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●漁村 ぎょそん

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 村落の生業形態からとらえた類型の一つで,主として水産業およびその関連産業に従事している人々によって構成されている村落をさす。古くから浦や浜などの名称で呼ばれてきた。村が立地している条件ならびにそこで従事している漁業の性格から,海岸漁村,河川漁村,湖沼漁村などの種別がある。現在ある漁村のなかには,古く律令時代の海部からの伝統をひくものもあるが,多くは中世のころ,それまで磯場を渡り歩いた漁民の定着化とともに成立をみたと考えられている。このような漁村は,定着後も海産物を上納する義務を負わされる一方で,朝廷や幕府・守護などの保護を受け,漁業上の種々の特権が与えられていた。

 近世に入り,海辺の農村の多くが地先の海域を利用して,自らの糧としてのおかず採り漁業や,干鰯や〆粕などのこやし採り漁業に従事するようになってくると,中世以来の伝統をもつ本捕,立浦などと呼ばれた海人漁村と,近世以後の端浦(主農従漁の百姓漁村)とのあいだで,漁場や海境をめぐっての係争が頻発するようになってくる。これらの係争を通じ,海辺農村は徐々に自村の地先海域を囲い込み,その漁業権を確立していったものと考えられる。たとえば,1741年(寛保1)の『山野海川入会』によれば,〈磯猟は地附次第他,沖は入会〉,〈藻草ニ役銭無之,漁猟場之無差別地元次第刈之〉,〈村並之猟場は村境を沖え見通猟場之境たり〉などとみえ,地先海域での漁業権は陸上での村境を限りに,それぞれの村に付属していた。 こうした事情は近代にいたり,明治期になると,海面は国家の所有するところとなり(「海面官有宣言」1875),官有の海面を借用して,各申請者が漁業を行使する形態がとられるようになった。またこの時期において重要なのは漁業権制度が確立されたことである。漁業権制度は旧漁業法(1901)をへた明治漁業法(1910)において確立したもので,定置,区画,特別,専用の四種の漁業権が設定され,これらは免許制にもとづいて認可された。このうち,専用漁業権には,村落を単位に構成された漁業協同組合地区の地先海面をもっぱら用いて行う地先水面専用漁業権と,漁業法以前の旧慣にもとづいて与えられる慣行専用漁業権の二種が存在したが,地先水面専用漁業権は,各漁村の江戸時代の地先漁業権を,ほぼそのまま踏襲するものであった。この旧漁業権は,その後,数次の改定はあったものの,基本的には,第二次大戦後の漁業制度改革まで存続し,改革後の新漁業権(定置・区画・共同)にひきつがれている。

 漁業制度改革まで,明治の漁業権制度が実質的に江戸時代の漁村構造をそのまま継承したため,漁村では,近代に入ってもなお村の支配層である地主=網元層の勢力を温存し,また耕地所有や共有地の権利などと漁場使用の権利が結びつき,漁民にとって漁業権行使は,身分的かつ差別的に行われてきたといってよい。今日の漁村には,古代以来の海部の伝統をひくと思われる釣りや突きなどの攻撃的漁法を得意とする「海民漁業」に従事する村と,定置網や地曳き網などの受身的漁法をもっぱら用いる「農民漁業」に従事する村とが混在して認められる。「海民漁業」の村は後背農耕地も少なく,専業漁民によって構成されるか,あるいは主漁従農の形態をとるものが多く,海に対して強い志向性を有していると考えられる。それゆえ,これらの村は屋敷地に農家のような作業場をもつ必要性もなく,また立地している場所も山のせまった狭隘地が多いところから,家屋が肩をよせあうように密集して建てられ独特の集落景観を形づくっている。これに対して,「農民漁業」の村では,寄魚を対象とした定置網など網漁業を農閑期に行う主農従漁の形態をとり,さきにみた,地先水面専用漁業権(現在は共同漁業権)にみられるような,農地経営などにもとづく農村的身分秩序を強く反映した漁業を行っている。

 今日,多様な存在形態をもって展開している漁村を分別するための類型案は,これまでいろいろな立場から試みられてきている。以下に代表的な漁村類型案を掲げておく。

 村落における産業比率や産業人口を指標としたものとして,[1]純漁村,[2]主漁従農村,[3]半農半漁村,[4]主農従漁村,[5]純農村,[6]漁業市場(青野寿郎)があり,また藩政期における海村を同じく生業形態の比重により,[1]地方−,(a)地方=純農,(b)海辺地方=主農従漁,[2]浦方−,(c)端浦=半農半漁,(d)本(立)浦=純漁,の四つのタイプに分けて考える案もある(羽原又吉)。また明治漁業法において制定された旧漁業権の内容により,法社会学的立場から分類したものとして,潮見俊隆による[1]専用漁業権の村,[2]特別漁業権の村,[3]定置漁業権の村,[4]区画漁業権の村がある。一方,資本蓄積・漁民層分解・漁労技術・漁場所有形態などの経済学的指標にもとづく,[1]小産的漁村,[2]資本制生産的漁村,[3]出稼漁村,[4]内水面漁村もあり(小沼勇),漁業協同組合の構造による分類[1]地先部落,[2]市街地部落(斎藤兵市),あるいは民俗学的立場からの分類として,[1]沖合漁業村(B村),[2]B村的定置漁業村,[3]海藻貝類採取を含む地先小漁業村(A村),[4]A村的定置業村,[5]カキ・ノリなどの養殖村,などがある(桜田勝徳)。農村に比ベ,漁村は一般に個性的であると指摘されるが,漁村では,漁場という陸上とは異なる生産環境での作業が主体であり,海域の生態的条件や,これに対応した魚族の生息条件など自然的制約を強く受け,これらの条件に最も適合していると考えられる漁具・漁法をそれぞれ村ごとに行使しているため,このような印象を与えるのであろう。