●学際科学 がくさいかがく
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今世紀初頭までの伝統的な学問区分からは,特定のカテゴリーに入らない研究領域(境界領域)や,複数の領域にまたがる研究領域を扱う科学。また,人類の全面的な福祉実現のために,意識的に諸科学の統合をめざす科学を意味することもある。【問題意識の展開】近代において科学・技術の細分化に初めて明晰に疑義を表明したのは.市民社会形成期の18世紀フランスの百科全書派である。ディドロ・ダランべールらは,当時の封建社会のなかで生産技術・経験科学が不当に軽視されていることに反発し,諸科学の調和的な統一をめざして『百科全書』を刊行した。百科全書は,元来は「諸学を一つの輪に結ぶ」ことを意味している。図版・索引を合わせて全35巻のこの『百科全書』は,1751年から約30年をかけて出版されたが,社会啓蒙的には意義の大きいものであった。しかし,その問題意識は社会的要求を背景としたものであり,学際科学としてよりはむしろ総合科学としての色彩の強いものであった。本来の学際科学の意識・要求が現れるのは,19世紀の極度に専門化した個別科学に対する理論的・実際的な反省をへた後である。その典型的な一例が,1930年代のウィーン学派にみられる。専門化が直接に深化に結びつくものではないとみた彼らは,多分野の研究者の協力による科学の方法論的反省の上に,数学・論理学を共通の基盤として.諸科学の新しい発展の方向を模索したのである。彼らの企図した〈統一科学の運動〉は,第二次世界大戦によって挫折したが,その問題意識は現在に継承されている。今世紀中ごろのノーバート=ウィーナーらによる「サイバネティクス」の思想には,注意しておく必要がある。彼は,フィード=バック機構による統御と情報伝達の体系として,さまざまな機械・エレクトロニクスを考えるとともに,生物や人間の機能・行動,さらには経済的・社会的な諸機構をもサイバネティクスの観点から理論化できることを示唆している。
【学際科学の成立】問題意識は潜在的には古くからあったが,現実に学際科学が機能し,学問としても認知されるのは今世紀後半のことである。近代の経験科学の発達が“物理学→生物学→心理学→社会学”の順であったのに相応して,学際的相互関係が成立するのも,ほぼこの順である。まず,現代物理学における相対性理論と素粒子論の展開を背景にして,ミクロの世界へと視野を拡大した化学・生物学系の諸科学の飛躍的な発展がある。一般的には,学際科学の最初の形態は,たとえば物理化学や分子生物学のように,他領域の理論や方法を導入したものである。ついで,両領域のより密接な融合態として,生化学や心理社会学のような複合科学(ハイフンで結ばれた科学)が成立する。今世紀後半での特徴は,単に自然科学の諸領域間にとどまらず,社会科学・人文科学をも含む広範囲な学際関係が実現しつつあることにある。またその基盤として,理論的には情報科学の諸分野の,技術的にはコンピュータに代表される情報機器の驚異的な発展は注目に値する。
【今後の展望】学際科学の動機の一つは,科学の専門化に由来する独善と視野狭搾に,近代の人間疎外の重要な一因をみたことにある。学際科学が科学の閉鎖性を超克して発展するためには,諸科学の統合の根底の原理として,人間存在の全体への関心が必要である。それは,広い意味での哲学的関心の要請である。現在,理論的には,科学の方法論的問題意識は科学の哲学としての性格を徐々に強めてきている。他方では実際的な要求にも影響されて,生命倫理学や人間科学の重要性の認識も強まってきている。これらの領域の研究は,現段階ではいまだ端緒にあるとしかいえないが,今後の発展が最も期待されている分野である。
〔参考文献〕ディドロ・ダランべール編『百科全書』1971,岩波書店
ウィーナー,池原他訳『サイバネティクス』第2版,1962,岩波書店