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原子力 げんしりょく
原子核の反応によるエネルギーを動力として用いる場合に原子力という。核エネルギーという場合もあるが,わが国では,平和目的に用いる場合には,通常“原子力”という。以下,原子核と核エネルギーから説明する。
【原子核と核エネルギー】物質が原子という小さい粒子でできていることはよく知られている。原子の大きさは,大ざっぱに言って,1億分の1cmの程度で,1Gの酸素のなかに2×1022個ばかり入っている。原子は,元素によってすべて異なっている。原子は,正電気を帯びた原子核と負電荷を帯びた電子でできている。また原子核は,正電気を帯びた陽子と,まったく電気を帯びていない中性子でできている。陽子・中性子・電子は,素粒子である。水素の原子核は陽子そのものであるが,これ以外の原子核には必ず中性子が入っている。原子核の大きさは,水素原子の大きさの10万分の1程度で,電子の大きさもだいたい同じ程度である。陽子と電子とは,正負逆の電気量を帯びているが,その質量は著しく不均衡で,陽子の質量は,電子の質量の約1,836倍もある。
水素原子では,原子核の周りを1個の電子が運動していて,全体として電気的には中性になっている。このほかの元素の原子では,元素の種類によって,電子の数Zは,すべて異なっているが,原子核の中にもこれと同じZ個の陽子があって,全体として中性になったりしている。このZのことを原子番号と呼んでいる。よく知られている水素・炭素・窒素・酸素・鉄の原子番号は,それぞれ1,6,7,8,26で,天然に存在している元素のうち,最もZの大きいものは,ウランの92である。
原子核と電子の結合は比較的弱く,電子は原子核から容易に離れたり,新しくついたり,いくつかの原子に共有されたりする。これが化学反応で,通常,物質が化合したり,分解するときに吸収されたり放出されたりするエネルギーが反応エネルギーである。このエネルギーは,熱の形で放出または吸収されるので,反応熱という。燃焼熱もこのような反応熱の一種である。
化学反応がおこっても,原子核は変化しないので,元素は不変なものであるとされてきた。元素としての酸素はいつまでも酸素で,鉄はいつまでも鉄であるということである。このような元素は,水素はH,ヘリウムはHe,炭素はC,窒素はN,酸素はO,鉄はFe,ウランはUというような一字,または二字のローマ字の元素記号を用いるが,この項で使う主なものについては,原子番号と記字を表に示す。
このように,原子の化学的性質は,電子の数Zによるわけであるが,このZは,原子核内の陽子の数にも等しいわけである。ところが,原子核のなかには,陽子とほとんど質量の等しい中性子が入っている。たとえば,1個の陽子と1個の中性子でできた原子核ではZは1で,水素と同じ化学的性質をもっている。実際に,このような水素は存在していて,天然の水素のなかに0.015%存在している。このような水素を重水素と呼び,記号Dで表す。原子核のなかにある陽子数と中性子数を加えたものを,質量数といい,Mで表す。水素ではMは1, 重水素では2である。このように,Zは同じでMが異なるものを同位体という。注意すべきことは,原子核の質量は,これを構成する陽子と中性子の質量を加え合わせたものよりも小さくなっていることである。それは,これらの粒子が結合するときに出すエネルギーが非常に大きく,アインシュタインの質量とエネルギーの等価の関係により,この結合エネルギーを,光の速度の自乗で割った値だけ小さくなっているわけである。この関係を用いると,原子核の質量を測定すれば,その結合エネルギーがわかるわけである。
元素も原子も不変なものと考えられていたが,放射性元素の発見によって,元素も原子核も不変ではなく変化することが明らかになった。放射性元素というのは,α線,β線,γ線のような放射線を出して,違った元素に変化するものである。これを放射性崩壊といい,崩壊する原子核の数は存在している原子核の数に比例し,半数が崩壊するまでの時間を半減期という。半減期は,その原子核の種類に固有な値をもっている。よく知られている放射性元素は,ラジウムで,これはRa-226であるが,α線を出してラドンRn-224になり,半減期1602年である。α線は高速度のHe-4原子核の流れで,β線は高速度の電子の流れで,γ線は波長が非常に短い電磁波である。一般に,α線を構成するHe-4の原子核をα粒子というが,原子核がα粒子を放出して崩壊すると,それに相当して,Mが4減少し,Zが2減少する。β粒子を出すのは,原子核のなかの中性子が陽子と電子と中性微子(ニュートリノ)に変化し,電子と中性微子を放出するためであるが,中性微子は直接には観測されない。β崩壊では,これに相当して,Zが1だけ増加し,Mは不変である。
放射性物質から出る高速のα粒子や,真空中で電界をかけて加速した陽子,重陽子(重水素原子核)などを種々の原子核に衝突させると,核反応をおこして別の原子核に変化し,このようにして生じた原子核は,不安定で放射性のものが多い。ベリリウムBe-9にα線をあてると中性子が飛び出す,したがって,RaとBeを混合したものは中性子源になる。中性子は電気を帯びていないため原子核に近づきやすく,中性子を使っていろいろな核反応をおこすことができる。たとえば,Fe-59に中性子があたると放射性コバルトCo-60になり,これは半減期5.26年でβ線を出して崩壊する。
粒子を衝突させた結果できる人工放射性物質のなかでは,電子と同じ質量で,正の電気をもつ陽電子を出すものがある。この場合に原子核のなかの陽子は中性子になる。陽電子は普通の電子と出合うと,互いに消し合ってγ線に変わる。
天然に存在しているウランU-238はα線を出して崩壊するが,その半減期は約4億5000万年である。U-238が崩壊して,次々に多くの放射性元素を生ずるが,Ra-226もその一つである。U-238は,太陽系が今から45億年前に生成したときにできたものであるが,半減期が長いのでまだ残っている。ウランの同位体にU-235というものがあり,天然ウランのなかに0.72%含まれている。その半減期は7億1,300万年でα線を出す。U-235の重要な性質は,中性子をあてるとほぼ質量の等しい二つの原子核に分裂し,2個または3個の中性子を放出することである。この核分裂によって生ずる原子核を核分裂生成物といい,一般に強い放射線を出す。一般に,核反応がおこったり,放射線を出して原子核が崩壊したり,核分裂をしたりすると,非常に大きいエネルギーを出す。また,重水素Dの原子核が融合して,He-4になるときも大きなエネルギーを出すが,このような核分裂反応を核融合といっている。核反応で放出されるエネルギーは,原子核の質量にも影響するほどに大きく,原子1個あたりでいえば,化学反応の場合に比べて,まったく桁違いに大きくなる。
【核分裂と原子力】U-235に中性子が衝突すると,核分裂をおこすことがあり,その際に非常に大きいエネルギーが放出されると同時に,2個または3個の中性子が出る。核分裂生成物には種々の原子核があるが,それらのMは,70〜160の範囲にわたる。この分裂の際に生じた中性子が,別のU-235の原子核に衝突すると,また核分裂を生じ,これを繰り返すと中性子の数が増加して,次々にU-235の原子核を分裂させていく。これを連鎖反応という。
しかし,実際にウランの塊に中性子をあてても連鎖反応は生じない。これは,生じた中性子のなかで,核分裂をおこす前にウランの表面から外部に出ていってしまったり,U-238に吸収されてしまったりするものがあるからである。連鎖反応をおこさせるのには三つの方法がある。一つは,0.72%しかないU-235の濃度を高くすることである。次は,中性子の速度をできるだけ遅くすることである。これは,速度が小さいほどU-235の原子核を分裂させる確率が著しく大きくなるからである。速度を小さくするためには,水・重水・黒鉛・ベリリウムなどの物質を入れる。中性子は,これらの物質の原子核に何度も衝突すると,最後には,原子の熱運動のエネルギーに相当する毎秒2,200m程度になる。このような速度の中性子のことを熱中性子と呼んでいる。もう一つは,ウランの塊を大きくして体積に比べてその表面積を小さくすることである。ある程度U-235の濃度を高くした濃縮ウランでは,その大きさを増していくと連鎖反応がおこる。この連鎖反応がおこるぎりぎりの大きさを臨界量という。ほとんど純粋なU-235では,臨界量は10kG以下である。U-235の濃度が低くなるほど臨界量は大きくなる。
このようなU-235の核分裂のエネルギーは非常に大きく,1Gの物質の核分裂によって生ずるエネルギーは8.8×107キロジュールである。これは,電力に直すと2万4,000キロワット時である。これは1,000キロワットの1日分の出力に相当し,石油約2.1キロリットル(ドラム缶約10本分)である。
このような核分裂をし,連鎖反応をする原子核としては,U-235のほか,U-233とプルトニウムPu-239がある。U-235以外のものは,天然には存在していない。U-233は,トリウムTh-232に中性子衝突させると中性子を吸収して生じるものである。
またPu-239は,U-238が中性子を吸収して生じるものである。Th-232は,半減期14億1,000万年で,U-238と同様天然に存在している。Pu-239の半減期は2万4,400年で,太陽系生成時には存在していても,現在では消滅してしまっている。上に述べた核分裂性物質の1Gが核分裂をおこすときに放出するエネルギーは,U-238の場合とだいたい同じである。
【原子炉】U-235,あるいはPu-239の核分裂が短時間に生じると,爆発的に高温になり,これを核爆発と呼んでいる。核兵器は,このような核爆発を利用したものである。連鎖反応をゆっくり進行させて,エネルギーを取り出すようにすることを核分裂の制御という。こういう制御された核分裂反応で生じるエネルギーを取り出して用いる装置を原子炉と呼んでいる。
原子炉のなかで,U-235のような核分裂物質が分裂をおこすわけであるが,これは核燃料のなかに入っている。核燃料は純粋なU-235ではなく,U-238との混合物になっているのがふつうである。それも金属ウランとしてでなく,酸化ウランの形になっていることが多い。このような核燃料は天然ウランのまま用いることもあるが,多くの場合には,U-235の濃度を高くした濃縮ウランを用いる。これは化学的性質はまったく同じで,質量もわずかしか違わない同位体の分離であるため,技術的にはいろいろ方法はあるが,相当難しいことである。
前にも述べたように,天然ウランのままでは,連鎖反応をおこす臨界には達しないが,核分裂で生じた速中性子を減速して熱中性子にすれば,臨界に達することも可能である。このように,原子炉のなかで中性子を減速する材料を減速材と呼んでいる。減速材には炭素である黒鉛,重水素と酸素でできた重水,ふつうの水を用いる。ただし,このふつうの水は,とくに,重水と区別するために“軽水”と呼ぶ。この軽水は,減速の効果が少ないので,天然ウランの場合には使えない。濃縮ウランを核燃料に用いるときには,これら3種のものが用いられている。原子炉のなかには,核燃料と減速材が入っているが,これでは,連鎖反応が始まると中性子が次々に増加して,エネルギーの放出も爆発的に大きくなる恐れがある。それで,核分裂を一定の速さに制御するための制御棒というものを中に入れる。制御棒は,中性子をよく吸収するカドミウムなどでつくられているが,現在では,炭化ホウ素の粉末をステンレス鋼の容器に入れたものが使われている。また,原子炉の連鎖反応を停止させるのにも,この制御棒を用いる。また原子炉のなかでは,核分裂反応が進行すると熱が発生するので,絶えず制御することが必要である。この冷却に用いる物質を冷却材という。冷却材としても種々のものが用いられ,炭酸ガス・重水・軽水・ヘリウム・液体金属などが用いられる。
原子炉の利用は,核分裂によるエネルギーを動力に用いる場合に限られない。なかには,原子炉の開発研究のための研究炉もあり,中性子を用いて材料の試験や物理学の実験に用いるものもある。このほかとくに重要なのは,プルトニウム生産炉であるが,これは原子炉のなかで,多数の中性子があるのを利用して,U-238に中性子をあててPu-239を生産する目的のものである。これは核兵器に用いるプルトニウムのための軍用炉が大部分である。
とくに,原子炉からのエネルギーを動力源として利用するものを動力炉と呼んでいる。このなかにも,製鉄やプルトニウム生産と同時に,エネルギーを動力として用いるものがある。動力炉の多くは,発電用動力炉であるが,原子力潜水艦その他の船舶の推進用のものもある。
原子炉のなかに高速増殖炉といって,核分裂によってエネルギーを出すと同時に,発生した中性子によって,そのなかにあるU-238から,Pu-239を生産するように設計された原子炉である。Pu-239を核燃料に用いるが,分裂したPu-239よりも多くのPu-239を生産し,エネルギーを供給すると同時に,消費された核燃料より多量の核燃料を生産するようになっている。これは現在開発中で,いくつかの炉が試作されているが,実用化されるかどうかわからない。また,中で生成したPu-239を抽出してもう一度燃料にする核燃料サイクルとしても実用化には多くの問題がある。ここで“高速”というのは,熱中性子でなく減速しない速中性子を使うということで,増殖が高速に行われるという意味ではない。
(1/2:続く)
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