●カーニバル
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謝肉祭と訳されている。復活祭(イースター)をひかえて行われる,キリスト教徒に特有な開放的な馬鹿騒ぎ。イースターの前40日間を四旬節と呼び,イエス=キリストの受難やその宗教的な修行をしのぶためにこの期間キリスト教徒は大いに自らを省みて懺悔(ざんげ)を行う。また獣肉を絶つなどの精神行為を課す。この苦行の季節を前にして,盛大に肉を食べ,かつ楽しく遊ぼうとするのがカーニバルで,四旬節の1週間前から3日前ぐらいのあいだに行われる。転じて華やかな催し事や底ぬけのお祭り騒ぎを総称するようにもなった。アメリカはスポーツ・芸能における旅興業の盛んな国だが,俗語としてサーカスなどの見せ物やその業者たち,その興行の行われている場所をカーニバルと呼ぶこともある。カーニバルの語源は,carne vale(肉よ,さらば)あるいは,carnem levare(肉を減らす)とみられている。いずれもラテン語。キリスト教の初期,古代ローマ人がもち込んだしきたりで,もともとはローマ時代の冬至のお祭りであった。ローマの冬至の祭りは,つまりは農業の祭り,収穫祭,収納祭であって,農神サトゥルヌス(Saturnus)をたたえる行事である。ここからカーニバルとクリスマスの双方が始まった。すなわち当初は12月25日から始まる新年のお祝いと十二日祭の二つの性格をもっていたものが,気候や民族性のゆえもあってか,ヨーロッパ北部では静かで宗教的な雰囲気を伴った家庭内の行事としてクリスマスに定着し,南部ラテン的世界では陽気な戸外での大騒ぎであるカーニバルとなった。現在,カーニバルの例としてはイタリアのフィレンツェ.南フランスのニース,ドイツのケルン,スイスのバーゼル,ブラジルのリオデジャネイロのものが世界的に有名である。とくにリオのカーニバルは,有名な観光名所でもあり,踊り子たちが日本に招かれ興行を打ってもいる。またニースでは,とくに「花合戦」と通称されている。リオのカーニバルの,何日もぶっ続けで踊りあかすエネルギッシュな風景はよく知られているが,一口にカーニバルといっても時代により,また国によってさまざまである。起源以来の行事としては,仮装や仮面をした人たちの行列,それに「カーニバルの王」と呼ばれるさまざまな張り子の偶像がつきものである。また,古代以来のさまざまな民俗の古層がカーニバルに付随して残っている。たとえばイタリアの各都市には,懺悔火曜日(四旬節の始まる前日)の夜,人々が小さなろうそくを手に集まり,できるだけ多く他人の火を吹き消すように競うという古い風習が残されており,またドイツ,ライン地方のいくつかの都市では,四旬節の前夜に行われた原始的な芝居から仮面劇といくつかのミステリアスな宗教劇が発展した。今日の日本では催事や行事全般をさすことばとして有名になりすぎたあまり,本来の意味が見失われてしまったが,国際的に観光化してもやはりそこにはキリスト教徒にのみ感受される特有な宗教的感慨があることが忘れられてはならない。カーニバルから四旬節,イースターと続く季節は四季の盛衰とキリストの再生を重ね合わせた特有な死と生の観想のときであり,断食(実際は肉食絶ち)を前にしたイースターの解放は,死と背中あわせな生の昂揚といった宗教的感銘と重なっている。生きとし生けるものとしての肉体がとくに強く実感されるときであるだけに,とりわけ官能的な祭りとなるのである。少年の夢をファンタスティックに描くアメリカの作家レイ=ブラッドベリが,カーニバルを好んで取り上げるのはこのためであろう。
また往年のフランス名画『黒いオルフェ』は,カーニバルにおける生と死の幻想的な二重性と,それによる官能のたかまりを印象深く描きあげた作品である。この『黒いオルフェ』から生まれた有名なジャズの名曲が,かの有名な「カーニバル」である。