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●近親相姦禁忌 きんしんそうかんきんき

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 一定の範囲内の近親との性関係を禁忌として禁じる社会的規制。この禁忌はあらゆる民族・文化・社会にみられる普遍的な制度である。

【実態】どんな社会でも,誰と誰とが結婚できるか,あるいはできないか,という規定や制限がある。また性関係をもってはならないあるカテゴリーの関係者がある。通常,この二つの関係は一致するが,常に一致するとは限らない。婚姻が許されない人たちのあいだで,性交渉は認められている社会もいくつかある。性関係の禁止と姻婚関係の禁止とははっきりと区別して考えなければならない。ほぼ普遍的に,かつ最も強く禁止されているのは,兄弟姉妹・親子間の性行為,つまり(両親以外の)基本家族の成員のあいだでの性関係で,これが一般に近親相姦とみなされている。しかし,この禁止の対象はこれに限らない。親族集団が強く機能している未開社会などでは,禁止される親族の範囲は特定の親族集団全体にまで及び,外婚規制と区別がつかなくなる。近親相姦の禁止が,単に近族近似の観念にもとづくものだと考えるのは,よくある誤解である。単系的に組織された多くの社会では,自分の系統のすべての関係者は,たとえ系譜上はどんなに遠く離れていても,配偶者とすることは禁じられるし,一方,別の系統であれば,とりわけ近親の関係者でも婚姻は社会的に認められ,しかも優先的に選ばれることさえある。

【文化的カテゴリーとしての禁忌】近親相姦の禁止という場合,近親の概念が問題となる。つまり,西欧的発想では,近親相姦という場合には性的関係が問題の中心である。このような西欧的近親相姦の概念をもって,ほかの社会における近親相姦の禁止の問題を判断してはならない。たとえば兄弟と姉妹が成人に達したのちに,親しげなふるまいを示したり,性的な冗談をかわすといった行動が禁止されている社会がある。この場合上に述べた行動それ自体,近親相姦と同じ様相を示すものとみなされ,強く禁忌が働いている。近親相姦の禁忌はきわめて文化的な条件にもとづいていると理解される。

【例外】兄弟姉妹・親子のあいだの近親相姦禁忌は,人類社会において,確かに普遍的な性格をもっている。他方,この禁忘の例外としてよく引用されるのは,古代エジプトやインカなどの歴代の王が姉妹と婚姻した例である。これはこの禁忌を破る特権というべきもので,王権の呪術的宗教的基盤だと説明されている。これらの王国における兄妹婚は,はたして西洋流の近親相姦のカテゴリーに入れてよいものだろうか。つまり,社会的・文化的に許されている性関係は近親相姦ではないという主張も可能なのである。この問題は,文化的脈絡のなかで理解しなくてはならない。

【なぜ禁止されるのか】近親相姦の禁忌は,性の規制のみならず婚姻の規制にもかかわり,かつ社会的秩序の根定に横たわる問題でもある。中国語で近親相姦のことを“乱倫”という。この語は社会秩序を乱すことの意であるが,意味深い表現である。マリノフスキにあっては,〈家族員同士の婚姻は,親族上の地位を錯綜させてしまい,子供の社会化という家族の負っている義務が遂行できなくなるから〉と解釈する。だが,レヴィ=ストロースはもっと説得的な説明を与える。〈家族内での婚姻の禁止はとりもなおさず他者へ女性を譲渡することで,その代償として他者から女性を得る権利が生じ,ここに女性の交換にもとづいた連帯関係がつくりだされる〉と説く。このようにして婚姻は,社会関係を新たにつくりだし,かつ関係の網の目をひろげる契機となる。この原理が否定されると,もうそれは社会の崩壊である。つまり,社会とは社会的関係を不断につくることであり,その最も基本の契機は婚姻であって,家族内で女性を消費せずに,女性を交換することを通じて,社会関係をより広い範囲で結ぶように命ずるのが,近親婚禁止である。それゆえに社会の存在はこの禁止にもとづいている。この説明は,近親婚禁止の意味を最も根底的なところから示すものといえる。