●空想的社会主義 くうそうてきしゃかいしゅぎ
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マルクス主義以前の社会主義の別称。エンゲルスがマルクス主義を科学的社会主義と称し,サン=シモン・フーリエ・オーウェンらの社会主義を「空想的(ユートピア的)」として対置した。【歴史的条件】イギリスに始まる産業革命とフランス革命は,資本主義社会の勝利を奏でるものであった。だが他方において,それらは資本主義社会における貧富の差などの矛盾をあらわにした。このことは,資本主義社会の形成過程において,自由と平等な社会の到来を信じてきた民衆の期待を裏切るものであった。こうして資本主義社会への批判,さらには新しいユートピア社会の建設を唱える社会主義思想の形成条件が生まれてきた。しかし,その社会主義思想を現実に担い,実現する社会的勢力としての労働者階級は,その歴史的使命を果たしうるほどには,政治的にも組織的にも成熟していなかった。このような歴史的条件のなかで,どのような思想的回答を打ち出すかが,19世紀前半期の社会主義者に負わされた思想的課題であった。
【資本主義批判の論理】初期社会主義者たちは,当時の資本主義社会を産業社会とか文明社会とかという名のもとにとらえ,激しい批判を浴びせた。現存社会秩序は,非理性的であり,不正義であり,勤労大衆を貧困と道徳的退廃に落としいれている,と非難された。しかし,この批判は,資本主義の科学的な現状分析にもとづいていなかったので,その批判の矛先は,しばしば的はずれの方向にむかった。たとえば貴族・高官・利子生活者など不労者に非難を集中したり,また商業の支配こそが文明の弱点であるとして,商人を製造業者や農民にたいする悪質な搾取者とみなしたりした。だが,それにしても現存社会秩序への激しい批判とともに,勤労大衆を貧困から解放しようという社会主義思想の原点が明示されていた。
【ユートピアの論理】勤労大衆を解放しうる歴史的条件が未成熟であったことは,初期社会主義者たちが構想する新しい社会への道を,ユートピア的なものにしていく。彼らは現存社会秩序に対して,彼らの頭脳のなかに構想された新しい秩序を対置した。そして新しい秩序を宣伝したり,模範的実験を試みたり,資本家などの有産者に訴えていくことによって,彼らの理想を実現しようとした。こうしてあるものは,新しいキリスト教を唱えて,金持ちが利己的な利益のみを追求しないように道義心を目覚めさせようとした。またあるものは,模範的な工場をつくり,労働者の待遇を向上させようとした(労働者の子供たちのために世界最初の幼稚園もつくる)。あるいはまた協同組合をつくり,労働者による生産管理まで試みたり,共産主義的な平等村を建設しようとした。こうしたさまざまな提唱や試みは,現実の壁によってさえぎられて失敗と挫折に終わった。初期社会主義者たちにとっては,当時の労働者階級が彼らの理想を実現する社会的勢力となりうるとは思われなかった。したがって,彼らのユートピア社会を実現する方法も,説得・教育・模範的実験というユートピア的なものしかありえなかったのである。
【エンゲルスの批判】こうしたユートピア的弱点を鋭く批判したのはエンゲルスであった。彼は『空想から科学への社会主義の発展』(1880)という小冊子において,自らのマルクス主義的見地を「科学的」として,19世紀前半期の社会主義を「空想的(ユートピア的)」と定式化した。彼が主張する「科学的」ということは,社会主義の実現の道を,思想家の理想やアイデアのなかにではなく,現実のなかに探究することを意味していた。そして,このことが可能になるためには,大工業の発展と強大な労働運動の登場まで待たねばならなかったとしている。
〔参考文献〕F.エンゲルス,寺沢恒信訳『空想から科学への社会主義の発展』1953,大月書店
永井義雄『初期社会主義』世界歴史18・近代5,1970,岩波書店
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