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●キリシタン版 キリシタンばん

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 天草版は16世紀末期天草に設置されていたコレジヨ付属機関の印刷所で学校のテキストおよび伝導の布教書として出版された多種の宗教・文学・語学の本である。コレジヨはイエズス会によって設立された大神学校でカトリックの司祭養成を目的とした単科大学(学院・学林)である。ラテン・ポルトガル・日本の3カ国の語学と文学を基礎に天文学・哲学・倫理学・宗教学など広汎な教養と神学を専門に教育するところである。このようなコレジヨは1581年(天正9)府内(大分)に創立され,その後山口・生月・長崎・千々石・有家・加津佐・天草・長崎へと移動し1619年(慶長14)マカオヘ追放されるまでの38年間存在した。この内,コレジヨに付属した印刷所は1590年よりその翌年まで加津佐に,1597年までが天草に同年より1619年までが長崎に設置された。この間それぞれの印刷所での出版物を,加津佐版・天草版・長崎版と呼びこれらを総称してキリシタン版(本)と呼んでいる。印刷機は天正遣欧少年使節が帰国するときもってきた西洋式金属製活字印刷機で,その後日本文字を製作した。その印刷技師はコンスタンチノ=ドラード(諌早出身),日文印刷技術者は竹庵ペテロ修士(口ノ津出身),欧文印刷技術者はジョアン=パプチスタ=ペツセ(イタリア出身)などであった。キリシタン版で現存しているものをあげると次のものがある。加津佐版はまず『サントスの御作業のうち技書』がある。『どちりな=きりしたん』は加津佐版か天草版か不明である。天草版には『ドチリナ=キリシタン』『ヒデスの導師』『ばうちずもの授けよう』『平家の物語』『イソポのファブラス』『金句集』『ラテン文典』『羅葡日対訳辞典』『コンテンツス=ムンヂ』『心霊修業』『精神修養綱要』以上11書,このほか現存していないと推定されるものに26書以上がある。長崎版には『落葉集』『和漢朗詠集』『金言集』『日葡辞典』『日本大文典』『聖教精華』『大平記抜書』など全部で16書現存している。天草版の次の4書はキリシタン版全体のなかで最も重要なものである。『ドチリナ=キリシタン』は,訳者不明1592年刊。用語は日本文(文語体)で用い,用字はローマ字,所蔵は東洋文庫(日本)である。〈キリシタンに相当の理を互いの問答の如く次第を分ちたまふドチリナ〉とあり『吉利支丹心得書』および『信心と善行との栞』と名付けられてもいる。最初の翻訳は橋本進吉『文禄元年天草版吉利支丹教義の研究』(1928,東洋文庫)である。『平家の物語』は不干斉ファビアン修士の訳編で1592年刊,用語は日本文(口語体)で用い,用字はローマ字,所蔵は大英図書館である。本書は〈日本の言葉と歴史を知らんと欲する人のために世話に和らげたる〉ものである。最初の翻訳は亀井高孝『天草本平家物語』(岩波書店1927年)である。『イソポのファブラス(伊曽保物語)』は,高井ゴメスの訳編(推定)で1593年刊。用語は日本文(口語体),用字はローマ字,所蔵は大英図書館である。本書は西洋のことばと生活思考を知りたい人のために〈ラテンを和して日本の口となす〉ものである。最初の翻訳は新村出『文禄旧訳天草本伊曽保物語』(開成館1911年)である。『羅葡日対訳辞典』は,編者がゴーメス・原マルチノ・フランシスコ=アラタケ(推定)で1594年刊,用語はラテン・ポルトガル・日本の3カ国語で用字はローマ字。所蔵はボドレアン文庫(英国)・北堂文庫(中国)である。ラテン語を学ぶ日本人および日本語を学ぶ西洋人のために編さんしたものである。最初の解題は岩井大慧『吉利支丹版拉葡日対訳辞典に就いて』(1953,東洋文庫)である。天草版は天草コレジヨ出版物であるが,キリシタン版全体のなかで有名であり日本の教育・出版の文化史上はもちろん世界的な文化遺産として貴重な存在である。

〔参考文献〕海老澤有道「天草キリシタン版書誌」(鶴田文史編『天草学林論考と資料集』)