●交換(贈与交換) こうかん
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さまざまな社会の分析において互酬性の原理にもとづいた贈与交換(ルビ ゾウヨコウカン)(互いに贈物をしあうこと)が基本的意味をもつことは、L.T.ホッブハウス・R.トゥルンヴァルト・G.ジンメルなどにより早くから指摘されていた。しかし、これを一つの体系としてとらえたのは、フランス社会学派のM.モースの『贈与論』(1925)である。彼に大きな影響を与えたのはイギリスの機能主義人類学の基礎を築いたB.マリノフスキーのこくめいにして生き生きとしたトロブリアンド島民族誌、『西太平洋の遠洋航海者』(1922)であった。マリノフスキーは、この本の中で、クラをめぐる儀礼的贈与交換が、トロブリアンド島民およびその周辺の島々の人々にとって、経済的にも社会的にも宗教的にも、いかに重要であるかくわしく記述している。
モースはいわゆる未開社会、または古代社会におけるさまざまな階層や社会集団が、実は一定の贈与財をめぐって行われる交換のメカニズムの中にあることをみぬいた。そして、彼は交換体系の三つの特性、(1)財を贈る義務、(2)それを受けとる義務、(3)それに対応するものを返す義務の3点を見い出した。この3点がどのような経済的・社会的・法的ならびに宗教的力をもって作動するかがモースの究極的関心事でもあった。あらゆる社会にみられる贈与交換の体系は、彼の表現に従えば次のようになる。〈この給付および反対給付は、どちらかといえば、任意的な形式の下で、贈物・進物によってなされるが、実際は、厳密には、義務的なものであって、その不履行の場合には、公私の闘争に導くものである。わたくしは、これらのすべてを全体的給付組織と呼ぼうとおもう〉(有地享・伊藤昌司・山口俊夫訳『社会学と人類学』1973、弘文堂)すなわち彼は、社会や文化の全体を把握しようとするとき、その中核になる概念は贈与交換の体系、つまり“全体的給付組織”と考えたのである。
【クラ】メラネシアのニューギニア東北海岸からその東方海上に散在する島々には、白い貝製の腕輪と赤い貝製の首飾りが、生活必需品の交換とは別に、島々の間を一定の方向に移動する儀礼的贈与交換のサークルがある。白い腕輪は西から東ヘ、赤い首飾りは逆に東から西へと交換されていき、クラのメンバー以外に贈与されることはできない。この二つの貝製品を授受できるのはきわめて名誉あることとされ、定まった儀礼に従って交換しあわなければならない。
【ポトラッチ】北西部アメリカ・インディアンの間で行われている贈与交換体系。クワキトゥル族が有名である。自己の地位の高さを誇示し、また維持するために、競争者に贈物を与え、交換の競争を行う。しばしば婚姻・誕生・入社式(結社加入)などの儀礼的機会に行われる。酋長など地位ある人は、自らのため、息子・婿・娘のために、さらに死者のために盛大な宴を開き、盛大な贈物をばらまかなければならない。さらにこのポトラッチのために名誉ある銅板や貴重な毛布などが盛大に破壊され、うち捨てられる。返礼の義務もまたポトラッチの重要な性質が次回には、招待された人が同じ量またはそれ以上の物を贈り返さなければならない。
【男財・女財】儀礼的贈与交換に関して、いま一つ欠かすことのできない側面は、贈与財における二つの性質、“男財”と“女財”である。インドネシア文化の広い地域では、女性原理を象徴する女財とそれにたいする返礼的贈与として男性原理を象徴する男財の儀礼的贈与関係がみられる。スマトラ島中央部に住むトバ・バタク族では、“嫁おくり集団”と“嫁うけ集団”との間で、女財と男財の儀礼的贈与交換が行われる。嫁おくり集団は生命の根源を象徴するサハラ、(嫁・布地・魚)を贈り、これを受けとる嫁うけ集団は、返礼としてピソ、(ナイフ・金属貨幣)を贈る。嫁おくり集団は嫁うけ集団にたいして社会的・霊的優位の立場にある。このような贈与交換は、たんなる経済的意味だけでなく、婚姻体系とも深いかかわりあいをもっている。バタク族は規定的な母方交叉イトコ婚をルールとしており、C.レヴィ=ストロースがインドネシア型の社会構造として指摘したように、三つ以上の外婚集団の間で循環的に嫁および他の贈与財のやりとりがなされている。