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●景気変動 けいきへんどう

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 約200年にわたる資本主義の歴史において,好況(好景気)と不況(不景気)の周期的な繰り返しがみられた。この現象を景気変動という。周期的に現れるところから景気循環(trade cYcle)ともいう。この循環運動は資本主義的経済機構に内在する自律的運動として発生するものとみられている。好況期には生産量や雇用量や企業利潤が増大し,したがって国民所得も増大する。また物価が上昇することが多い。これに反して不況期には生産量・雇用量・企業利潤が減少ないし停滞し,物価も下落しがちになる。

【景気変動の局面と計測】景気変動は基本的には需要・供給の不調整によって生じるものであるが,すべての経済活動が歩調をそろえて変化するわけではないから,なんらかの総合的な指標を用いて計測する必要がある。そこで国民経済活動の総合的指標である実質国民総生産(実質GNP)によって測定されることもあるが,とくに景気を測定する場合には,いくつかの重要な経済変動を組み合わせた指標をつくる。たとえば,鉱工業生産指数・在庫投資額・設備投資額・住宅建設着工数・平均労働時間・法人利潤額・株価・通貨供給増加率・消費者物価指数卸売物価指数その他を用いて,経済企画庁が作成する景気動向指数などがその代表的なものである。景気循環は通常,一つの循環を四つの局面に分けることが多い。すなわち経済活動の水準が極大になった点である。“山”(peak),それに続く後退期(下降期・収縮期),経済活動の極小点である“谷”(bottom),それに続く上昇期(拡張期)である。

景気循環の型と歴史】資本主義経済の動きを長期にわたって観察すると,そこには周期の異なるいくつかの波動の重なりが観測される。通常これには三つないし四つの波があるといわれている。

 [1]短期波動(小循環)短期波動の存在を最初に指摘したのはジェボンズであるが,これを明確な景気波動の一つとして示したのはキチンであるので,“キチンの波”とも呼ばれている。キチンは小循環の周期を平均40か月としたが,見方によって2〜9年という説もある。小循環の直接的原因は在庫投資の変化にあるとの見方が一般的であるところから,これは在庫循環と呼ばれることもある。

 [2]中期渡動(主循環)最も早く発見された景気波動であって,代表的発見者ジュグラー(1819〜1905)の名をとってジュグラーの波と呼ばれる。周期はほぼ10年前後で,設備投資の起状によってひきおこされるとみられるところから設備投資循環とも呼ばれる。

 [3]建築循環 他の三つの波動ほど明瞭に認められるものではないが,14,5年〜22,3年を平均的な周期とする景気循環が観測されることが,クズネッツリッグルマンその他によって確認され,その原因として住宅建設その他の建築活動の盛衰が主張された。一名をクズネッツ循環ともいう。

 [4]長期波動 約40〜70年を周期とする,きわめて長く緩やかな変動である。1920年代にコンドラチェフによって主張されたもので,過去において,1790〜1850年,1850〜90年,1890年〜1930年と3度の循環が観測されたといわれている。発見者の名をとってコンドラチェフの波と呼ばれているが,建築循環と同一視する論者もある。長期波動は一般的に産業革命のような大規模な技術革新の群発を契機として発生するといわれるが,また新市場の発見・戦争など社会情勢の大きな変化と密接なかかわりがあるともいわれている。

 景気変動は産業によって現れ方が異なる。通常,非耐久消費財の生産にはそれほど激しい変動はおこらないのに対して,耐久消費財産業や鉄鋼業・機械工業・建設産業などの素材産業・投資関連産業における生産は大幅に変動する。

【景気変動の理論】景気変動の原因については,数多くの理論が発表されてきた。景気変動を資本主義経済機構の自律的な運動としてとらえる点ではほぼ共通しているが,さまざまな差異をもった多くの景気変動理論がそれぞれの妥当性をもって存在しえたこと自体が,景気変動の多様性とメカニズムの複雑さを物語っているといえる。以下代表的な諸理論を紹介しょう。

 [1]貨幣的景気理論 貨幣の流通とくに銀行の信用創造と利子率の変化が景気循環の主要要因であるという考え方に立つ理論である。主唱者ホートリーによれば,不況局面では銀行の保有貨幣量が増大する。そこで銀行は貸出利子率を引き下げ信用創造を拡大する。これが流通部門の在庫蓄積を刺激し生産部門の生産拡大へと波及する。そこで雇用量の増大と賃金率の上昇がおこり,有効需要の増大を通じて流通部門の在庫蓄積をさらに加速する。このようにして景気の累積的上昇が始まる。しかし銀行の貨幣準備はやがて限界に達し,信用創造の拡大が停止せざるをえなくなる。したがって信用の引き締めを契機として在庫と生産の縮減による景気の後退が始まる。そして再び不況からの循環が繰り返される。この考え方によれば景気変動は貨幣現象である。

 [2]貨幣的過剰投資説 ハイエクが主張した理論で,景気循環の主要因を投資財生産と消費財生産の不比例的変動に求める点では次の[3]と共通するが,その不比例の原因を銀行の信用創造政策に見出す点で“貨幣的”と呼ばれる。信用創造の拡大はまず投資を刺激するが,過剰な生産能力のない状態においては,これが生産資源を消費財産業から投資財産業へ移動させ,消費財価格上昇を媒介として強制貯蓄をもたらす。これが投資の増加をさらに促進するが,このようにしておこる生産の過度な迂回化と消費財価格の上昇は,銀行の信用創造への制限となり,ここに景気の後退が始まるとともに,消費財部門と投資財部門との関係が逆転する。

 [3]財貨的過剰投資説 [2]と同じく投資の拡大を景気上昇の発端と考えるが,投資拡大の原因を技術革新による新投資機会の出現に求めるところに独自性がある。そして投資財産業内部での相互依存的な需要の拡大によって消費財産業との均衡が破れ,部分的過剰生産に陥って景気の反転が始まると考える。

 [4]その他の諸理論 ハーバラーのことばにあるように,〈景気変動の理論の相違点は主として強調点の相違である〉。たとえばヴィクセルは貨幣利子率と自然利子率との乖離を強調した貨幣的景気理論を展開し,マルクス派の入々は過少消費を強調した過剰投資説を展開している。

【景気変動の現代理論】ケインズ以後の理論を現代理論と呼ぶことにする。ケインズ自身は完結した景気理論を展開したわけではないが,ケインズの巨視的国民所得理論を母胎として現代的な景気変動理論が生み出された。それは,有効需要の理論にもとづく投資乗数と加速度原理との相互作用による景気の累積的拡張ないし収縮の論理に,景気の転換に関する若干の考慮を組み合わせたものということができる。まず景気の拡張が始まると投資乗数の作用によって国民所得の倍数的な増大がおこり,消費需要の増大となり,これが加速度因子の作用によって設備投資在庫投資にはね返って投資の累積的増大をひきおこす。そして再び乗数過程をへて国民所得の増大を呼ぶ。このようにして景気の累積的拡大がおこる。しかし早晩,労働力不足・原料供給の制約・資金不足その他いくつかの外部要因によって投資に障害が生まれる。これによって景気上昇が停止すると運動は反転して下落にむかわざるをえない。それは投資水準が需要の水準でなくその増加率に依存するという加速度原理のゆえである。そこで投資が減少にむかい,再び乗数と加速度原理が逆の方向に作用して,景気の累積的収縮が開始される。しかし収縮にも限界がある。企業の予想の変化・利子率の低下,消費需要の下支えなどその原因はさまざまである。現代では政府の景気政策も重要な要因になる。このように累積的な上昇・下降の論理的なメカニズムと,転換点の現実的な存在によって景気循環を説明しようとするのが現代理論の通説といえるが,乗数−加速度因子の相互作用自体に減衰傾向があるとし,これに外部から確率的な衝撃が加わることによって景気循環が発生すると主張する理論もある。さらにまた乗数−加速度因子の相互件用に“時のおくれ”が介在することによって,周期的な変動が生じうることを証明したサムエルソンの理論もある。

〔参考文献〕稲田献一・宇沢弘文『経済発展と変動』1974,岩波書店

J.R.ヒックス,古谷弘訳『景気循環論』1950,岩波書店

P・A.サムエルソン,小原敬士訳『乗数分析と加速度原理との相互作用』1953,勁草書房