●形質人類学 けいしつじんるいがく
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文化人類学と並ぶ人類学の一分野で、人類集団の自然・形質的側面を研究するもので自然人類学ともいわれる。形質人類学は、人類の身性の形態的・機能的変異を研究対象とし、長期の時間的変異としての人類進化、空間的変異としての人種がその中心であるが、霊長類の研究もこれに含まれる。その分析方法は、個々の細胞、組織、器官およびその結合についての形態的分析、人間の成長、生殖、新陳代謝、運動、刺激感応性などについての生理学・生化学・心理学などからの機能的分析のみならず、遺伝学や生態学的な分析方法も近年では取り入れられている。
【人類進化】人類はその形質・文化に従い4段階に分けるのが最も一般的である。猿人は脳容積400〜700cc、眼窩上隆起が発達し、項筋付着部が狭く、乳様突起は類人猿より発達している。歯列は放物線形で犬歯が小さく歯隙もないが小臼歯も大臼歯もきわめて大きかった。1964年、リーキーにより発見されたホモ=ハビルスは礫石器を用いていた。原人は脳容積775〜1,300cc、額が後退し頭は低平で、眼窩上隆起が発達、前頭骨は眼窩の後ろで急激に後退している。外後頭隆起や項筋が発達、乳状突起は小さく骨壁が厚い。歯列は放物線形だが、ピテカントロプスのみU字形で歯隙が存在する。大臼歯はM3が退化し、M2がM1より発達している。核石器・剥片石器を用い、火を使用、狩猟を行った。旧人の形態は地域・時代により著しく異なる。寒期の場合を示せば脳容積1,300〜1,600ccで大頭、脳頭蓋に比べ顔面頭蓋が発頭している。乳様突起は新人より小さく、犬歯窩が存在せず、外後頭隆起が突出している。石器はルヴァロワジン・ムステリアンなど技法の進歩がみられる。新人は形質的には現代人とほぼ同じで、脳容積1,300〜1,600cc、頭高が高く、胸鎖乳突筋と乳様突起が発達、咀嚼器は退化し、犬歯はへら状で歯列は放物線形である。猿人以前の人類としては、ラマピテクスが考えられている。これはサイモンズによればチンパンジー程度の大きさで、歯列はV字形、犬歯が小さくこのため外敵を威嚇する代替として、道具の使用が考えられ、したがって直立二足歩行を行っていたと推論されている。しかし現在は顎骨と歯のみしか発見されておらず、確証を得るためには骨盤、下肢骨、脳頭蓋などの発見を待たねばならない。
以上の4人類が直線的系列上で進化してきたとするのが単系説である。これに対し多系説は、人類進化の主要系列から離れた側枝や、特殊化した形態があるとする立場で、なかでも有力なのは人類の基本的系統の適応的放散の結果、相異なる形態が生じたとするものである。どの人類を側枝とするかには諸説があり、多くの専門家はこの両者の中間的立場をとっている。
【人種】人種とは「言語・慣習・国籍のいかんを問わず、共通の遺伝的諸特徴の集合を示す人の自然的集団」(ヴァロワ)であり、遺伝学的には「他の種内集団とは異なった遺伝子組成をもつ生殖集団」(スターン)である。人種の区分には生物学的な亜種、遣伝子交換をその地域内で行う地理的人種、生殖集団である地域的人種、などがあるが、今日一般的に用いられている白・黒・黄色人種の区分は地理的人種である。人種の形成は農耕以前にできあがっており、クーンやガーンは人種的形質の形成を自然環境からの淘汰により説明している。これによると皮膚の色や体の大きさ、体構は、気温などの自然環境により決定される。疾病も文明の発達とのあいだに淘汰の相関が考えられ、これについてはリヴィングストーンの西アフリカにおける鎌状細胞症の研究などがある。また遺伝子の突然変異も大きな役割を果たしているが、突然変異個体は正常な個体に比べ適応性が劣っており、それがどのように人種全体の形質形成に働きかけているかを解くのは今後の課題である。混血は遺伝子変異の多様性を増大させるし、生殖集団には遺伝的浮動が働いていることも見逃せない。