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●気候 きこう

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 大気の状態は,地球上の場所によって異なるのは当然であるが,同一の場所でも毎年決して一定ではない。しかし,その変動は毎年ある決った幅のなかにあり,1年の周期で繰り返すのが普通である。気候とはある場所または地域において基本的にはこの1年の周期で,毎年順序を追って繰り返される,最も確率の高い大気の総合状態である。

 気候と同様大気の状態を表すことばとして気象・天気・天候がある。それぞれ少しずつ意味が異なる。天気とはある時刻または時間帯,つまり1時間からせいぜい数日程度の気象状態をさし,天候は天気より長い期間,数日から数カ月程度の天気の状態を意味する。さらに長期間の平均状態を気候という。以上の状態を含め,大気中で生起している物理現象を気象という。しかし,通常気象といった場合には,現に生起している大気中の物理現象,すなわち大気の運動そのものをさし,必ずしも特定の場所や総合状態を考える必要はない。気候は特定の場所に結びついた大気の総合状態という点に大きな違いがある。広義には気候は気象に含まれるが,狭義には気象の集まりが気候ともいえる。それは両学問の発展過程からも明らかである。気象学は物理学の,気候学は地理学の一分野としてそれぞれ発展してきた。つまり,大気現象の集積したトータルがその場所での気候特性で,人間活動の重要な自然的バックグラウンドの要素の一つを構成している。しかし,気候学・気象学の進歩で,現在学問としての差はなくなりつつある。

 気候(climate)とはもともとギリシア語のklinein(傾く)に由来し,太陽光の入射角の傾きを意味した。ヨーロッパ人は古くから南北への移動を頻繁に行い,緯度の違いによる太陽光の入射角の違いを認識し,結果としてklimata(緯度帯)の概念から今日の気候帯の考えを生んだ。一方,中国では北や南は蛮族の国とされ,主として東西の交流が卓越し,さらに主穀農業であったために,季節変化に強い関心が払われた。その結果,24節気72候という農事暦が生まれ,わが国にも伝来し,立春・春分・啓蟄(けいちつ)・夏至・秋分など現在でも一部は使われている。結局,前者は地域(緯度)による差から地候といい,後者は季節による差で時候という。現在の気候は両方の概念を含んだものといえよう。

【気候の成り立ち】地球は太陽系のなかの一つの惑星で,ごく最近の人類が解放しているエネルギーを除けば,その営みはすべて太陽エネルギーによって支えられていると考えてよい。地球は太陽から放射エネルギーを受け取り,吸収したエネルギーに相当するエネルギー量を宇宙空間に放出し,惑星としての放射平衡を維持している。地球は宇宙空間とのあいだに放射エネルギーのやりとりがあるだけで,物質のやりとりはない(隕石や宇宙ロケットは無視できる)。ゆえに地球は閉じた系という。

 地球は惑星としては放射平衡が成立しているが,地球-大気系内では地球が球であるため太陽光は均一に照射しない。必然的に緯度による差が生じる。つまり,気候の地理帯分化が生じる。また,地球の自転軸と公転軸が傾いているために,公転軌道上の位置で太陽高度が異なり,季節が誕生する。昼夜の区別つまり日変化は地球自転の結果である。

 以上のように,地球表面が受け取る太陽エネルギーに差異があるので,この熱的差異をなくし,均一化をはかるように地球-大気系内を熱が流れる。大気現象や海流はこの熱的不均一を解消するための運動であるととらえることができる。そして地球にとって重要なことはこの大気や水が存在することである。もし大気と水が存在しなければ,赤道と極との温度差は非常に大きくなると同時に温度分布も単純なものとなる。

 大気や水の存在が地球の気候をより温暖かつ複雑化している。大気上限に到達した太陽エネルギーの約半分は地表面に到達するのに対し,地表面から射出される赤外放射の大部分は大気に吸収され,一部は再び地表面に放射されるので地球-大気系内に貯留される。これを大気の温室効果という。また,水の存在が気温の南北差を小さいものにするなど緩和作用も有している。水は氷−水−水蒸気のいずれの状態でも存在でき,そのあいだを移動するとき潜熱の得失が行われることが重要である。結局,地球上に熱と水が不均一に分布し,この不均一な分布を解消するように熱と水が地球-大気系内を循環し,さまざまな大気現象を生み出している。その最も大規模なものが大気大循環と呼ばれる全地球的規模の循環運動である。単純にいえば,熱帯で蒸発した水蒸気が高緯度地方に運ばれ,そこで凝結すれば潜熱を放出する。つまり,熱が運搬され,温度を均一にする作用をしたことになる。

 大気中の水蒸気や雲を運ぶのは風で,風は不均一な気圧場に起因して生ずる。不均一な気圧場は太陽放射エネルギーの不均一な分布に原因している。結局,熱と水の大規模な循環は大規模な風系によって規定されるので,大気の大循環を大規模な風系とすることもある。大気の大循環でもう一つの重要な要因は地球の自転である。気球の自転によって生ずるみかけ上の力をコリオリの力といい,気圧差によって生ずる気圧傾度力とつりあう形で風は吹く。上層の風はおもにこのような原因で吹いている。定常的な状態では,赤道付近に低圧帯が生じ,15〜25度の緯度圏に高圧帯ができ風が吹き出す。高圧帯から極に向かって吹く風はコリオリの力によって偏西風,赤道に向かって吹く風は偏東風となる。また,極側から亜熱帯低圧帯に吹き込む風は偏東風となる。以上の関係を子午面循環とともに示したのが大循環の風系図である。

【気候因子と気候要素】熱と水が地球-大気系内を循環するに従って水陸の分布や植生などによって地域差が生じ,その結果が気候的差異となって出現する。このように気候に影響を与える物理的要因を気候因子という。そのおもなものは緯度・海抜高度・水陸分布・地形・位置・植生・被覆・海流などである。気候因子はある場所の気候の地域的特性を決定する比較的永続的な要因で,気候のスケールにより因子も異なってくる。たとえば,大気候の分布は緯度・水陸分布と東岸・西岸の位置の違い,大山脈の存在などによって規定される。一方,気団の海流による変質,海岸の海陸風,都市気候など中小スケールの気候にはそのスケールに対応した地形や地上被覆が気候因子となる。

 最も確率の高い,大気の総合状態である気候を理解するには,それを構成している各要素に分解したほうがわかりやすい。この分解された個々の要素を気候要素という。おもなものは気温・降水量・風・雲量・視程・日射・日照・蒸発散などである。以上の気候要素は熱環境を表すもの,水環境を表すものと,熱と水を運ぶ風の三つに大別できる。それゆえ,熱と水の組み合わせである気候を最もよく表現するものとして気温と降水量を2大気候要素という。

 気候要素は気象観測によって求められるが,なんらかの総合的操作(平均値・最大値・最小値など)を加えてあるのが普通である。通常平年値として30年間の気候値を用いるが,これもその一つで,WMO(世界気象機関)によって決められている。

【気候の表現方法と気候区分】気候を多要素に分解して理解すると述べたが,大気の総合状態をどのように表現したらよいかという問題が残る。多数の要素を単に集めただけでは完全に総合状態を表したことにはならない。結局,目的に応じていくつかの要素で組み合わせで表現するのが実際的である。さまざまな気候示数があるが,2大気候要素の気温と降水量を利用したものが多い。代表2例を示す。

 気温のみを気候表現に使った示標は吉良竜夫による暖かさの指数(WI℃・month)・寒さの指数(CI℃・month)が有名である。月平均気温について前者は5度を超える値の月に対し,後者は5度以下の値の月に対して,おのおの5度との差を年間を通して積算したものである。これは積算気温の一種で,計算が簡単であり,その特定値は植生分布の境界線とだいたい一致することからよく利用されている。気温(T)と降水量(P)の組み合わせではラングの雨量因子 R=P/Tは土壌分布とのよい対応で知られている。同種類のものにド=マルトンヌの乾燥示数やソーンスウェイトのPE示数などがある。いずれも植生や土壌分布などとの対応から気候示数を見出すという経験的な方法である。

 日々の天気の長年にわたる集積の結果が気候であるという動的ないし総観的な立場がある。毎日の天気は大気の総合状態の表れであり,天気図に代表されるように,気圧分布・気団の位置・大気大循環の模様などの多くの情報を総合的に表現する方法である。気温や降水量などの条件は天気図型に対応して決まるので,天気図型の出現頻度,天気図から判断できる気団や前線の位置と頻度を通して気候を理解する方法で,天気図は別名総観図ともいう。ごく厳密に微細な差異まで問題にするならば,まったく同一の気候を示す場所は世界に二つとはない。しかし,気候を把握し,利用する場合,ほぼ類似した気候が出現する範囲を一つの地域にまとめ,適当ないくつかの地域に分類したほうが便利である。気候をなんらかの基準によって分類し,類似した気候の出現範囲を定め,いくつかの気候地域に分類することを気候区分という。この分類された各気候類型を気候型,各気候地域を気候区という。なお,緯度や地形・海抜高度などの気候因子によって生ずるある特性をもった気候のおもなものを気候型と呼ぶこともある。たとえば,海岸気候・大陸気候・都市気候などである。

 気候区分の方法は対称とする地域のスケールや区分の目的によって異なるが,大別して二つの観点がある。その一つは気候をよく反映していると考えられる植生や土壌などの分布にみられる不連続に注目し,その不連続とほぼ一致するような気候示標を見出し,区分する経験的ないし帰納的方法である。もう一つは気候特性をつくりだしている大気大循環や気団などの分布に認められる不連続線をもとにする成因的ないし演繹的方法である。気候自体がもつ不連続をもとに区分するこの方法が本来理にかなっているが,大気は連続で,気候には縫い目がなく,不連続線の確定は非常に困難である。次に代表的気候区分をおのおの一つずつ示そう。

 気候区分のなかで最も有名なのはケッペンの方法であり,部分的修正で現在も広く利用されている。経験的な方法の代表例である。ケッペンは世界的な規模での植生分布が大気の総合状態の反映であるという仮定にもとづいて植生分布の境界とほぼ一致するような気候値を設定し,区分した。まず,世界を樹木のある地域とない地域,すなわち樹木気候と無樹木気候に大別した。前者は樹木の生存に十分な熱と水を有する地域で,後者はそのいずれか一方あるいは両方を欠く地域である。次に樹木気候は気温(寒暖の差)により,無樹木気候はその原因により分類し,さらに降水の季節配分で細区分したものである。成因的方法によるものはアリソフの気候区分がよく知られている。彼は大気大循環との関連において形成される主要気団とその境界にあたる前線の位置の季節変動に注目して気候地域を設定した。まず,赤道気団・熱帯気団・中緯度気団・極気団の四つの主要気団を設定し,同一気団に一年中支配されるところと,夏と冬では入れ代わる中間的な漸移地帯とに分類し,七つの大気候帯に区分した。さらに,地表の状況により大陸性と海洋性,大気大循環の作用により東岸型と西岸型,地形によって平地の気候と山地の気候などに区分する。

【世界の気候・日本の気候】世界の気侯について最も一般的なケッペンの気候区分に従って簡単に特徴を述べよう。この分類はすでに示したように五つに大別されるが,天文学的な区分である熱帯・温帯・寒帯にある程度対応しているので便利である。ただし,温帯は温帯気候と亜寒帯気候に分割され,熱帯と温帯の中間に主として亜熱帯高圧帯と関連して形成される乾燥気候が加えられる。極気候寒帯気候と考えてよい。

 [1]熱帯気候は最寒月の平均気温が18度C以上の地域とされるが,ほかに気温の年較差の平年値が日較差の平年値よりも小さい範囲と規定する方法もよく使われる。つまり,熱帯での気温年変化は非常に小さく,一年中ほとんど同じと考えてよい。一方,日変化の方はかなり大きく,夜間は気温が相当降下するので,日変化のほうが大きくなる。“熱帯には冬がない”とか“熱帯の冬は夜である”といわれる所以である。熱帯気候地域は全地球面積の約36%を占め,気温以外の気候要素の特性はさまざまである。とくに降水特性によって明瞭な地域差が現れ,熱帯気候地域の細区分は降水の季節配分型でなされる。これはITCZ(熱帯内収束帯)の影響が通年の場合は年中多雨,季節的な場所は雨季と乾季の出現を意味する。

 [2]乾燥気候は水が不足する地域で基本的には年間の蒸発散量が年降水量を上回る条件下の気候と定義される。亜熱帯高圧帯に関連する乾燥地域は大循環風系の下降気流地域に相当し,南北両半球とも緯度にして約15〜35度のあいだにひろがっている。それより高緯度における乾燥地域は大地形と関連して現れる。つまり,卓越風に対し風上側に高い山脈がある内陸域では海洋からの水蒸気が到達しにくいためで,ユーラシア大陸と北米大陸の内部にみられる。

 [3]温帯気候は熱帯・寒帯両気候地域の移行地帯ともいえ,熱帯気団と寒帯気団の交代が1年のあいだにみられる。その結果,日々の天気変化や1年間の季節変化にも両気団の勢力の消長が反映される。温帯気候は1年のあいだに熱帯的な暑さと寒帯的な寒さを有すのが特徴で,大気大循環の面からは熱帯から極地方へ向かって大量の熱が運ばれる経路に相当する。熱の運搬は空気や水の運動による。気温の南北傾度が大きくなる大陸の東岸地域では温暖湿潤な空気が侵入し,年間の降水量は多くなる。温帯気候はこのような降水の季節配分から,一年中雨の多い温帯多雨気候,夏に雨が多い温帯夏雨気候,冬季に多い温帯冬雨気候に細分される。

 [4]亜寒帯気候は温帯と寒帯の中間にある気候帯をさし,一年中寒帯気団の影響下にあり,冷帯気候ないし冷温帯気候とも呼ばれる。特徴は夏と冬の日照時間差が大きいこと,北半球では最大の大陸がこの緯度に位置することから気温年較差がきわめて大きいことである。たとえば,寒極として知られるシベリアのベルホヤースク(北緯67度33分,東経133度23分,高度137m)では1月の平均気温−46.8度Cに対し,7月は15.7度Cである。夏は日照時間が多く,気温もかなり上昇するので植物の生長が可能となる。南半球ではこの気候が出現する緯度に陸地がほとんどないので居住空間としての亜寒帯気候は存在しないといえる。

 [5]極気候寒帯気候ともいい,極を取り巻く,最も高緯度に位置する。数理気候的には極圏より高緯度の部分をさすが,森林の極限界に対応する最暖月の平均気温10度Cの等温線が一般に亜寒帯気候との境界とされる。夏季の日射は大部分が氷雪の融解に使われ,気温はあまり上昇しない。年間を通して雪氷に被われている氷雪気候と夏季に地表の雪水が解け,蘚苔類などが生育するツンドラ気候に分類される。

 日本の気候は地理的位置関係によって特色づけられる。つまり,中緯度に位置するので熱帯・寒帯の移行帯としての特性を有し,大陸東岸に位置するので東岸気候の特徴も有している。

 日本の気候は明瞭な四季をもつ上に,冬の季節風・初夏の梅雨,夏から秋にかけての台風でより一層特徴づけられている。冬の季節風は寒帯気団の侵入であり,梅雨は寒帯気団と熱帯気団を境とする不連続線の停滞で,両気団のせめぎ合いを意味し,台風は熱帯の擾乱活動の温帯への侵入である。以上のように日本の気候はさまざまな気候特性の複合で,それだけ季節感に富んでいる。また,気候の成り立ちからは年間を通じて熱も水もかなりよく配分された状態にあるといえる。

【気候と生活】人類の誕生自体も気候の産物とさえいわれ,気候が人間に及ぼした影響ははかり知れない。まず,人類の誕生は200万〜300万年前ごろ熱帯密林地域に住んでいた猿が長期間の乾燥化に伴い樹上生活から徐々に地上生活へと移行していく過程で二足歩行になり,手と足の機能分化が生じた。さらに,餌の獲得のために知能の発達・道具の使用と直立歩行がたがいに影響し合い,人類へと進化したといわれる。人類の誕生以来,気候を克服・利用しようとしてきた歴史が文明ともいえる。古代においては食糧の獲得に対し,気候柔件がよりシビアに関係した。一般的には,食糧事情が有利な場合に文明がより進んだと考えられるが,気候の悪化が進歩の原因になった場合もみられる。たとえば,ナイル川やチグリス・ユーフラテス川,黄河の下流域に発達した古代文明の場合も,気候の乾燥化により人々は大河のほとりに集まり,この人口圧が階級社会を生み,文明へと発展したとされる。気候は人間の精神的・肉体的活動力にも影響を与えているが,このような気候と文明についてはハンチントンの説が有名である。彼は月平均気温から求めた作業能率に気温の季節変化と暴風雨回数による指数を加算して人間の気候的活動力を求め,世界27カ国の知識人にアンケート調査をして求めた世界の文明分布図と比較し,温帯地方の高い文明を気候で説明した。さまざまな問題を含んでいるが一つの見方であることも確かである。

 産業革命以来の科学技術の進歩によって生産・商業などの人間活動は気候とは独立に営むことが可能と一見みえるが,現代産業はじめあらゆる人間活動が気候の影響下にある。冷暖房空調完備のオフィスや近代工場でも外界の気候環境に敏感に影響を受ける。人類が文明を誕生・発達させることができたのは自己の身体を変化させず,ほかの物体(たとえば道具)を自己の身体の延長として利用してきた結果ともいえる。また,単に利用するだけでなく,人類の生物体的繁栄にとってより有利な条件に改良する知恵を身につけたことである。

 人類の気候改良は農耕の開始により本格化した。古代文明の発祥・発達にも灌漑などの気候改良が重要な役割を果たしている。気候改良は農業生産物の増加と生活環境の改善を目的に行われてきたが,科学技術の進展で非常に大規模化した。歴史的には小規模な微気候の改良から始まり,局地気候・地域気候の改良へと進み,さらに大気候ないし地球全体の気候を改造・制御しようとする考えまで生まれた。しかし,現在では地球規模の気候を制御するという自然を恐れない考えは否定されている。

 以上は人類の意志にもとづいて気候をよいほうに改変しようとする考えで人工降雨の実験なども含まれる。一方,地球上の人口が増大し,人間活動が集積して行われるようになると,意図しないのに,気がついたら改変していたということがある。たとえば,都市気候や大気汚染で,これは人類が意図的に改変したものではない。このような改変をインアドヴァーテントな気候改変という。化石燃料の消費増大に伴う炭酸ガスの増加で地球が温暖化するというのもこの典型例である。人類は気候を改良し,利用しているが,つねによいことばかりではない。ときに強烈な報復を受ける。これが災害である。気候による災害には先に述ベた2大気候要素のいずれかが極端な値をとるものと,激烈な気象現象によるものとがある。前者は熱不足で生ずる冷害と熱過剰でおこる干害が典型例である。干害は旱ばつによる被害で,古くは大飢饉をもたらしたが,水があれば熱は十分なので,灌漑設備が整備された現在,わが国では旱ばつはむしろ豊作になる。世界的にはアフリカの乾燥地域などの砂漠化現象のように深刻な問題である。後者は台風・集中豪雨・強風・雷などによる被害である。とくに台風は日本の気候を特徴づけていると同時に,大被害をもたらし,物心両面に影響を与えている。近年大きな被害をもたらしているのが集中豪雨で,都市化の進展や開発との関連で発生することが多い。

【気候変化と異常気象】気候現象には時間的・空間的にさまざまなスケールがあることはすでに述べたが,その変動にもさまざまなスケールのものがある。最も顕著な変動である日変化と年変化は地球の自転と公転運動によるもので,最も基本的な気候のリズムで,気候変化とか気候変動とは呼ばない。気候変化は対象とする時間スケールで整理される。ある時間内で繰り返し出現する現象を気候変動,対象とする時間スケールのなかで完結せず,再現性のないものも含めて気候変化と定義する。気候変動は通常30年またはそれ以上の期間の平均的気候の変化とも定義され,気候の平年値からかけ離れた気象値をもたらすような現象を異常気象という。過去30年とは気候要素の平均値の時間的・空間的比較をするために定めた期間である。現在は1951〜80年の30年を基準としているが,10年ごとに10年ずらした30年間をとることに決められている。

 気侯変化には現在二つの問題がある。一つは人類のエネルギー消費量の増大による炭酸ガスの増加と熱汚染であり,もう一つは地球自身による気候変化である。後者は氷河時代の到来を予想するものである。前者は今世紀初め約300ppmであった大気中の炭酸ガス濃度は現在約340ppmで,21世紀半ばには600ppmに達すると予測,その結果2.5〜3.8度の気温上昇が推定されている。人間活動の最終的結果は熱として空間に放出されるので,熱汚染は最後の公害ともいわれる。結局は人間活動の量が最終的に問題となる。

 異常気象は大気の大循環の変動と関連して発生する。極端に寒かったり,暑かったりする天候が持続すると異常気象となる。同じような天候の持続性は上空の偏西風の流れによって決まる。東西の循環が卓越する場合と,偏西風が弱くかつ南北への蛇行が卓越する場合とがある。この気流の南側か,北側に位置するかで天候に大差が生じる。異常気象はどちらの型でも1カ月以上持続すると発生する。1カ月以上持続させる要囚は大気自身の特性によるという説と海面水温の異常や火山噴火など地球を取り巻く環境条件のなかにあるという説がある。

 近年最も注目されているものに海面水温の異常であるエル=ニーニョ現象がある。エル=ニーニョとは元来南米ペルー沿岸を流れるフンボルト海流がクリスマスの季節に一時的に弱まり,海面水温が上昇する現象を意味した。これは通常2〜3カ月間で終わるが,ときとして長期間にわたり,アンチョビー漁に壊滅的な被害をもたらす。ところがこの高水温現象が太平洋の赤道海域全体に及ぶ大規模現象であることがわかった。さらに貿易風の強弱や偏西風の変動との結びつきが指摘されるにいたった。このような大気と海洋の大循環の変動が地球各地に異常気象をもたらし,われわれ人間生活に大きな影響を与えている。気候は国際政治の力学関係から,われわれ毎日の衣食住の生活まであらゆる範囲に及んでいる。以上の問題は気候研究の新しい動向として今後に残された大きな課題である。

〔参考文献〕福井英一郎・吉野正敏編『気候環境学概論』1979,東京大学出版会

水山高幸他編「III章大気と気候」『風土の科学I』1982,創造社

西沢利栄『熱汚染』1977,三省堂

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