機関の拡充によるものではなく,新しく,より強力な交通機関すなわち鉄道の出現であった。鉄製レールが組み合わされて鉄道は実用化された。すなわちワットの蒸気機関の出現後,1803年のトレビシックの蒸気機関車,スティーブンソンのロコモーション号の完成の後,1825年にはストックトンとダーリントンのあいだの鉄道が開通し,1830年にはリバプール−マンチェスター間の鉄道の開通となった。大量の貨物を迅速に輸送できる鉄道は,ヨーロッパ大陸やアメリカ大陸に爆発的にひろがり,やがてインド・日本・中国・ソ連・カナダ・南米など全世界にひろまった。水上輸送においても,蒸気機関を動力とする汽船が出現し,1807年にフルトンがつくった外輪船クラーモント号はニューヨーク−オールバニー間の旅客輸送に成功した。帆船に補助的な蒸気機関をつんだ汽船が,大西洋横断の定期船となり,汽船の地位は不動のものとなった。1860年代には大形・高速の鋼鉄船が全世界の海に定期航路網をはりめぐらし,交通需要の増大とそれに呼応する交通機関の改良は,さらに大きな生産の拡大をもたらした。
19世紀を通して,商工業の発達は都市の発展を促し,都市地域の拡大は都市交通機関の必要性を高めた。乗合馬車または馬車鉄道に依存していた都市に,電気鉄道と自動車が出現した。1863年にはロンドンにおいて街路の不備を補う地下鉄が開通し,ひきつづいてパリ・ボストン・ブタペストなどで地下鉄の計画が立てられ,今や地下鉄は世界中の大都市に共通する重要な都市交通機関となっている。20世紀になると,内燃機関や蒸気タービンなど新しい動力技術の発展がみられ,自動車・バス・電気鉄道・市内電車・航空機・ディーゼル電気機関車などが出現した。ガソリン自動車は高速の交通機関として急速に普及し,フォードの大衆車が流れ作業による大量生産を開始した。自動車の普及発達は道路の拡幅と舗装を促し,都市・郊外・地方の交通が一変した。また航空機は1903年のライト兄弟による初飛行の成功の後,またたくまに実用化され,第一次世界大戦後には民間航空が開始された。1930年代になると近代的輸送機関として,亜成層圏輸送機が完成し,航空路が全世界をおおうようになった。第二次世界大戦後の航空機技術は,ジェット機やレーダーの出現などによって画期的な発展を示し,航空輸送業は鉄道の長距離旅客を奪うばかりでなく,中距離旅客や軽量貨物の分野でも鉄道に著しい脅威を与えている。19世紀末に出現した電力技術は,内燃機関と同様に新しい交通機関を生み出した。市街電車は馬車鉄道に代わって強力な都市交通機関となった。しかし現在は地下鉄と乗合バスが普及し,多くの都市において市街電車は影をひそめた。第一次世界大戦後各国は大規模な鉄道の電化を進め,今日ではディーゼル電気機関車が各地の主要幹線で,蒸気機関車や電気機関車を駆逐しようとしている。
20世紀になると,鉄道・船舶・自動車・航空機などの諸交通機関が,地域内において競合し合って,立体的な広域交通網が各地で完成するようになった。その代表的な地域は西ヨーロッパとアメリカ合衆国とである。なかでも自動車と航空機の発達と普及は,産業の新しい組織化,商品の広範囲な分布,大都市への人口集中ならびに分散を可能にした。自動車は鉄道の幹線と支線のあいだを結ぶ毛細管となり,航空機は渓谷や山を越えるとともに海のかなたへ旅客や貨物を運んでいる。高速道路の出現によって自動車が幹線交通の面に進出したのに呼応して,航空機もローカル空港の整備によって中距離輸送の分野にも進出している。この自動車と航空機の発達と普及は,鉄道や船舶の機能の一部を奪おうとしている。これに対し貨物のコンテナ輸送は,航空機・船舶・鉄道・自動車の輸送を一本化しようとし,船舶なかんずくタンカーの大型化や,専用船化は重量貨物の長距離輸送に威力を発揮している。
【交通の種類】人間の生活空間は陸海空にわたるので,交通も陸上交通・海上交通・航空交通の三つに分けられる。水陸両用車のように二つの空間にまたがる交通機関は皆無ではないが,三つの交通空間は著しく異質なもので,それぞれの交通空間ごとに独特な交通手段をもつ交通機関が発達してきた。陸上交通は道路交通・鉄道交通・その他に分けられ,道路交通には歩行交通・騎馬交通・家畜の背による駄獣交通・馬車交通・自転車交通・自動車交通があり,鉄道交通には蒸気鉄道・電気鉄道・地下鉄道などがある。また鉄道には街路に軌条をもつ路面軌条と,専用の軌条をもつ専用軌条に分けることもできる。その他ではパイプラインで原油やガソリンを輸送するもののほかに,天然ガスや上水道の水を送るパイプラインもあり,石油コンビナート内にはりめぐらされている液体・気体の輸送管もこの分野に属している。水上交通は,河川・運河・湖沼を航行する内陸水路の交通と,沿岸航路や大洋を航行する海上交通とに分けられる。航空交通には営利を目的とする民間航空と,軍用に供する軍事航空に分けられ,前者は国内線と国際線に分けられる。交通現象が空間的離隔を克服するためには,交通路と交通要具(交通機関)と動力の二つを必要とし,これを交通手段の3要素という。交通路は起点・通路・終点の三つの部分からなり,発達した交通の場合には,それぞれに施設がほどこされている。交通要具は人または家畜などのように,それ自体が交通目的物であると同時に交通要具を兼ねるものから,かごや荷車のような原始的なもの,電車・原子力船・ジェット機など高度の技術を結集したものまで,種々さまざまなものがある。交通動力にも人力や畜力など生物的なもの,風や潮流や河川水の流下など自然力によるものから始まって,蒸気力・電気力・内燃原動力・原子力など各種の動力が用いられている。そこで交通の種類は陸・水・空の交通空間と,交通路・施設・交通機関・動力などとの組み合わせによって細分化される。人間の交通は人の手の加わらない自然道から,陸水空の全分野にわたって完全に機械化された交通機関にいたるまで,しだいに自然力の支配から脱して,機械的正確性と迅速性・安全性を高めつつあるが,迅速性・大量性を競うあまり,安全性や低コスト性が十分でない一面も残している。交通手段の進歩の目標は,単に大量性の実現にあるのではなく,交通の規則性・安全性・迅速性・快適性・低廉性の実現にある。交通の進歩は経済生活の進歩を裏づけるために要請されてきたが,今後の交通需要は克服しようとする空間を,最小のエネルギーと,最小の時間・最小のコストを望むことになり,過去における交通手段の機械化は,交通の粗放的段階から集約的段階への発達を意味し,それに伴って交通内部の分業や専門化が進み,交通の経営形態が複雑多岐にわたるようになるのである。
【交通業の種類】交通業とは特定の交通手段をもって,一般公共のために交通役務を提供する事業をいうので,交通路および交通機関の種類によって多種多様な交通業が発生する。たとえば道路交通業では自動車交通業・有料道路・馬車交通業などがあり,自動車交通業には旅客にバス・タクシー・ハイヤー業があり,貨物には定期・不定期・特約の別や路線貨物・区域貨物の別があり,それぞれに国営・民営・公営などの営業形態の別がオーバーラップしている。鉄道交通業には鉄道(蒸気・電気)・地下鉄・軌道・車両賃貸・ブローカーなどがあり,それぞれに国営・公営・民営の別がある。水上交通業にも河川・湖上・運河・海上の別のほかに回漕業があり,それらの多くが旅客と貨物,定期と不定期の区別があり,海上交通業には沿岸と国際の別がある。航空輸送業にも国内航空・国際航空にそれぞれ旅客と貨物,定期と不定期の別がある。交通業は社会経済の進歩や公共の福祉に重大な関係があり,その近代化には莫大な資本を必要とする。そのため各国は鉄道・海運・航空などの事業の発達のために,直接・間接に援助を与える政策を採用している。現在の交通業は膨大な固定資本と交通労働力をもつ巨大な交通サービスを生産する大産業であり,一国の交通政策がいかにあるかということは,社会経済に重要なかかわりがある。
【交通政策】交通政策とは交通機関のもつ輸送力を,交通需要に適応するように供給することをめざすものである。地域の交通需要はその地域の人口増加や経済成長に伴って増加するものであるから,経済成長に応じた交通の発展を企図しなければならない。日本においては,経済の高度成長に伴う交通需要の増大が著しく,大都市地域の通勤ラッシュや道路交通の混雑はその極に達した。しかしその対策は消極的で,かつ業者間の調整に追われ,経済成長に見合う交通の成長を図るという大きな目標を見失う傾向が強かった。交通の分野別では,鉄道と海運が明治以降の伝統に支えられ,比較的発達していたのに対し,道路・航空が著しく立ち遅れていた。日本経済の高度成長期には,乗用車の生産が飛躍的に伸びたことと,ガソリン税の収益を大幅な道路投資に向けたことと,全日空を中心とする国内航空路線の充実とローカル空港の整備によって,道路・航空の遅れは,かなり取り戻すことができた。しかし,国際航空や国際海運,あるいは国内における各種交通機関の総合的な体系化などの面では,なお立ち遅れが著しい。そこで日本の現在の交通政策の目標は,交通の総合的な体系を樹立することと,国際交通市場への進出とがあげられる。総合的な新交通体系とは,新幹線網と高速道路網とが,在来線や国道・主要地方道などと一体化した交通システムを創造するとともに,内航海運や国内航空と融合して,それぞれの交通機関の特性が十分に発揮されるとともに,相互に結合し合って交通需要を満たすべきである。このような観点から,現在最も急を要する政策は,国鉄の赤字解消のための民営分割論にいかに対応すべきかということである。青函海底トンネルの利用法や,本四連絡橋の開通に伴う地域の対応や,フェリーに対する政策などは,いずれも日本の新交通体系という立場から確立し,実行されなければならない。また国際海運においては,潜在する虚弱体質の改善とともに,便宜置籍船を主体とする船会社との競合や,海運労働市場への発展途上国の人々の進出などの諸問題が,世界的不況のもたらす交通需要の減退,北海油田の開発やスエズ運河の再開による原油輸送需要の減退などにいかに対応すべきかが問題である。そしてこれらは日本が世界の各地域とのあいだにひきおこしている経済進出問題や,貿易摩擦などの問題とも密接にからみあっているものである。
【交通労働】鉄道・道路・水上・航空など広範囲な交通部門に働く労働は交通労働として総括される。交通労働の特色は,交通の発達に伴って莫大な量に達していることと,質的にも知的水準の高い技術労働を多くもっていることである。交通業は公共性が強いばかりでなく,人命をあずかり,安全迅速な交通を保証する社会的使命を有している。また海運や航空などは国際交通路に進出するので,それらの業務に従事する人々は,一国を代表するにたる責任と訓練が要請される。ジェット旅客機のパイロットの養成には,精神的・肉体的適応性を高めるとともに,いかなる条件にも対応できる技術の熟練が要求される反面,トンネル・橋梁・港湾・道路・空港などの建設には多大の不熟練労働者を必要とする。すなわち交通労働は比較的少数の高級技術者から,多数の単純労働者までを含み,事務系と肉体労働の両方を含んでいる。また機械化・自動化が進むなかで下級労働者には失業の危険も大きい。さらに交通の流れは24時間絶えまなく継続することが多く,工場というような枠のなかでの労働でなく,大自然のなかでの労働である。したがって労働環境も陸海空にわたり,緊張の度合いが強く,それが長時間持続する。このため交通の安全を図るためには,交通労務の管理が重要であり,交通労働の問題は交通の基本にかかわる重要なものである。
【交通地理学】交通現象を地域的に取り扱う学問で,地理学の一分野に属する。すなわち交通現象の地域的差異・空間的な構造・環境との関係・地域との結合関係などを主要研究対象としている。これが学問的に芽生えたのは19世紀の半ばごろで,交通路の平面形態が土地の平面形や集落との関係において論じられてからである。その後交通機関や交通路の分布状態の把握に重点がおかれるようになり,陸上交通・水上交通・航空交通などの部門が生じ,それぞれが交通機関の種類別に分化していった。その後交通現象を地表という舞台を通じて考察しようという傾向が強くなった。また交通現象を理解するのに,その経済的な面の追求のみを強調する立場と,経済・政治・軍事・社会・文化などあらゆる面から地域との結合を検討しようという立場とがあり,前者は交通地理学を経済地理学の一分野と考えており,後者は交通地理学を地理学のなかで独立した一分野をなすと考えている。近年はしだいに後者の見解をとる者が増加しているようである。研究方法としては,交通の量・方向・内容・密度・型などの地域的分析が基礎となっているが,近年はこれらの総合化への方向づけが試みられている。イギリス・アメリカ合衆国では運輸に重点をおいた研究が盛んで,フランス・西ドイツでは運輸のほか,交流や結合関係なども含めた幅広い研究が行われ,日本ではどちらかといえば後者の傾向が強い。
【交通地域】交通という移動現象が行われるためには,起点・通路・終点という三つの空間を必要とし,この三つを含む空間を交通空間という。ヘットナーは経済の発達段階に対応して,交通の空間的ひろがりが拡大することに着目し,各段階に応じた交通地域を設定した。原始民族の交通は,狭い範囲内で完結することが多いので,これを局地的交通地域といい,文化が進んでくると車や船が利用され,より広い交通地域が形成され,これを地方的交通地域といった。地方的交通地域を越えてさらに遠方と規則的な交通が行われるのは,政治的・軍事的・宗教的な場合と,商品の需給のための貿易を行う場合とがある。たとえば十字軍やサラセンの活躍により,地中海中心の交通地域から,東アフリカやインドなどへ交通領域が拡大されると,このような交通地域を遠方交通地域と名づけた。さらに大洋の航行が自由になると,各大陸間に規則的な交通が行われるようになると,大洋を挟んだ二つの大陸の沿岸地方が,世界的交通地域と名づけられた。このような発達史的な交通地域の拡大を,現時点における種々の交通現象にあてはめて考えることができる。たとえば局地的交通を,通勤圏や日帰り交通圏内の交通になぞらえ,地方的交通を観光レクリエーションのための交通や,首都圏・近畿圏・中京圏相互の交通にあてはめ,遠方交通を沿岸航路やローカルな航空路の交通に,さらには世界的交通を大洋航路や国際航空路の交通に見立てることができる。このような考え方とはまったく別に,各地区ごとに最もよく利用されている交通機関を一つずつ選定し,これによって交通機関別の地域区分を行い,それを交通地域と名づけることもよく行われている。たとえばトナカイや犬によるソリ交通地域,ラクダ・ロバなどによる駄獣交通地域,山岳地帯のようにポーターが唯一の輸送機関である担夫交通地域,荷車交通地域,沿岸航路交通地域,鉄道交通地域,自動車・鉄道・航空機などの総合的交通地域などがこれにあたる。
【交通圏】特定の機能をもった地点(銀行・デパ−ト・学校・駅など)や地区(中心商店街・ビジネス街など)または都市などを中心にして,旅客や貨物の流れが離合集散する範囲を交通圏という。交通圏は中心地が同一であっても,利用する交通機関の種類や利用目的の差によって,広狭さまざまになる。交通圏には鉄道旅客の交通圏,自動車の交通流による交通圏,通勤圏・通学圏,業務や観光などの日帰り圏,総合開発計画などの視点に立った首都圏・近畿圏・中京圏など,その種類は多種多様である。貨物の交通圏は,それぞれの物資の供給圏や集荷圏などと一致し,物資ごとの広狭の差が著しく,商圏の一種として取り扱われることが多い。大都市では,交通網が都心を中心に放射状に伸びるので,交通圏の形態は同心円状になりやすいが,中小都市では鉄道や主要道路に沿って長く伸びる傾向がある。また同一都市でも,通勤圏や日帰り圏は狭く,急行列車や航空機による交通圏は広大なものになる。次に通勤圏のように中心地に直結する交通圏を第1次圏とし,周辺の小中心地の第1次圏をいくつか併合した大中心地のより広い交通圏を第2次圏とし,さらに広大な間接的結合による交通圏を第3次圏というように,交通圏の階層性が考察されるようになり,地域構造の一端を示すものとしての研究も進められている。交通圏の研究にあたっては,何を指標として圏を設定するかという指標の問題,中心性の認定の問題,圏の広狭や内部構造の問題,圏の型,交通圏の発展系列,および圏の階層構成などが注目されるテーマとなっている。また総合開発や地域計画のための有効な手段としても,交通圏の研究が進められている。すなわち,通勤通学調査・パーソントリップのOD調査・生活圏調査・観光レクリエーションの流動調査・情報の圏域構造調査・自動車交通流の路則調査などが,交通圏の設定のために行われ,総合開発や地域計画に有効な資料を提供するようになってきた。
【交通情勢調査】正しくは全国道路交通情勢調査といい,建設省が都道府県の協力を得て行っている全国的な道路交通の調査である。1928年(昭和3)に日本道路協会の前身である道路改良会によって行われたのが最初である。1958年までは5年ごとに,その後は3年ごとに,近年は隔年に行われている。目的は都道府県道以上の全道路の交通量を把握し,道路の計画・建設・維持・修繕その他の管理についての基礎資料を得ることで,利用度のきわめて高いものである。近年は各府県で自主的に行う調査地点を含めると,全国で3万〜4万地点で春秋の週日2日間,午前7時から午後7時までの12時間,路則で車種別の交通量を調査し,約5%の地点では24時間調査が行われている。結果は各都道府県ごとに集計されるほか,一般交通量調査基本表として,全国の建設省の調査地点の結果がまとめられている。このほか交通の質的な情勢を把握するためにOD調査が1958年以降実施されており,東京を中心とする東京都市群地域においてはパーソントリップのOD調査が行われている。これらの集計結果の要約は,その都度建設省道路局経済調査室から公表されている。このほか国鉄・私鉄・バスなどの企業でも自社内の交通情勢に関する正確な資料を作成し,経営に役立てている。しかしこれらの資料の大部は部外秘であったり,部外者の利用に不便な状況におかれていることも多い。企業秘密ということも理解できないわけではないが,交通の公共性にかんがみ,交通資料のより広い利用が望まれる。
〔参考文献〕今野源八郎『交通経済学』1957,青林書院
佐波宣平『交通概論』1948,有斐閣
有末武夫『交通圏の発見』1974,鹿島出版会
有末武夫『交通地理学』1968,明玄書房
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