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●構造主義 こうぞうしゅぎ

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 構造主義とは一般に研究対象の構造の分析・記述に優位を置く研究方法ないし立場,またとくにその影響下で現れた20世紀後半の思想的潮流をさしていう。最初は言語学,ついで人類学にみられ,他の分野にもこのことばが波及するに至った。

【言語学】スイスの言語学者F.ド=ソシュールは言語の潜在的体系としてのラングと個々の言語行為としてのパロールを区別し,前者を自律的体系として研究する視点を確立した。彼自身は構造ということばをほとんど用いずに体系について語っていたが,言語学における構造主義ないし構造言語学と呼ばれるものは彼の視点を受けついだものである。その顕著な発展としては,プラハ言語学サークルのN.トルベツコイ・R.ヤコブソン・ロマンによって確立された音韻論コペンハーゲン学派のL.イエルムスレウらの言理学,さらに最近ではアメリカのN.チョムスキー生成文法をもこれに含めることができる。ただしとくにアメリカにおいては,狭い意味で構造主義ということばがブルムフィールド学派をさして用いられた例もある。この学派は構造分析の対象を観察可能な発話の物理的特徴に局限したものであって,この点,表層構造から深層構造を区別して研究したチョムスキーにより強い批判を受けることになった。

【人類学】人類学においては構造ということばは早くから存在したが,構造主義ということばが用いられたのは,フランスのC.レヴィ=ストロースからである。彼はソシュール・ヤコブソンの言語学理論からつよく影響され,とくに後者から直接教示を受けて,人類学に構造主義を導入するに至った。ヤコブソンの音韻論は言語の構成単位である音素をさらに分解し,少数の弁別特徴の組み合わせによってあらゆる言語音を記述する道を開いたが,レヴィ=ストロースはこの方法から示唆を得て,まず親族構造の研究に新しい展望を開いた。すなわち未開社会の親族組織の研究から,彼は人類社会に普遍的にみとめられる近親婚禁止を集団間の女性の交換体系にもとづくものと解し,各社会の複雑な婚姻規則が少数の基本原理から生成されることを示したのである。

【神話学】レヴィ=ストロースの構造主義はさらに未開社会の思考や神話の研究へと発展し,ここでも2項の対立・隠喩換喩等ヤコブソンの言語学理論から取り入れた考え方が多く,変換体系としての構造の概念がその特色をなしている。未開人の知恵は問題を解決するのに,近代科学のようにたえず新しい手段を開発するのではなく,あり合わせの手段を組みかえて用いるところにあり,この型の思考は今日の文明社会においてもブリコラージュ(器用仕事)という形で存続している。神話は言語によるブリコラージュであり,その構成要素として,レヴィ=ストロースは言語学が取り扱う諸単位よりも大きな単位をなす神話系を考え,この仮説に立って神話を分析した。アメリカの神話の厖大な資料を扱い,神話をその固有な論理に従って分類整序した労作は偉業というべきである。なお神話学における構造主義の名に値する業績として,より早く,フランスのデュメジルによって独立に大成された印欧比較神話学の成果があることも特記せねばならない。

【思想的潮流】レヴィ=ストロースの影響が顕著になった1970年代以降,フランスの思想界は,精神分析におけるパリ=フロイト派を形成したジャック=ラカン,マルクス理論を再解釈したL.アルチュセール,文芸批評に記号学を導入したロラン=バルト,西欧近代の知の不連続性を分析したミッシェル=フーコーらによって活況を呈し,彼らはしばしば構造主義者として総称された。この呼び方は必ずしも正確でないが,時代思潮としての親近性は明らかであり,20世紀後半の一時期を画したものといえる。

〔参考文献〕ソシュール『一般言語学講義』1972,岩波書店

ヤコブソン『一般言語学』1973,みすず書房

レヴィ=ストロース構造人類学』1972,みすず書房