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●漁労 ぎょろう

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 漁労はふつう水界の動・植物の採捕をさし,魚類の捕獲はもちろんのこと,アザラシ・クジラ・イルカ・ウミガメなどの捕獲のように狩猟に近い性格のものから,海藻・貝・ウニなどを対象とした採集までを含む。漁労が水産動・植物の栽培・養殖を含めた生産活動を意味することもあるし,さらに製造・加工を含めた広義の意味で用いられる場合もある。狭義には,魚類をとる行為,あるいはその漁獲技術をさす。漁業が近代的技術により,商品としての魚を売ることを目的とした経済的ないとなみを表すことばであるのに対して,漁労は経済性の有無,技術の程度や規模とは無関係に用いられる。自給用,あるいは商品生産を目的とする漁労や漁業に対して,レクリエーションとしての遊漁は区別される。人類史上,漁労の発生は古く,旧石器時代にさかのぼる。スペインのアルタミラにおける洞窟壁画(6万〜10万年前)は,当時の人々が陸上の狩猟動物とともに,沿岸の水産資源に依存していたことを如実に物語っている。

【漁労民】商品生産を目的とした漁業者を別にすれば,漁労のみによって生活をいとなむ民族はなく,狩猟・採集・農耕などの生業との組み合わせにより生計がいとなまれるのがふつうである。世界中の諸民族のうち,最も漁労に依存するのは,東南アジア島嶼部のバジャオ族やモーケン族などの漂海民,太平洋地域のサンゴ礁に住む諸族(アドミラルティー諸島民・トレス海峡諸島民),極北のエスキモー諸族,シベリア・沿海州沿岸の狩猟・漁労民(ユカギール族チュクチ族アイヌ族),北米の北西海岸インディアン(クワキウトル族・トリンギット族)などである。熱帯アフリカ・東南アジア島嶼部・南北アメリカの沿岸諸族においても漁労が重要なところがある。内陸部では,アフリカのコンゴ川流域・中国東北部の松花江・南米アマゾン川・東アフリカのタンガニーカ湖・西アフリカのチャド湖・タイのトンレサップ湖・日本の琵琶湖などには,淡水漁労を専業的に行う集団が分布する。

【漁労技術】世界各地では,さまざまな漁具・漁法が用いられてきた。漁労技術は,大きく釣り漁法・網漁法,その他の雑漁法に区分できる。さらに対象である水産・動植物への効果に着目して,まず対象を誘う,おどす,陥れる,掻きおこすなどの段階を通じて,突き刺す,からませる,はさみとる,かぶせる,包みとるという直接的な段階にいたる過程により細分することがある。

【漁具】弓矢・吹矢・棒などの漁具は陸上の狩猟においても重要な道具であり,構造は単純であるが使用の際には熟練を要する。アマゾン・東南アジア・ニューギニア・アンダマン諸島などの原始的狩猟・採集民のあいだで用いられる。やすの分布は広く,先端が1本のもの,二叉あるいは多叉状のものとあり,かえりの有無,材質(骨・木・竹など)によっても多様化している。銛は先端部が離脱式の漁具で,とくに北方亜寒帯の狩猟・漁労民の海獣漁,日本や地中海におけるカジキの突きん棒漁,サンゴ礁海域の漁労民によるジュゴンやウミガメ漁に用いられる。捕鯨銛は海獣としては最大のクジラをとるためのものである。鈎・ねじり具・はさみ具は,とくに底生動物や海藻用に用いられる。

 釣りばりは魚の索餌行動を利用した漁具で,その原型は1本の細い捧の両端を鋭くして中央部にひもをつけたゴージである。釣りばりには,1本の木・骨などを加工してつくった単式釣りばり,かかりと柄の部分をひもで固定した複式釣りばり,魚の餌に似せた擬餌ばりがある。北西海岸インディアンのオヒョウ漁,ポリネシアのサメ漁にそれぞれ用いられる釣りばりは最大級の大きさをもつ。真珠母貝とベッコウを組み合わせ,おもにカツオ・マグロをとるオセアニアの擬餌ばりや,タカラガイと石を組み合わせたタコとり用擬餌ばり,木の葉製の凧を揚げ,凧から垂らした糸の先にクモの巣を丸めたものやサメ皮を餌としてダツをとる凧上げ漁などは,オセアニアで特異的に発達した漁法である。釣り漁法は,手釣り・竿釣り・引き釣り・はえなわといった区別もする。

 網漁は,新石器時代から行われていたことが,土器などに残った網目状の痕跡や,石製の沈子・浮子などから推定されている。漁網には,小型のすくい網・投網・魚群をすくいあげる四手網のように単独で使用できる小規模のものから,オセアニア各地でみられる全長100m以上に達する追い込み網や,現代漁業における定置網・底曵網・巻網のように大規模なものまである。その他の漁具・漁法として以下の諸例がある。植物の樹液の有毒成分を水中に流し,魚を一時的に麻痺させて漁獲する毒流し漁。石・木・壺・やな・筌・籠などを設置して,魚を一定の区域や漁具に誘導して捕獲する漁法として,川をせき止めるヤナ漁,木の枝で人工的に魚の隠れ場をつくり魚を集める柴漬漁,サンゴを積んだ囲いに潮の干満とともに移動する魚をとる石干見漁,川・湿地・浅瀬に仕掛けた籠やワナに魚を誘導する筌漁,タコ壺漁,琵琶湖のえり漁,などがある。このほかに,東南アジアや日本では両端の開いた籠で水田の淡水魚を手づかみにする魚伏せ籠,魚を引き寄せるため,夜間,松明などにより魚を集めたり,ココヤシの殻製のガラガラで音をたてサメをロープでしばり漁獲するポリネシアのサメ漁がある。潜水により魚や底生動物を採捕する方法は,熱帯・亜熱帯に多くみられ,日本の海士・海女は潜水漁分布の北限となっている。

【漁労と水面利用】古来より,漁場利用をめぐり,幾多のなわばり紛争が繰り返されてきた。沿岸海域や河川・湖沼などにおける漁場には,特定の使用権や占有権が認められているのがふつうで,さらに禁漁期・禁漁区域・特定漁具の使用規制,特定魚種の捕獲制限といったあらゆる規制も適用される。これに対し,沖合の漁場に対する規制は未発達の場合が多い。水面利用の規制は,社会の統合・紛争回避・経済的平等・資源保護といったさまざまな役割をもってきた。

【漁労と禁忌・儀礼】漁労は自然界から一方的に水産資源を採捕する生産様式であった。そのため,資源の増殖や豊漁を祈願するための儀礼や宗教的観念が発達した。たとえば,台湾のヤミ族のトビウオ豊漁儀礼,オセアニア各地のカツオ漁と成人式儀礼,北方狩猟・漁労民におけるサケの初物儀礼がある。こうした儀礼は,特定の禁忌を伴う場合が多く見出される。宗教的な戒律や信仰と結びついて,魚が禁忌の対象となることもある。イスラーム圏においては,ウロコのない魚を食することは禁じられている。古代エジプトでは,海産魚は不浄とされ,淡水魚しか食されなかった。ユダヤ教では,ナマズなどのウロコのない魚や軟骨魚類・貝・タコ・カニ・エビなどは禁食の対象とされる。アフリカのバンツー系諸族は,魚に触れることも食することもなく,魚はヘビと同じ位置を与えられている。このように,宗教的な観念により,魚が存在しても必ずしも漁労が成立するとは限らない。さらに,特定の魚を神聖なもの,あるいは特定の価値と結びついたものとみなす観念が世界各地にある。ギリシア・インド・日本をはじめ多くの社会では魚が神話に登場する。魚自体を豊饒ないし多産の象徴とする考え方は,インドからヨーロッパにかけて広く分布する。古代ギリシアではイルカを神聖な動物とみなす考えがあり,現在でもこの観念は生きている。キリスト教世界では,もともと金曜日は魚を食する日(Fish Day)とされており,ほかの肉類を食することはできなかった。日本でも,漁労をめぐって船霊(フナダマ)信仰・網霊(おうだま)・船祝い・船幽霊・沖縄のニライカナイ信仰・エビス信仰などのさまざまな俗信や習慣がみられる。

〔参考文献〕大島襄二編『魚と人と海−漁労文化を考える』放送ライブラリー11・1977,日本放送出版協会藪内芳彦編著『漁労文化人類学の基本的文献資料とその補説的研究』1978,風間書房