50音順    検 索

●家政教育学 かせいきょういくがく

アジア 日本 AD 

 家政教育に関して理輪的・実践的研究を行う教科教育学の一分野。この名称は「家庭科教育学」と併行して,おもに,教員養成大学系で学科目や授業科目として使われている。

【家政教育学と家庭科教育学】「家政教育学」と「家庭科教育学」とは,その教育段階によって区別される。「家庭科教育学」が小・中・高の学校教育段階における家庭科教育・研究の学であるのに対して,「家政教育学」は,家庭教育・学校教育・社会教育の各段階を総括した生涯教育の視点をもつ教育・研究の学である。家庭教育段階では,乳幼児・児童だけでなく,青少年・成人・老人をもその対象とし,学校教育段階では,幼稚園・保育所から大学・職業専門学校まで対象にする。また,社会教育段階は,幼児・児童・青少年・成人男女・老人にいたり,家庭教育と学校教育,学校教育と杜会教育による家政に関する教育との連続と発展という部分を総合した体系をもっている。したがって,家庭科教育を対象とする「家庭科教育学」はこの体系に包摂されるが,「家庭科教育」の理念や内容,研究に関しては「家庭科教育学」の研究者によって誘導されている。

家庭科教育学の成立】小・中・高校における家庭科教員養成のために大学では「家庭科教材研究」,「家庭科教育法」などの授業科目が開設されており,教授−学習過程を効果的に推進させるために必要な方法上の原理を明らかにする研究に焦点があてられているが,この方法原理の妥当性を実践によって検証し,教科指導の知識・論理体系の樹立をめざす「教科教育学」の必要性が台頭し,1966年(昭和41)に教育大学協会教員養成課程研究委員会によって「教科教育学」の概念が規定された。これを受けて「家庭科教育」に関しても「家庭科教育学」の確立が志向され,1969年,同じく教育大学協会の一組織である第二部会に所属している家庭科部門において〈家庭科教育学は,家政学および教育諸科学を基盤とし家庭科教育の本質に関する研究と,教授・学習過程の分析および構成に関する理論的・実践的研究をおこなう科学である〉という概念が公的見解として成立した。「家政教育学」は家庭科教員養成にとどまらず,家政教育の指導者・研究者の育成をも包括するが,その概念は上記の見解と同様であり,「家庭科教育学」の成立は「家政教育学」の成立でもある。爾後,家庭科教員養成機関では家庭科教育学科の学科名が誕生し,また,小・中・高校教員の枠を越えて,家政に関する指導者養成機関では「家政教育学」の議座名・授業料目が設置されるにいたる。

【家政教育学の構造】「家政教育学」は,家政学と教育諸科学との交錯領域に位置づけ,家政学は家庭生活認識からの接近をもって,教育諸科学は人間の陶冶・訓育からの接近をもって統合的な関係の領域を形成する。この領域は,[1]家政教育実践基礎論(家政教育原論・家政教育史・比較家政教育など),[2]家政教育内容論(教材構造論・教育内容論),[3]家政教育方法論(学習指導方法論・評価論),[4]家政教育実践論(授業分析・教材研究法)の各学科目で構成される。

【家政教育学の独自性】小・中・高校の家庭科は理科や社会科と重複する教育内容だと指摘されるが,各教科が生活主体者としての人間の育成をめざすなかで,人間生活の具体的な表現である家庭生活について教育としての対応を考えているのが家政教育(家庭科教育)である。すなわち,〈家庭生活を中心とした人間の生活を総合的にとらえて,これを追求し創造する実践的能力をもつ人間の育成〉をはかることを家政教育・研究の目的・対象としている。家庭生活は人間の生活の基盤であり人間主体の生活の場である。この家庭生活は環境と相互的な関係をもって成り立っている人間の生活そのものであるという見解に立って,単身者や家庭に準ずる集団生活をしている人々の生活にもこの考えを延長する。〈総合的にとらえる〉とは,家庭生活は総合的な性格をもち,生活運営は各生活部門である食・衣・住その他のおのおのが総合して成立っている。したがって,家政教育の学習構造も知識と体験,知識と技能・態度を物質的・精神的に融合させ,理科や社会科をはじめ他教科で学習した知識・技能をも統括して考えられている。〈実践的能力の育成〉とは,単なる技能習得ではなく,家庭生活の目的を実現するために最も適合した手段を選択して行動する能力を育成することであり,その能力は創造的能力,意思決定力(洞察力・選択力・判断力・実行力),生活技術・技能を指し,総合の論理を基盤にして家政教育を構想し,学習過程を統合した具体的な学力としての実践的能力を育成する。“生活する”行為には技術・技能が必要であることはいうまでもないが実践の発展過程では理論がその指針を与え,技術・技能が実践の能力を発揮する学力として評価される。いわゆる理論の主体化・行動化であって,技能だけがひとり歩きをした前時代における家事・裁縫科のように巧緻性を追求した技能教育を脱皮するところにも家政教育学研究の真価が問われている。また,この目的的・意識的行動としての実践的能力を方向づけるのは“家庭生活の本質の理解”であり,この解明には家政学に負うところ大である。家政教育学は生活者の生涯教育に対応する科学として各生活段階あるいは発達段階の生活課題・学習課題と学習要求を見通しながら教育目標・内容のスコープとシークエンスを提供しなければならない。

【外国における家政教育(学)】わが国の家政教育(学)とその研究に大きな影響をあたえているアメリカ合衆国の家政教育(学)を紹介する。アメリカ合衆国の家政教育は,当初は主として農業の発達,移民の都市集中化による物資や生活問題から派生して発展し,1800年後半には生活資源中心の教育から人間中心の時間・能率の教育内容へ移行して科学的な家政思想の育成をめざしてきた。また,1800年前半から始まった家政教育に関連する社会運動によって家政教育は学校においても杜会においてもともに促進されてきた。発達的区分では[1]貧困階層の子女に生活改善を指導した時代,[2]国民生活改善運動の一環として農村生活の改善をめざした時代,[3]広く一般家庭を対象に有能な父母養成をめざした時代に分けられ,区分にみられるように社会的要請にこたえて発展してきている。アメリカの家政学や家政教育(学)の飛躍的発展の基礎は1899〜1908年にわたるレイクプラシッド会議の結果である。その会議は家政教育が学校教育にも成人教育にも広く浸透しており,統一的な考え方と行動に向う組織化の必要からであった。この会議では〈家庭は社会の有機的な単位であり,その生活水準の向上は社会全体のシステムの向上につながる〉という発想から,保育所・幼稚園から大学・大学院にいたるまで家政教育(学)の基本的な構想が提唱され,各段階の学校・大学のカリキュラムをはじめ,教育行政・設備・予算にいたる広範囲の問題が討議された。高等教育機関における家政教育(学)の新しい出発と家政学の教育・研究の発展の根幹が形成されたことは特記すべき事項である。アメリカの教育権限や学習指導要領は各州固有であるが,全米的な家政教育の手引きとして,アメリカ家政学会が州立大学をはじめ教育関係者の協力による全米的規模での研究成果であるワークショップのまとめとして『概念と通則:中等学校家庭科カリキュラム開発における概念と通則の位置』(1967)があり,また,『家庭科の新指標』(1959)があげられ,以後の教育改革でも基本になっている手引き書である。前書では家庭科を5分野で組織し,各分野ごとに習得させるべき基本概念と概念の具体化をもって家庭科教育の構造を示しており,各州でこれを基本にしてカリキュラムが開発されている。

〔参考文献〕日本教育大学研究促進委員会編『教科教育学研究』1984,第一法規

日本家庭科教育学会編『家庭科教育の構想研究』1977,山崎印刷

松下英夫『ホームエコノミックス思想の形成と発展』1976,同文書院