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●言語伝承 げんごでんしょう

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 言語の表現を通じて,口から耳へと伝えられる民俗。柳田国男の説によると,日本民俗学の領域は,調査の便宜の上から,有形文化・言語芸術・心意現象というように,大きく三つの部門に分けられるが,ここで言語伝承というのは,その言語芸術にあたるものであった。これまでは,一般に口承文芸ということばで表されてきたが,厳密な意味における文芸と異なるというので,口頭伝承や言語伝承などと言いかえられたものである。

【位置と特質】古くは文献や記録がつくられなくても,口頭の伝承は行われたはずであるが,のちに文字の使用が始まってからも口頭の伝承は絶えることなく,書冊の文芸とともに行われてきた。それらの二つの流れはたがいに密接な交渉をもちながら,一国の文芸を培ったともいえよう。文芸史上の著名な作品にも,言語伝承の段階をへてきたものがかなり多く含まれている。また,かりに書物の形をとったものでも,口から耳へと読み聞かせる風はかなり明らかに認められる。書冊の文芸と口頭の伝承とは,まったく切り離して考えられるものではない。一般の文芸に対する言語伝承の特色は,何よりも作者と聴衆との関係に表れている。すべて言語伝承に属するものは,個性をもった作者によって勝手につくられたとはいえない。柳田の説によると,昔話のような口承文芸は,保存部分と自由部分とに分けられるが,自由部分についてはある程度まで変えられても,保存部分だけは勝手に変えられないという。言語伝承の作者というのは,多くの聴衆にかわってその意思を伝えようとするもので,かりに作者と名づけられているが,実は聴衆の代表にすぎないのである。一般に民俗の世界では,あらたまったハレ(晴れ)の暮らしと,ふだんのケ()の暮らしとが,かなり明らかに区別されている。民俗としての言語伝承も,ハレとケとの組みあわせにもとづいて,しばしば一定の折り目に表れてくる。古くは口頭の伝承にあたって,年間の折り目における行事や,生涯の折り目における儀礼などが,重要な意味をもっていたと思われる。しかしながら,現に口頭の伝承の場は,そのようなハレの暮らしだけにとどまらないで,広くケの暮らしにもゆきわたっている。そういうわけで,広い意味の言語伝承は,ハレのことばとケのことばというように,大きく二つの面にわたってとらえられる。

【範囲と種類】言語伝承の範囲や種類は,民族などの相違によって,完全に一致するわけではないが,多くの学者の研究を通じて,ある程度まで一致するものをあげることができる。特にアメリカやロシアなどでは,フォークロアそのものが,昔話・伝説・民謡・唱えごと・ことわざ・なぞなど,言語伝承を中心に考えられている。柳田国男の『民間伝承論』や『郷土生活の研究法』では,日本民俗学の領域が,前記の三部門に分けられているが,その第2部の言語芸術には,新語作成・新文句・諺・謎・唱え言・童言葉・歌謡・語り物・昔話・伝説の諸項を含めている。柳田國男・関敬吾の『日本民俗学入門』では,言語芸術または口承文芸にあたるものとして,命名・言葉・諺・謎・民謡・語り物・昔話の諸項をあげており,心意現象との中間におかれるものとして,伝説の一項をも加えている。大島建彦の「口承文芸」(『日本民俗学講座』4)では,広い範囲の言語伝承が,文句の長短と曲節の有無とによって,ウタ・コトワザ・カタリ・ハナシというように,大きく四つの形式にまとめられている。

 前記の言語伝承の中では,いわゆることわざばかりでなく,なぞや唱えごとなども,おおむねコトワザの形式に従っている。民謡と語り物というのは,それぞれウタとカタリとに当たるものである。広い意味の昔話は,一応ハナシという名で呼ばれながら,実はカタリとハナシとにわたって認められる。そのほかに,世間話などというものが,いっそう自由なハナシとして知られている。また,伝説そのものは,もともと特定の形式をもっていないが,やはりカタリとハナシとして伝えられるといえよう。

〔参考文献〕柳田国男「口承文藝史考」『定本柳田國男集』6,1963,筑摩書房

大間知篤三・岡正雄・桜田勝徳・関敬吾・最上孝敬『日本民俗学大系』10,1959,平凡社

大島建彦「口承文藝」『日本民俗学講座』4,1976,朝倉書店