●言語人類学 げんごじんるいがく
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言語人類学はG.ムーナンの定義によれば、言語と言語が機能している社会的・文化的脈絡との相関性を研究するもので、民族言語学ともいわれる。
言語は文化的事象であり、従来より文化人類学の対象であった。すなわち研究の対象となる民族とのコミュニケーションの道具であり、また民族の分類を行う際の最も確かな手がかりが言語であった。F.ボアスは民族学研究の理論・実践両面における言語研究の重要性を1911年にすでに指摘しているし、マリノフスキーも、真の言語的事実は場面の脈絡のなかに現れる発話のすべてであると主張している。しかしながら言語学の理論的成果を厳密な方法論として人類学に取り入れたのはC.レヴィ=ストロースであった。言語学は20世紀初頭にF.de ソシュールによりそれまでの歴史的研究から共時的研究へと転換する。ソシュールは言語学の対象をラング(個人的な言語であるパロールの運用を可能ならしめる社会的規範としての言語)に限定し、その研究領域を音韻論・形態論・統辞論に限定した。レヴィ=ストロースはR.ヤコブソンとの接触を通じてソシュールの理論とくに音韻論から構造主義人類学を打ち立て、言語が文化の諸項目の構造を研究する際の最も有効な資料であり、また言語学が文化人類学のモデル=サイエンスであることを示した。
言語人類学・民族言語学の名称が人類学のなかで一般化するのは1940年代以降である。しかしその普及度は低く、また内容・方法も一定していない。たとえばヒッカーソンは言語人類学のなかに社会言語学(社会との関連において言語を研究)、民族言語学(特定の文化的体系と当該言語の文法・語彙体系との関係を研究)、言語心理学を含めているのに対し、デュクロ・トドロフは、社会言語学を大項目としてそのなかに狭義の社会言語学(社会的差異と相関する言語的変異体を研究して社会構造を把握すること)、民族言語学(言語を媒介とした精神・文化の認識の研究)、言語人類学(社会的事実、あるいは行動のタイプとしてことばの研究)を含めている。またボアスらの影響下で人類学が発達し、言語への関心がもともと強かったアメリカでは、言語学そのものを民族言語学と呼ぶことが多い。
言語人類学の著名な理論の一例としてサピアーウォーフの仮説があげられる。これは言語的体験が思考に先立ち、それが思考を決定あるいは思考に影響を与えるというものであるが、これに対しては1950〜1969年代に数多くの反論がなされた。仮説自体のあいまいさと経験的事実における論証の難しさとが相まって、この仮説は現在では肯定も否定もしえなくなっている。しかしながらサピアが、言語のなかにパターンが存在し、すべての社会的行動は無意識的にパターン化されていると主張するとき、彼のパターンの概念はソシュールの体系の概念と一致する。言語は一見雑多で混沌とした実在のなかに固有の秩序をもつ体系であるとみなすことにより、N.S.トゥルベッコイは、実際に異なる音声も音韻論(示差的な機能により音を区別すること)によって一定数の音素に体系化することが可能であるとした。そしてヤコブソンは、言語音を分類可能ならしめる12の弁別的特徴を示した。この音韻論から言語や文化の研究に適用できる一般理論としてエティーク−イーミックという対概念を提唱したのがK.パイクであった。音声的に対応するエティックは通文化的であり、分類的で、文化現象を考える際も個別的文化を超えた広がりと比較研究を主とする文明論の立場をとる。これに対し音素的に対応するイーミックは、個別的・構造的であり、一つの文化の内部的機能性や価値体系の研究といった文化論的立場をとる。対象を音声に限定することで音韻論は方法論的に確立したが、それを形態論・意味論へと広げるに従って体系化は困難となる。こうした分野における方法論の確立が、言語人類学の今後の課題であろう。