●親分子分関係 おやぶんこぶんかんけい
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親分子分関係(親方子方関係)は,親族関係としての親子関係を変更することなく,それに加えて新たに家族外において締結される親子関係に類似した関係である。もともと親子関係にない者が,一定の手続きを経て親子関係に類似した関係をとり結ぶことを,一般に親子成りといい,親子成りによって成立する関係を仮の親子関係・親分子分関係・擬制的親子関係・儀礼的親子関係などと一般に呼んでいる。これらは日本の極めて広い意味をもつオヤコ関係の一種である。またこうした関係における親をオヤブン(親分),オヤカタ(親方)カリオヤ(仮親),子をコブン(子分),コカタ(子方),コと呼ぶ。親子成りによって設定されるのは,法的な親子関係とは異なるから,養子縁組による養親子関係とは,社会的意義が全く異なる。親分子分関係が締結される契機は大別して二つあり,第1は出産・命名・成人・結婚など通過儀礼のさまざまな段階に行われるものであり,こうして関係をとり結んだ親にはトリアゲオヤ,ナヅケオヤ,ゲンプクオヤ,ナコウドオヤなどがある。第二はヒロイオヤ,ワラジオヤのように通過儀礼の段階にはとくに関係なく,子供が病気がちでよく育たないとか,新しく村に転入してきた場合に行われるものである。しかしいずれの場合においても,親分子分関係は,ある人間が新しい社会的状況に直面したときに行われるというのが一つの大きな特徴である。この意味で親分は,子分にとって新しい社会的状況への媒介者・援助者なのである。
親分子分関係締結の手続きとしての儀礼には,仲介者・締結儀礼・披露などの諸側面があり,この点では婚姻儀礼に極めて類似している。依頼は日本ではごく一部の事例を除いて子分の側から行われ,このとき仲介者を立てる例がある。たとえば茨城県では,この仲介者をナカダチニンと呼ぶ。親分子分関係の締結儀礼では,多くの場合オヤブンの家でオヤコのサカズキを交わすのが中心である。たとえば,成人にあたっての元服・カネツケの祝いが,かつて結婚式よりも盛大に行われた対馬では,このときゲンプクオヤ,カネツケオヤをとるが,このときコに盛装させてオヤブンの家でオヤコサカズキを交わす。この儀礼への参加者はオヤブン夫婦・コのほかに,親類の2組の夫婦・酌取娘が必要で,数日前から料理をつくるなど重要な儀礼であった。オヤコサカズキののちには親類・村人への披露も行われた。親分子分関係締結の村人への披露としては,赤飯やまんじゅうを配ることが多くの地域で一般的に行われている。
このように実親以外の者との間にさまざまな親分子分関係を締結し,一種の親子関係を設定する社会的意義は,次の三点に求められる。第1には親分子分関係が,子分側における何らかの社会的劣位状況を親分子分関係の締結によって克服することを直接的な目的としている点である。たとえば仲人親は,個人が結婚を経過して新しい生活に入る際の不安と危険に満ちた劣位的状況を,結婚の際のとり結び役である仲人を親分として生活のさまざまな面において援助を得て,劣位な状況からの克服をめざすものと考えられる。この点は,子供の身体が弱いときや親の厄年に生まれた子供にとるヒロイオヤは,とくにこのような劣位な状況が強調され,オヤブンをとることに呪術的意味が付加されている。第2はこうした社会的劣位状況の克服がコブンの帰属する家族以外の人をオヤブンにとることによって実現されること,したがって親分子分関係が,家族の枠を超えた関係として成立していることである。この点は子供に対する実親の力の限界をも示している。第3は親分子分関係が何らかの意味における社会的上位者と下位者,すなわち上下関係としてつねに設定されることである。しかしながら,どのような社会的地位の差を背景として親分子分関係が締結されるかは個々の村落において異なっており,この点において親分子分関係は村落構造と密接に関連している。