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●原子力問題 げんしりょくもんだい

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原子力問題とは、一般に、原子力エネルギーの平和(非軍事)利用にかかわる諸問題をさし、原子力の軍事利用である核兵器にまつわる問題は含まない。この原子力エネルギーの平和利用の推進に伴って生じる諸問題には、燃料および技術の入手・原子力施設の立地・経済性・核不拡散などの国際的取決めの制約・安全性・技術開発力・外国依存からの自立など、数多くの領域にまたがる多様な問題がある。さて原子力エネルギーの平和利用は、大別して発電と放射線利用の二つがあるが、まず、この原子力発電およびその諸問題から説明する。

原子力発電】世界で最初の実用規模の原子力発電は、1956年に運転開始した英国のコールダーホール発電所である。その後、原子力発電は急速に各国に普及し、1983年6月末現在、運転中のもの総計290基、発電設備容量約1億8,900万キロワットが、世界24カ国で発電されている。この発電容量のうち、米国が35%(80基)、フランスが14%(34基)、ソ連が9.7%(34基)を占めており、日本は9.2%の第4位である。なお、日本は1984年(昭和59)度には、実際に1,969万キロワットの発電をなし(27基)、水力発電・石油火力発電・石炭火力発電などの、すべての日本の発電総量のうちの約20%を供給した。日本中の各家庭の電球や蛍光灯10本のうち、すでに2本が“原子力の火”となっている。日本にとっても、原子力発電はいつしか不可欠なエネルギー源に成長した。原子力発電のメリットの第1は経済性であり、第2は、燃料入手の安定性と簡便性がそれに続く。また第3のメリットとして、安全性の問題の指摘はあるが、最も無公害に近いエネルギーである事実も否定できない。まず発電単価は、1キロワット時、石油火力の約17円や石炭火力の約14円に比し、原子力は12.5円と算出されている(昭和58年度に運転開始をしたプラントを比較想定し、その初年度の価格)。廃炉および放射性廃棄物の処分費用を考慮しても、この経済性の優位は基本的に変わらないだろう。また、天然ウランは、日本を例にしてもわかるように、政治的に安定していて商取引上の信用の高い欧米先進国のカナダ、英国・豪州などから供給されている。戦争多発地帯でもあり、かつ政情不安定な中東に大きく依存する石油と対照的である。昭和56年の日本の石油の中東依存度は70.4%であった。すなわち、原子力発電の燃料については、石油のような価格暴騰や供給ストップの危険性がほとんどないという利点がある。さらに、年間100万キロワットの発電をするのに、石炭であれば220万tが必要であるが、原子力であれば濃縮ウラン(六フッ化ウランの形で)は41tにすぎず、6万分の1である。石炭のような膨大な港湾施設・船舶・貯炭場も不用であり、また石炭のような排気・排水による環境汚染問題もない。

核燃料サイクルの確立】原子力発電は、燃料である天然ウラン(U-235が0.7%で、残りはU-238)もしくはこれを少し“濃縮”した濃縮ウラン(U-235を0.7%から約3%にする)を、原子炉(ガス炉や軽水炉)で3〜4年燃やす(核分裂エネルギーを取り出す)のであるが、この燃焼後の燃料を再利用することが可能である。すなわちこの“使用済燃料”には、燃え残りのウランと新しくできた(核分裂生成物の)プルトニウム(PU)があるが、これを回収すれば、新たに燃料とすることができるからである。このPuなどを取り出す工程を“再処理”といい、これらは高速増殖炉の燃料として用いられる。高速増殖炉は軽水炉に比べて、天然ウランを60倍以上も有効利用できる。

 このように、ウラン資源の最大限の利用をはかって何度もこれを再活用することを“核燃料サイクル”といい、天然ウラン資源に乏しい日本にとっては、このエネルギー資源の効率的再利用は重要で、この“核燃料サイクル”の確立は急がれる。たとえば、ウラン燃料を軽水炉で燃やしてそのまま棄てる場合と、これを再処理して高速増殖炉で再利用させる場合とでは、もしウラン資源の埋蔵量が人類に30年分しかないとすれば、前者では30年間で資源が枯掲するが、後者ではそれは1,800年分に相当することになる。この“核燃料サイクル”を確立するためには、日本は今後、濃縮と再処理と高速増殖炉の開発を推進していかねばならないが、いずれもかなり順調である。濃縮については、昭和57年3月からすでにパイロット=プラントが岡山県人形峠で運転している。再処理も東海再処理工場で、昭和52年9月から使用済燃料を処理している。これらによって、現在の濃縮の米・仏全面依存から脱却できるし、再処理についても英・仏全面依存体制を改善できる。また、濃縮および再処理の技術の分野でも西側先進諸国と肩を並べることができる。また、高速増殖炉もフランスのように、すでに124万キロワットの「スーパーフェニックス」が運転開始をしようとしている段階からみればかなり遅れているが、2010年ごろの実用化時代をめざして、原型炉「もんじゅ」(71万キロワット)の昭和65年度臨界への工事がすすめられている。

【廃棄物問題】原子力発電所や病院・研究所を含むその他の施設からの、ごく僅かな放射性物質を含んだセメントやアスファルトで固められたゴミを“低レベル廃棄物”というが、これが昭和58年末ですでに49万本(200リットルドラム缶換算)にもなり、現在の原子力発電所などの敷地内貯蔵がなされているが、いずれは集中大規模な敷地外貯蔵、さらには量的な増大から“処分”が必要になってこよう。この“処分”には海洋処分と陸地処分とがあり、事実上の処分をすすめている米国やフランスの実績を踏まえつつ、日本も安全性の確認の研究を急ぐ必要がある。一方、再処理から出る“高レベル廃棄物”の方は、核分裂生成物を含んでいるため、この処理・処分は安全性の確保上、高度な技術を必要とする。まず、ガラスやセラミックなどとともに固化し、このガラス固化体をステンレス鋼でできたキャニスター(容器)に詰め、30〜50年間の一時貯蔵をし、その後安定した深い地層処分をすることになろう。このガラス固化の技術はおおむね確立の方向にあるが、地層処分技術は時間的余裕もあり、これからのものとなろう。

【安全性と立地】日本における原子力施設は、民間の発電用原子炉にいたるまで、政府がその設計から建設・運転などのすべての段階を一貫して安全上の法的審査を行っている。この結果、わが国の初の商業用発電炉の火が灯った昭和41年以降、ほぼ20年間にわたって施設内外に放射線の影響を及ぼす事故・故障は、皆無という記録を有している。1979年3月の米国のスリーマイル=アイランド2号原子炉の事故は、冷却水の高圧注入系が起動したのを逆に運転員が停止(もしくは、ほとんど停止)したことによる原子力開発分野の史上最悪のものであった。が、これほどの大事故ですら事実上の人身事故はまったく生ぜず、原子炉の安全対策の確かさを証明するものとなった。このように原子力発電は、最も安全性の高いものであり、これは再処理など、他の原子力施設一般に共通している。80年代に入り、この事実が広く理解されてか、原子力施設の立地にからみ、“安全の不安”を理由とする立地に反対する政党や住民は、急速に減少している。なお、原子力施設周辺の放射線量は、発電所で年間5ミリレム以下で、自然放射線の100ミリレムの20分の1にすぎず、歯科レントゲン約1,000ミリレムの200分の1程度であり、きわめて低い。

【核不拡散】原子力問題の一つとして、原子力の平和利用の技術が、軍事に転用されて核兵器を保有する国が五大核保有国以外の世界にしだいに広がっていく“核不拡散”の問題がある。1974年のインドがカナダから輸入した炉からのpuで、核爆発に成功した事件や、1981年のイスラエルがイラクの原子炉を燃料装荷前に、その原爆製造を恐れて爆破した事件、あるいはパキスタンがオランダの濃縮技術の盗取により、核爆発材料(高濃縮ウラン)を製造していることなどである。しかし、一般的には日本・ドイツ・ベルギーなど数多くの核製造能力国が核保有に消極的であり、NPT(核拡散防止条約)によるIAEA(国際原子力機関)の“保障措置”の実施とも相俟って、“核不拡散”は一応成功している。また、核爆発材料が国際テロリストや過激な国に直接的に盗取されることを防止する“核物質防護”についても、条約などの整備がすすめられている。

【放射線利用】原子力の平和利用には、以上に述べた核分裂によるエネルギーを活用する分野のほか、放射線を工業・農業・医療などに活用する技術も発展している。材料の非破壊検査やじゃがいもなどの、長期保存のための食品照射などはその好例であろう。ガンマ線照射による不妊虫の大量放し飼いによるウリミバエなどの害虫防除なども成功している。速中性子線によるガンの治療など、従来のレントゲン撮影を超えての放射線の医学利用は今後とも進展していくだろう。

〔参考文献〕原子力委員会編『原子力白書』(毎年公刊)


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