●建国伝説 けんこくでんせつ
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世界の神話には,国家の起源を物語った多様な伝説がみられる。たとえばギリシア神話によれば,テバイの町を創建し,その最初の国王となったカドモスは,もとはフェニキアの王子だったが,神々の王ゼウスに追われて行方不明になった妹エウロペの捜索を父に命令され,ギリシアに来て,デルポイのアポロンの神託を受けた。するとエウロペを捜すのは断念し,神殿を出て最初に会う牝牛のあとをついて行って,牛が疲れて蹲る場所に町を建てて住めと託宣されたので,そのお告げに従ってテバイの地に来た。そこで彼は,自分をそこまで導いてくれた牛をアテナ女神に犠牲に捧げようとして,儀式に必要な水を汲みに家来たちを付近の泉に行かせたところが,その泉には戦いの神アレスの子の竜がいて彼らを食い殺してしまった。カドモスはこの竜を退治し,そのあとでアテナの教えに従い,その歯を取って耕した地面に播いた。するとそれからたちまち全身武装したスパルトイと呼ばれる戦士たちが生え出てたがいに殺し合い,しまいに生き残った5人がカドモスの家来となり,彼とともにテバイを建て,この国の最も貴重な家系の祖先になったという。ローマは伝説によれば,アルバという町の王プロカスの長男だったヌミトルの娘レア=シルヴィアが,森のなかの泉に水を汲みに行ったあいだにマルス神に犯され,妊娠して生んだ双児の兄弟ロムルスとレムスによって創建された。彼らは生後すぐに,ヌミトルの弟で兄の地位を奪いアルバの王になっていたアムリウスによって籠に入れられ,ティベル河に流されたが,ちょうど氾濫した河水によって,ローマになる場所に運ばれ,そこで牝狼に乳を与えられ,また一羽の啄木鳥に食物を運んでもらって育てられていたところを,ファウストウルスという名の羊飼に発見され,その子供として成長し,アムリウスを殺して,祖父のヌミトルをアルバの王にした。それから彼らは協力してローマを建てようとしたが,その途中で兄弟のあいだに争いがおこり,レムスは殺され,ロムルスがローマ初代の王になったとされている。黒海の北方に住んでいたスキタイ人の神話によれば,この民族の始祖となったタルギオタオスは,天上の最高神パパイオスとドニエプル河の神の娘の女神との結婚から生まれた。そしてこのタルギタオスの息子たちの代に,あるとき天から三点の黄金の宝器が降下し,それを手に入れた末弟のコラクサイスが,二人の兄たちによって王と認められ,スキタイの王族の祖先となったという。この話には二つの点で明らかに,日本の建国神話との類似が認められる。日本神話でも,初代の天皇となった神武帝の父のウガヤフキアエズの命は,天孫ニニギの命の子の天神であるホヲリの命と,水を支配する海神ワダツミの娘のトヨタマビメとの結婚から生まれたとされており,王家が天神と水の主の娘との結婚から発生している。そして王家の王権のしるしとして,日本神話でもやはり,天から三点の宝器である皇室の三種の神器が降下したと物語られているからである。日本とスキタイの建国伝説にこのような類似があるのは,おそらく偶然ではない。建国神話が形成された時期に日本は朝鮮半島と,きわめて緊密な関係で結ばれていたが,この時代の朝鮮半島にはスキタイ人の文化の影響が強く及んでいたことが,王墓からの出土品などによってはっきり確かめられているからである。事実その当時に朝鮮の北部にあった強国の高句麗の建国伝説でも,初代の王の東明王となった朱蒙の母は,青河の河神の娘だった柳花で,天帝の息子で天王郎とも渾名された天神の解慕漱と結婚して,朱蒙を生んだと物語られていた。その上この東明王に始まる高句麗の最初の三代の王たちは,それぞれ貴重な宝を手に入れたと伝えられているので,王権と関係する三種類の宝器が現れるという点でも,高句麗と日本とスキタイの建国伝説には,共通する点が明らかに認められる。
〔参考文献〕三品彰英『建国神話の諸問題』1971,平凡社
吉田敦彦『ギリシア神話と日本神話』1974,みすず書房