●帰納法 きのうほう
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演繹法に対立する用語。帰納法は個々の事実から一般的原理を導く推論であるから帰納的推理ともいわれ,演繹法は一般的原理から事象を説明する過程であって演繹的推理といわれる。要するに特殊から一般へいたり(帰納),ついで一般から特殊へむかう(演繹)ことから,帰納の終点は演繹の出発点であって両者は密接に関連し合っており,科学的方法論の骨格をなしている。【古代中世における帰納法】古代ソクラテスの思想のなかに現れる帰納的論法は帰納法的推理の端緒である。本質を求める問い,“いったいそれは何であるか”に答えるためにソクラテスは帰納的論法を用い,普遍的定義を導き出した。それは不適格例を帰謬法で次々に消去して定義にたどりつく方法である。しかし帰納法を演繹法とともに科学的方法として確立したのはアリストテレスである。普遍の認識に達するには個物の検討による必要があるから,帰納法は真理獲得のための一つの方法である。彼は帰納法を3段論法の第3格の形で示している。『分析論前言』によると,「もしC(人間)がA(長命)であって,CがB(胆汁がない)であるならば,BはAである」という形で示されていることから,帰納法は帰納的3段論法ともいわれる。しかし彼にとって帰納法は学問や技術の初期には必要で有効な手段であっても,学問の完成に近づくにつれて演繹法を発見することが優先されている。12〜13世紀のグロステストはアリストテレスの論証的思考を受け入れて,事象の原因と結果との関連を分析し,方法論的に演繹的な数学の方法と検証的な実験の方法とを結びつけた。彼の弟子ベーコンは帰納された原理を,さらに広範囲の事例から検討することによって経験学の樹立をはかった。
【近世以降における帰納法】近世において帰納法に脚光を浴びせたのはベーコンである。彼はアリストテレスの科学的方法論を一応受け入れながら,単純枚挙によると帰納の過程で否定すべき例証を配慮しないで誤謬に陥る点に着目して,排除法をとり入れた。つまり存在例と不在例と除外例をあけて,帰謬法を用いて除外例を不適格として否定する。そして事象の観察から本質的で不変な関係へと累進的に拡大して一般的原理(形相)に達しようとした。ミルは『論理学体系』において帰納法を体系化し完成した。彼は帰納法を四つの型に分類している。一致法,差異法,共変法,剰余法である。これらの方法によって科学の法則が発見され,その法則は正当であるとしている。このような部分より全体を肯定する帰納的推理が可能であるのは「自然の斉一(せいいつ)性」にもとづくとみなされている。ミルの論理学に含まれている帰納論理学(inductive logic)を詳細に検討して確立したのは,今世紀の論理経験主義者カルナップである。彼は与えられた仮説が観察(実験)によってどの程度まで確証されるかを明白にしようとした。観察から帰納した帰結は必ずしも確実な真理ではないし,一定の確率をもつとしかいえない。いわば帰納的論理は確率値の計算方法を示すものであると解されている。こうした観点はポパーやクーンなどによって批判的に論じられている。
【数学的帰納法】数学的帰納法は,自然数nについて命題P(n)がつねに真であることを証明するために,nについて有限回繰り返すことによってどの自然数にも達することを示す方法である。「n=1のときPは真。n=iのときPが真とすれば,n=i+1のときPは真。ゆえにP(n)はつねに真」という論法である。これは17世紀のパスカルによって示された論法をベルヌイが記号化したものにもとづいている。パアノはこれを自然数における原始命題の一つとして採用した。