●源氏物語 げんじものがたり
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平安中期に出た長編小説。作者は一条天皇の中宮彰子に仕えた女房紫式部。1891年(明治24)にはすでに英訳もされ,今日なお広く人を引きつけてやまぬ名編である。宮廷生活を中心に平安前期中期の貴族社会を描き,桐壺巻をはじめとして巻名『幻』主人公光源氏の死までを前編とし,その死は雲隠の巻名だけあって本文はない。後編を宇治十帖といい,光源氏の後をうけて薫・匂宮の二貴公子,それに宇治に隠棲する八宮の姫君たちを配して複雑な人間関係を描く。光源氏の身辺の多くの女性のうち紫の上,藤壺が理想的女性と描かれている。その中には当時の人生観はもちろん,あらゆる面に理想とされたものを描き,作者の深い理想と知識をうかがわせる。ここにみえる学問・芸術に関する論はそのそれぞれへの造詣の深さをみせている。書に対し絵画に対し,また音楽に対しその意見をみることができるし,蛍巻の物語論のごときは史学論といえよう。またこのなかには非常に多くの和歌がみえているが,その和歌に式部の歌集に収めるものと重なるものがないのは,彼女の歌人としての力量を示すものといえよう。後世その研究は多くの作品を生んで,今にいたるもそれは続いている。室町時代の典拠説,江戸時代の倫理上からの批判排斥もその作品の偉大さを語るものといってよかろう。ときの一条天皇がこの作者は日本紀を読んでいるといわれたというが,歴史的口吻はゆたかで,久しく史書として重んぜられてきた中国流の勧善懲悪流の政治史を退け,人の世の歴史を物語の形で書こうとしたのが式部の真の意向と思われる。源氏物語絵巻は物語中の場面を選びぬき出してそれに応ずる本文の一節を書き添えた絵巻物で,平安以後各時代につくられたが,現存するものでとくに有名なのは徳川黎明会と五島美術館とに分蔵のもの。本居宣長の『源氏物語玉の小櫛』は源氏物語の本質に触れた物のあわれ論を説いた名論である。