●キリスト教神学 キリストきょうしんがく
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キリスト教信仰の内容である,神とその救済について組織だてを行い,概念化をなす学問。どの宗教もその神学をもっているといえるが,キリスト教における神学は,キリスト教の信仰について学問的な吟味反省を行うものである。したがってキリスト教の場合,神学は信仰そのものではないが,信仰の生活のため必要欠くべからざるものであり,両者は深い関連を有するという性格がある。また神学は,信仰者の集団である教会と不可欠の関係をもっている。その意味で神学は,学問的な研究の営みでありつつ,つねに実践的な関心にもとづくという性格をもっている。神学はキリスト教会の歴史とともに長い展開の跡を示している。いま,その一端を,神学の語義が形成される歴史的展開をたどりながら概観したいと思う。【神学の語義とその展開】神学の語はキリスト教以前に,すでにギリシアにおいて,神についての教え,神々についての物語,神性について語られたことばなどの意味で用いられていた。その語義はそこではむしろ,神話の意味に近かった(たとえばプラトン『ポリタイヤ』)。またアリストテレスは,その理論哲学を数学・自然学・神学に三分し,最高の位置を占めるものとして神学を考えた(『メタフィジカ』)。形而上学の中心に,不動の存在である神の認識を扱う学問として,神学が置かれ重んぜられる素地がみられる。このような神学の用法は,さらにストア派にも継承されている。このようにキリスト教以前に,神学の語は存在していたのみならず,学問の重要な用語として使われていた。しかしそれは,もちろんキリスト教とは,本質的に異なる意味連関のなかで用いられてきたことは,注意せねばならない点である。
キリスト教において神学の語を,キリスト教的な意味で採用し,用語化することが必要となる状況は,すでに第2世紀にみられる。当時のキリスト教会は,ヘレニズム=ローマ世界のなかで,キリスト教の妥当性を明らかにする課題に直面したのである。そこからキリスト教の信仰内容を概念化し,教えについての論述を行う神学の意味で用いられることになった。そこから神学といえば,ふつうキリスト教神学をさすようになったのである。
古代教会における神学の概念の肉づけには,より思弁的な東方と,より体系的な西方とでは,ニュアンスを異にしている。東方教父は,神学を,神と三位一体とに関する論述に限定して理解する傾向が強かった。これに対して西方教父は,神学をキリスト教の教説全体についての論述と解するようになった。この理解が中世スコラ神学に受け継がれたのである。中世にいたって神学の語は,キリスト教信仰の全内容を組織だてて,総合的に論述する学問の意味をもつにいたった。あわせて教会の教えは神によって啓示された真理であるゆえに,神学はこの真理を弁明する学問の性格を強めた。
神学の語義は,近代に入ると大きな局面の変化による影響を受けるにいたった。それは中世から近世への転換が,学問の領域全体にわたって現れてきたことと決して無関係ではない。とりわけ,近代の学問精神と密接な交渉をもった,プロテスタント神学の場合に激しい波風をおこすにいたった。聖書の歴史的・批評的研究が,その端的な例であり,その研究の結論が教会の教義にふれ,信仰に衝撃を及ぼしたことがあった。神学はその学問性が問われ,哲学や歴史学への解消か,あるいは聖書学と教義学との分裂かという形で,存在理由が論議されたこともある。しかし19世紀初めにシュライエルマッハーは,神学を〈実定的ポジティヴな学問〉と呼び,学問でありつつ,同時に実践的な性格をそなえ教会とのかかわりをつねにもつことを述べている。またバルト神学では,神学の学問としての独自性を主張しつつ,教会における宣教の自己批判の学としての面を強調している。
【神学の諸部門】キリスト教神学の内容は,カトリック神学・ルター派神学などのように,キリスト教各教派の立場を表す場合もあり,またアウグスティヌス神学・カルヴァン神学のように特定の神学者による立場を示すこともある。しかし,ここではカトリック・プロテスタントを問わず,ほぼ共通して使用されている神学における諸部門について述べる。それらは17世紀末ごろに用語として確立して,今日に及ぶものである。神学のなかが,いくつかの部門に分類されて理解されるとともに,神学はそれらの部門からなる有機的関連性をもつ統一体として把握されている。それは以下のようなものである。[1]歴史的神学……聖書学(旧約および新約)・教会史学(キリスト教史),[2]教理的神学……教義学(組織神学)・キリスト教倫理学・弁証学,[3]実践的神学……説教学・礼拝学・牧会学・キリスト教教育学・教会法学。これら3部門の分類を可能にし,とりわけそれらの総合を理論づけたものは,ほかならぬ西洋の伝統的思考であった。すなわち,人間の思惟がもつ三つの様相を,歴史的・理論的・実践的の3者からとらえ,それらの総合を指向したものである。歴史的部門において起源が問われ,理論的部門においては本質が探究され,さらに実践的部門においては実行が明らかにされることとなる。そして3者の有機体的関連のもとに,神学が把握されるのである。
上記のような古典的形態で把握された神学の諸部門は,今日では基本的には変動はないけれども,いくつかの補充が行われている。いまプロテスタント神学の場合を例にとるならば,歴史的神学の部門では,一般宗教史・宗教学の視点が取り入れられている。また教理的神学の部門においては,宗教哲学が入っており,方法論における重要な役割を担っている。また実践的神学の部門では,社会の視点が取り入れられ,キリスト教倫理学との関連が併せて重視されるにいたった。これらはいずれも,現代社会の諸問題と学問の状況との折衝を反映しており,なお討議が継続されているものである。
【代表的な神学者】キリスト教神学の歴史の概略を,ここでは代表的な神学者の名前と,その主著をあげることによって説明してみたい。古代教会には多くの教父が活動したが,そのうち最も大きな影響を後世に遺したのは,アウグスティヌス(354〜430)である。『告白』『神の国』『三位一体論』などの著名な書物を著した。今日にいたるまで,絶えず新しい解釈を呼びおこしている。中世のスコラ神学を代表するのは,トマス(1225?〜74)である。体系的な思想家として優れている。『神学大全』『異教徒に対する大全』のほか,膨大な著作を遺している。宗教改革のプロテスタント神学は,ルター(1483〜1546)と,カルヴァン(1509〜64)とに代表されている。ルターは宗教改革の創始者であり,信仰義認の教理形成に貢献した。その才能は,『キリスト者の自由』『教会のバビロニア捕囚について』などの著書のほか,聖書釈義や論争命題によく示される。カルヴァンは『キリスト教綱要』を著し,プロテスタントの教理を体系的にまとめる貢献をした。
近代19世紀のプロテスタント神学に,最も大きな影響を与えたのは,シュライエルマッハ(1768〜1834)である。『宗教論』『信仰論』を著し,宗教的体験の意味を明らかにした。20世紀のプロテスタント神学は,バルト(1886〜1968)と,ティリッヒ(1886〜1965)に代表されよう。前者は『ローマ書』『教会教義学』を通して,神の言の神学を展開した。また後者は,『組織神学』『存在への勇気』なども著し,キリスト教神学と文化との関係を迫求した。
〔参考文献〕熊野義孝『神学諸科解題』(熊野義孝全集4『神学概論』)1982,新教出版社