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●元曲 げんきょく

アジア 中華人民共和国 AD 

 中国の元代に発展した歌劇ともいえる演劇で,元雑劇ともいい,北方系の歌曲を主体としたので,明代の伝奇(戯曲の意)の南方系の南曲に対して北曲とも呼ぶ。脚本が現今まで伝わる中国の演劇として最古のもので,中国文学史の傑作で口語文学としても最古のものである。誕生は金代の末年と考えられ,13世紀半ばごろから14世紀にかけて大都(北京)を中心に流行し,元代後期には南方の南宋の旧都杭州(浙江省)に中心が移ったが,明朝が成立してから急速に衰え南曲にその座をゆずる。元曲は前の時代の演劇や語り物,うたい物などの諸芸能を集大成した演劇だが,特殊な厳しい規制をもつ。[1]一つの劇は4折(幕・場)より成り,必要ならば「楔子(せつし)」(序の幕・間の幕)を加える,[2]各幕は違う曲調(メロディー)で同一の韻をふむ十数曲が配置されている,[3]曲を歌うのは全幕を通して主役一人だけに限る。これが上演されたのは盛り場の「勾欄(こうらん」(芝居小屋),農村の祭礼や仏廟で,舞台は能舞台のように幕や装置らしいものは用いていない。こうした文学的に価値ある演劇が成立した理由には,蒙古族が音曲を好んだこと,科挙がなくなり進路をとざされた読書人が情熱を通俗文学にうちこんだことなどが指摘される。著名な作家としては関漢卿馬致遠白仁甫・鄭徳輝がいて,四大家と呼ばれる。題材には男女間の恋愛・道教や仏教の説話・歴史上の英雄・裁判物などがあるが,史実や既存の物語を選ぶ傾向がある。儒教倫理にとらわれず,素朴で愚直な民衆の姿や社会が描かれていることが,元曲の特徴である。